矢野燿大氏インタビュー「阪神にはまだまだ伸びしろがある」 前半戦MVP、18年ぶりVへのカギは?

大利実

クローザー不在を救った岩崎

――投手のMVPは誰になりますか?

 一般的に考えれば、大竹投手か村上投手になるでしょう。なかでも大竹投手は私が監督時代、ソフトバンクの二軍にいるときから欲しかった投手です。初の試みとなる現役ドラフトでは「阪神がいちばん良い指名ができたのでは」と思ったほどでしたが、まさかここまでやるとは思ってもみませんでした。真っ直ぐの質、投球のテンポ、タイミングを外す術。しっかりとしたテクニックを持っています。

――村上投手は大卒3年目にして才能が開花。すでに5勝を挙げ、防御率1.75と抜群の安定感を見せています。

 ドラフト指名時には大きな期待を持っていました。右腕の故障のためリストから外していましたが、好調時の真っ直ぐのキレは見事で、私が現役の捕手であれば「受けてみたい」と思わせてくれるものがありました。

 私が監督をしていたときは、好調が長続きせず、真っ直ぐが走り切らなかった。2021年、22年とファームで最優秀防御率のタイトルを獲得しましたが、一軍ではまだまだ。今季は自分の真っ直ぐに自信を持って投げているのが伝わってきます。

――となると、ここまでの阪神・投手のMVPは?

 大竹、村上両選手の力は間違いなく大きいですが、私はリリーフの岩崎(優)投手がかなり重要な役割を果たしたと思っています。湯浅(京己)投手が離脱する中で、岩崎投手が当たり前のように9回を締めている。そう考えると、投手のMVPには岩崎投手を選びたいです。

矢野氏がここまでの投手のMVPに選んだ岩崎。真っ直ぐのキレが戻っていると分析する 【写真は共同】

――今季の岩崎投手は26試合に登板し、防御率1.50、10セーブ。奪三振率は10.88と2桁を超えていて、これは2018年(10.16)以来の数字です。武器である真っ直ぐが復活していると見ていいのでしょうか?

 そう思います。球速表示以上に伸びる、真っ直ぐのキレが戻ってきているので、チェンジアップやスライダーも生きてくる。ここ数年、真っ直ぐの状態があまり良くないときがありましたが、前半戦を見る限りは、心配のない状態にまで上がってきています。

優勝のカギはリリーフ陣の整備

――阪神が2005年以来となるリーグ制覇を果たすには、何がカギになるでしょうか?

 後ろ(リリーフ)が決まることだと思います。湯浅投手が不在のなか、岩崎投手でカバーできればいいですが、長いシーズンを考えるとうまくいかないことも出てきます。後ろがバタバタすると、どうしてもチームとしての落ち着きがなくなってしまうし、終盤まで勝っている試合をひっくり返されると、ムードが重くなるものです。1点差、2点差の試合を勝ち切れるかどうかが、阪神が優勝するための重要なカギになると思います。

――リリーフで期待する投手はいますか?

 全員に期待していますが、あえてひとり名前を挙げるのなら浜地(真澄)投手です。昨季は「浜地で負けるのなら仕方がない」と納得できるだけのボールを投げていました。変化球でかわすのではなく、真っ直ぐの力やキレで抑えていく。真っ直ぐの質は、阪神のリリーフ陣の中で一番良いかもしれません。

 今季は結果につながっていない登板もありますが、去年の経験を生かして、ここからの巻き返しに期待したいですね。岩貞(祐太)投手、加治屋(蓮)投手ら、今頑張っているリリーフ陣の中に、浜地投手が加わってくれば、大きな力になるのは間違いありません。

――先発陣では、エース・青柳晃洋投手の復調を待ち望んでいるファンが多いと思います。

 頑張って結果を残してもらわないと困るピッチャーであることは確かです。大竹、村上の両投手が1年間ローテーションを守り続けられるどうかは未知数なところもあるので、彼らに疲れが見え始めたときに青柳投手や西(純矢)投手が先発ローテに戻ってくると心強いでしょう。

――青柳投手は昨季までと何が違うのでしょうか?

 私が感じるのはツーシームです。このボールの曲がり始めが早くなっているため、バッターに見極められるケースが多い。好調時の青柳投手は、真っ直ぐに近い軌道でツーシームを落として、1球で内野ゴロに仕留めることができました。対戦相手もツーシームに警戒しているため、このボールを本来の変化に戻すことが復調のカギになるでしょう。実績のある投手なので修正してくれると思います。

――優勝を争う中で、阪神の対抗馬になりそうなチームはどこになりますか?

 交流戦で状態を上げてきているDeNA、巨人になると思いますが、相手を見るより「自分たちの野球をやれば大丈夫」と信じることが重要だと思います。(今の阪神には)それだけの力があります。

 最初にお話したように、阪神にはまだまだ伸びしろがたっぷりあります。前半戦で力を出し切ってしまい、もう余力が残っていないというチームではなく、さらにグッと上がっていく力を十分に持っています。私も選手たちの活躍とさらなる成長を、楽しみにしています。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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