カーリングミックスダブルスで五輪初出場を目指すために、今日本がしていること。すべきこと。
左から準優勝の小穴桃里&青木豪、中央が優勝の松村千秋&谷田康真、右が3位の吉田夕梨花&松村雄太 【(C)JCA IDE】
村松・谷田ペアが粘り強い戦いで戴冠
同ペアは日本代表として4月に韓国・江陵で行われる世界選手権に派遣される。ミックスダブルスは2018年平昌五輪から正式種目として採用されたが、日本は平昌、北京共に出場を逸している。2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ大会で初出場を狙うためにも、世界で好成績を残したいところだ。
2018年以降の世界選手権戦での戦績を振り返ると、まず2018年と19年に連続出場した藤澤山口(藤澤五月、山口剛史)は2大会ともに5位。2020年は新型コロナウイルスの影響で中止となり、2021年は吉田・松村(吉田夕梨花、松村雄太)が15位。そして昨年大会で松村・谷田は9位という結果だ。
世界を経験した3ペアが今回の日本選手権でしっかりベスト4に進出するなど地力を見せてくれた一方で、まだ世界選手権を経験していない小穴・青木(小穴桃里、青木豪)の奮闘も光った。決勝では第1エンドから一挙4点を奪い、そのまま初優勝かと思ったファンも多かったのではないか。
「世界に行っても今回よりきつい試合はないかもしれない」
終わってみれば全勝優勝ではあったが、松村千秋は苦笑いで振り返った。予選で吉田・清水(吉田知那美、清水徹郎)に4点差、準決勝で吉田・松村に3点差、決勝でも前述のように小穴・青木に4点差というビハインドを負いながらも、粘り強く戦った。
特に準決勝はこの大会で初めて乗る情報の乏しいCシートだったが、アイスの状態を探りながら勝機を粘り強く待った。谷田が「海外遠征で知らないアイスをたくさん経験しておいて良かった。アイスリーディングのスピードは上がったと思う」と語ったが、その言葉どおり試合後半にかけてショットの精度を上げ、逆転勝利を収めた。今季は唯一、日本勢としてミックスダブルスチームとして海外ツアーに参加した成果を見せてくれた形だ。
「自信をもって、今回の大会に参加したみんなの気持ちも背負って全力で戦ってきます」(谷田)
日本全体でミックスダブルス強化に励む
準優勝の小穴・青木も来季は海外遠征の計画を立てている 【(C)JCA IDE】
谷田は昨季まで所属していたコンサドーレを退団。松村は変わらずに中部電力に在籍しているがポジションをフィフスに固定してチームサポートに徹した。いずれもミックスダブルスに特化して強化を図るためだ。
JCA(日本カーリング協会)はミックスダブルスが正式種目となる前年の2017年から毎シーズン、強化委員会推薦ペア枠を設け、日本選手権に4人制で結果を出しているトップ選手の出場を促してきた。地方予選を免除する、いわばシード権のようなものだ。もちろん松村・谷田もこれに当てはまる。
17年以降、6度の日本選手権(2022年は新型コロナウイルスの影響で中止)では強化推薦ペアがほぼ表彰台を独占してきた。地方予選から勝ち抜いたのは2017年のチーム青木(藤井春香、青木豪)のみ。青木もその実績が評価されて以降は小穴とのペアで強化指定を受けている。つまり近年は4人制のトップ選手がミックスダブルスの日本代表も兼任してきたことになる。
ミックスダブルスの専任ペアを作り強化を続ける案もあったが、4人制で所属しているチームとの兼ね合いなどでどうしてもミックスダブルス強化は後手に回っていたのが現状だ。しかし、そこに谷田は危機感を持った。
実際に谷田は2021年12月のオランダ・レーワルデンでの五輪最終予選に、男子日本代表(コンサドーレ)とミックスダブルス日本代表(松村・谷田)の両方に出場している。結果は残念ながら女子代表(ロコ・ソラーレ)以外は敗退となった。
もちろん、世界には4人制とダブルスの兼任で結果を出している選手もいる。イギリスのジェニファー・トッズは北京五輪で女子で優勝を果たし、ダブルスで4位という好成績を残した。スウェーデンのオスカー・エリクソンは男子で金、ダブルスで銅と2つのメダルを首から下げた。
谷田は言う。
「あの人たちはちょっと別格ですね。現状では僕にはあれはできないと思うし、何よりも4人制とミックスダブルスって作戦や考え方が根本的に別物なんですよ。もっと大会や試合を経験しないと強くなれない」
危機感を抱いたのは選手だけではない。昨年の世界選手権(スイス・ジュネーブ)に谷田・松村のコーチとして帯同したJCAの理事であり、強化副委員長でもある小笠原歩は「松村選手と谷田選手とダブルスをなんとかしたい、という熱に現場で直に触れたこともありこのまま同じ強化をしていては何も変わらない、と現場で強く感じた」と語る。
「ダブルスの強い国がヨーロッパに多い理由のひとつにツアーの大会が頻繁に開催されていることがあります。そこに2選手を派遣するだけだから、カーリングでまだ結果を出していない国でも強化に取り組みやすいし、(4人制の)チームとも両立は不可能ではありません」(小笠原)
前述のイギリス、スウェーデンはその好例だろう。
また、小笠原は自身の選手時代、2017年の世界選手権に阿部晋也(コンサドーレ)とのペアで出場した際、ハンガリー、ベラルーシといった4人制のカーリングではなかなか情報のない国に敗戦している苦い経験もある。情報のない相手、慣れないアイス、4人制との石の積み方の差etc……。それらを身をもって体感した。
「私の時とは戦術も技術も比較にならないけれど」と前置きした上で、小笠原は続ける。
「松村・谷田をはじめ国際大会を経験したペアは、実際に世界で感じたダブルスはまったく違うカーリングということを自覚してくれたはず。ダブルス特有の攻守の切り替えなどの考え方は試合を数多くこなして、試合勘を養う必要があります。日本全体でもっとダブルス慣れをしていかなければならない。このままは世界に取り残される」
2017年にカナダ・レスブリッジで開催された世界選手権に出場した阿部と小笠原 【写真:筆者撮影】
「海外に出ての強化が難しい環境にあるのであれば、海外のチームを日本に呼んで強化をしてもいいと考えました。まずは地理的に似た環境にある韓国に声をかけましたが、日韓両国の選手や関係者が、かなり協力してくれました。代表クラスのチームが集まっていい合同強化合宿を組むことができたのは、両国の協会や現場の選手が『ダブルスでも五輪へ!』と強く思ってくれているからだと思います。いわば私の思いつきを前向きに受け止めてくれて感謝しています」
両国のトップチームが集ったのが昨年12月の軽井沢国際の後だ。大会翌日から5日間の共同合宿を組み、日韓9ペアが集い総当たりの試合形式で実戦を重ね、情報のないチームとの対戦で「ダブルス慣れ」を促してゆく。
「日本全体が強くなる取り組みで、すごくいい」(藤澤五月)
「貴重な試合の機会があってありがたい」(小穴桃里)
国内トップ選手からは歓迎の声が挙がったが、この合宿を視察した韓国カーリング連盟のチョン・グィソプ常任副会長が「いい合宿ができたと思う。将来的には韓国で開催することも考えています。ジュニア世代の交流試合もあってもいい」と総括したように、日韓の連携を深める意向だ。来年以降も日韓合同合宿の継続、発展に期待がかかる。