矢野燿大氏インタビュー「阪神にはまだまだ伸びしろがある」 前半戦MVP、18年ぶりVへのカギは?

大利実

スポーツナビの取材に応じる矢野燿大氏。近本光司、中野拓夢、村上頌樹ら、矢野氏が阪神の監督時代に見出した選手が今季、躍動している 【画像:スリーライト】

 阪神が交流戦を終えた6月18日時点で38勝24敗2分と、セ・リーグの首位を走っている。前監督の矢野燿大氏が、今季の阪神を分析。ここまでの投打のMVPを選出し、今後への展望を語った。

中野のコンバートを支える木浪の活躍

――交流戦を終えて、2位にゲーム2差の1位。阪神のここまでの戦いを振り返ってください。

 阪神らしい野球ができていると思うので、特に驚きはありません。プラスアルファの戦力として、大竹(耕太郎)投手、村上(頌樹)投手の活躍がありますが、基本的には昨年と同じメンバーで、それぞれがこれまでの経験を生かしながら、自分の良さを発揮しています。年齢的に若い選手が多く、今後の伸びしろに期待ができる布陣です。

――野手陣では中野拓夢選手をセカンドにコンバートしたことが、成功しているように感じます。矢野さんはどのように見ていますか?

「わからない」というのが正直なところです。このままショートをやり続けていたらどうなっていたかは、誰にも見えない部分ですからね。コンバートがうまくいっているように見えるのは、木浪(聖也)選手がショートでしっかりと役割を果たしているからです。これでショートのレギュラーが決まらない状態であれば、「ショートは中野で良かったのでは?」という声が上がっていたと思います。

開幕前、矢野氏が「復活に期待する選手」として名前を挙げた木浪。小幡竜平とのし烈な争いを制して、ショートのレギュラーの座をつかんだ。 【写真は共同】

――木浪選手については、開幕前に行ったスポーツナビのインタビューで「復活に期待する選手」として、名前を挙げていました。
 長いことプロ野球の世界に携わってきましたが、私は「最後は練習をしっかりとやっている選手が生き残る」と思っています。木浪選手に関しては、良いときも悪いときも、ずっとバットを振っていたのを見てきました。それが今季の成績につながっていると思います。後輩も「木浪さんのように諦めずに頑張れば、きっと結果がついてくる」と思うはず。今の木浪選手は、まわりにも良い影響を与える存在になっていると思います。

ここまでの投打のMVPは?

――ここまでの野手のMVPをひとり選ぶとしたら、誰になりますか?

 難しいですね……。強いて挙げるなら、近本(光司)選手、中野選手、大山(悠輔)選手。この3選手の頑張りが、打線に相乗効果をもたらしたのは間違いありません。1、2番の出塁率が高いからこそ、大山選手の勝負強い打撃が生きています。

――今季の近本選手、中野選手はそれぞれ.391(リーグ4位)、.363(同10位)と、高い出塁率を誇っています。四球数もかなり多く、近本選手はキャリアハイまであと1つとなる40個(リーグ3位)、中野選手は31個(同5位)とすでにキャリアハイをマークしています。

 私が監督を務めていた昨季までは「超積極的」にいくことが、選手の可能性を伸ばすことだと考えていました。さまざまなことにチャレンジして、プロで生きていく道を見つけていく。中野選手はそうした経験をしたうえで、今季が3年目。積極的にバットを振るだけでなく、状況に応じた打撃やボールの見極めができるようになった結果が、今季の出塁率の高さにつながっていると感じます。

――近本選手にも同じことが言えますか?

 目標のシーズン200安打に向け、超積極的な打撃を見せることが、昨季までの近本選手の中で大きなウエイトを占めていたはずです。今季は四球にヒットと同等の価値を見出し、チームの勝利につながる大きなプレーだと感じているのではないでしょうか。野球選手として成長しながら、チーム全体を俯瞰して見る。これは、自分の形が身に付いてきたからこそできることです。

今季は出塁率の高さが際立つリードオフマンの近本。リーグトップの12盗塁をマークするなど、自慢の足も健在だ。 【写真は共同】

――矢野さんが撒いた種が、開花し始めていますね。

 それは自分からは言いにくいことですけどね(笑)。ボールは積極的に打ちに行く姿勢を見せながら見極められないと意味がありません。私が阪神の監督をしていた頃は、選手全員の成長を後押しすることを第一に考えていました。

――主砲の大山選手は早くも7年目を迎えます。今季は打率.288、7本塁打、39打点をマーク。四球は42個でリーグ2位、出塁率は.399とリーグ3位の好記録です。

 選手として成熟しつつあります。私が監督時代に大山選手によく言っていたのが、「自分のことを客観的に見られることが大事やぞ。この場面でこんなボールは来ないだろうと思えるかどうか。それがわかれば、ボールの見極めができてくる」ということ。大山選手のボールを見極める技術は、着実に上がってきています。

1/2ページ

著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント