次世代型プロリーグ構想が頓挫した日本ハンドボールリーグ 中村新代表理事が拾う「火中の栗」
プロ化と「多様性」の二兎を追う
21年12月には新リーグ構想を発表する記者会見が華々しく行われていた 【写真は共同】
「正式な会議体ではないですけど、1月にオーナー会議から修正案を出しました。その中でプロ化に進みつつも、多様性を持った形でもいいのではなかろうかという議論がありました」
少なくとも彼の出身母体である北國銀行ハニービーは事業化、地域密着といった方向に踏み出している。
「プロリーグ化ということもあって、実は北國銀行ホールディングスとして一万人規模のアリーナを(石川県の)小松地区に作りたいと考えています。自らの話ですけど、そういうこともありますから、他企業に関しても、意識改革は十分できているのではないかと思っています」
プロの基準をひとつ提示するなら、それは「試合で稼げる」ことだろう。例えば平均観客数が三桁という状況では、一般的に試合開催の経費が収入を上回ってしまう。つまり「試合をすればするほど赤字が増える」状況だ。
JHLをプロリーグとして成り立たせるなら、チームはある程度まで絞ったほうが合理的だ。財政的に健全で、アリーナなどの興行環境を整備できる、お客を呼べるチーム『だけ』で構成したほうが経営は成り立ちやすい。一方でそのような切り捨てが中長期的にリーグの弱体化を招くという指摘も理解できる。そこは典型的なジレンマだが、中村氏は「多様性」の側に立った。
次世代型プロリーグの構想が頓挫した大きな理由は『資金』だろう。仮に各チームに対して年会費を大きく上回る額を配分できる保証があったなら、リーグの求心力は上がったはずだ。「体制が固まらなければ大型スポンサーが取れない」「収入見通しが立たない状況ではリーグが固まらない」という綱引きが続いたまま、構想は空中分解してしまった。
戦力格差の拡大をどう防ぐのか?
「2024年9月のスタートに向けて、正直もう時間がありません。体育館も来月再来月くらいから抑えないと間に合いません。だからそんなに目新しい形ではスタートできないかもしれませんけど、3年後はこうしましょう、例えば2027年はこういう姿でとお示ししながら、やっていきたいと考えています」(中村新代表)
どんなリーグにも課題はあるが、JHLも課題は山積みだ。それが一概に否とは言えないが、JHLは男女ともに上位チームと下位チーム、企業チームとクラブチームの資金力や戦力の格差が著しく大きい。特に女子は北國銀行がプレーオフを9連覇している。中村氏はこのような私見を述べていた。
「これはもうちょっと勉強しなければいけませんが、社員(=チーム)から基金の積み増しができないかなと今考えています。均一の年会費でまかなおうとすると、(経済力がないチームの負担になるので)上げきれない部分もある。資金を提供できるところから提供して貸し付けて、お返しいただく仕組みが作れればといいなと思っています」
JリーグやBリーグには「公式試合安定開催基金(融資)」という仕組みがある一方で、チーム同士の金銭の貸し借りを禁じている。有力チーム、企業が負担を受け入れるかどうかも含めて精査は必要だろうが、新代表の問題意識は伝わってきた。
代表理事をサポートする体制は?
「私ひとりの力ではなかなか進められない部分もあります。新たな理事の中にはしっかり常勤として勤められる方、私をサポートしていただける方を選任したいと思っております」
どのような人材を想定しているか?という質問に対してはこう答えが帰ってきた。
「スポーツビジネスに精通をしていて、ハンドボールの過去も踏まえて現状をきちんと認識をして、次に向かって考えられる方というイメージです。ハンドボールの世界を卑下するわけではないのですが、まだ脆弱で、これから成長していかないといけません。部活動の地域移行も進む中で、どう子供たちにハンドボールに興味を持ってもらって、どう競技人口を増やすかも一緒に考えていける方。あと財政基盤もそんなに強くない状態ですので、スポンサーの獲得も含めてともに活動できる方をイメージしています」
確かに「スポーツビジネス、ハンドボール界の事情に精通している人材」がいればそれは理想的だ。リーグの事務局も含めて、人材の採用と組織の構築は急務だろう。ただしJHLが負担できる人件費、想定される仕事の難易度を考えると、適材が見つかるかどうか疑問は残る。とはいえリーグの実務を担う人材を呼び込む、資金を集める一手目は決定的に重要だ。
中村新代表はこう述べていた。
「ヨーロッパはハンドボールが盛んですけど、日本で本当にハンドボール競技が生き残っていけるのか?という危機感は強く抱いています」
その危機感は健全だが、悲観や破壊でなく、建設的なアクションを生み出すエネルギーとなることを願いたい。