ミックスダブルスの世界選手権で快挙を達成した「生意気な鬼」ことヤスの天下取り
大会後「手応えのある、本当にいい11試合を戦えました」とコメント 【(C) WCF / Eakin Howard】
「七武海」で30億ベリー
2021/22シーズンまで北海道コンサドーレ札幌でプレーしていたが、その前身チームであった4REALに正式に加入したのは2016年。コンサドーレの阿部晋也は「ヤス(谷田)のことは(札幌)学院時代から知っているけれど、基本的な技術があって、体もできていた。アスリートのメンタリティも持っているように思えた」と、当時の印象とカーラーとしての強みを語っていたが、若手時代から向上心と反骨心を備えていた選手だった。
北見市常呂町にある阿部の実家で合宿を張っていた時など、夜はワンピースドンジャラで遊んでいたが、そこでも勝利至上主義な谷田は「七武海」という高い役を阿部の母である今子さんから和了って30億ベリーを巻き上げていた。チームの寝床や食事を献身的に用意してくれていた恩人にも容赦無く勝ちに行く。それがヤスのスタイルだ。
阿部と同じく4REALとコンサドーレで谷田とプレーしていた松村雄太(TMKaruizawa)も谷田について「生意気っすよー」と苦笑いで教えてくれたことがある。
「年齢とかポジションとか関係なく、自分が思ったことをそのまま言ってきますからね。まったく腹が立たないといえば嘘になりますけれど、チームが勝つためですし、臆さずに物を言えることはヤスのいいところですから、あいつはあれでいい。僕らは彼が何でも言えるチームでいることも必要だと思っています」
前述のドンジャラは余談だが、負けず嫌いはカーリングだけではない。JCA(日本カーリング協会)は強化指定チームの合同合宿で、テニスやフットサルなど他競技のトレーニングをチームビルディングの一環として取り入れていたことがあるが、そこでも谷田は常に全力で勝利を目指していたようだ。その何事にもストイックに打ち込む谷田の姿をロコ・ソラーレの鈴木夕湖や吉田夕梨花などは「鬼」と呼んでいるが、阿部や松村、ロコ・ソラーレのメンバーが、イジりながらも応援しているのは彼に裏表がなく、ブレずに目標に向かっている選手だからだ。
名前の由来はあの大将軍
2019年コンサドーレ時代。写真右が阿部。日本代表として世界選手権に出場し、ラウンドロビン(総当たりの予選)では「オールスター」と呼ばれる優秀選手に選出された 【著者撮影】
「どの日程に行こうか迷ったんですけれど」と週末の準決勝と決勝の2試合を、谷田のひとつ下の妹・華菜さん、北海道クボタの北見支社長として谷田をサポートしてきた山下勝司さんと共に観戦。「予選で負けちゃうと(試合が観られずに)ただの韓国旅行になっちゃうところだったけれど、良かったです」と薫さんは笑っていたが、息子を信じた母の期待に応えた最高の結果だった。
その息子について薫さんは「何事もやると決めたらやる子だから」と話してくれた。札幌の大学に進みカーリングに打ち込むこと、就職しながら競技も継続すること、そしてコンサドーレを離れてダブルスに専念すること。ある意味では中途半端なことができない不器用な部分もあるのかもしれないが、大きな決断のあとは迷わずに谷田はいつも結果を出してきた。
今回の銀メダルという大きな結果も、決勝直後は「今はまだちょっと悔しさのほうが大きいかな」と笑みを浮かべながら「去年の世界選手権で出た課題を(松村千秋/中部電力と)1年間かけてふたりでひたすら話し合ってきて、徐々に良くなったっていうのを今年の世界選手権で確認できた。1年間やってきたことが間違ってなかったと確認できたのは大きな収穫です」と話す。
完敗だったアメリカとの決勝は「相手が上手かった。アイスの変化はないし、石も良かった。自分たちのスキルの問題です」とキッパリ。「(優勝するには)もうひとつ必要という課題も出たので、来シーズンも同じようにふたりで話し合いながら日本選手権、世界選手権に向けて成長していきたい」
ところで、康真(やすまさ)という名前は薫さんがつけたらしいが、「徳川家康から、天下獲れそうだから一文字もらって。あとはとにかく真っすぐに育って欲しくて」だそうだ。
ストイックで負けず嫌いで生意気なヤスの天下取りも、あとは真っすぐな一本道だ。悲願の瞬間を多くの人が待ち望んでいる。
谷田康真(たにだ・やすまさ)
閉会式後、銀メダルを手にペアを組む松村千秋、小笠原歩コーチと 【著者撮影】
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