村田さんと同じく極めて大きな注目を浴びながらプロボクシングの世界に飛び込んだ那須川にも、新しい風を感じるという。

「天心もポジティブですよね。『なにくそ』で生きてきた僕らとは違って、楽しむ気持ちをどこかに持っている。僕らと違うものを否定するのではなく、むしろ彼らがこれからの時代を作っていくんだなと思います。勘違いから始まってそれが達成できたら勘違いじゃなくなるし、絶対できないと決まった事なんてない。むしろ『絶対勝てない』という思い込みの方が勘違いかもしれない。4月8日は新しい時代の到来を感じた1日でした」
　
　では、村田さん自身は今後どこに向かおうとしているのか。引退会見では、これまで応援してもらったスポンサーの関係者などに「これからのよりよい未来、社会をともにつくっていきたい」と挨拶した。詳細は決まっていないが、活躍の場をボクシングだけにとどめるつもりはないようだ。

「（引退発表後は）意外とバタバタしています。まだ何も形になっていないけど、英語の勉強も続けています。ボクシングはこれまで僕に自由を与えてくれる『翼』でもあったと思う。金銭的な意味であったりネームバリューという社会的地位であったり。でも、一方ではボクシングを中心に置いた生活だったので、ボクシングに縛られた身という言い方も出来たと思います。ボクシングがなくなって怖さを感じるのかなと思っていたけど、今のところは意外にもそうでもなくて充実した毎日です」

「せっかく自分の可能性が広がるチャンスなので、（活動のフィールドは）ボクシングに限ることはないのかなと。上に仰ぎ見るような人と仕事をしていきたい。憧れを抱ける人。今までなら室伏広治さん（陸上ハンマー投げ五輪金メダリスト、スポーツ庁長官）です。インテリジェンスがあるかどうかが、僕の中でリスペクトの対象になる条件。ボクシング界もいいけど、視野を外にも向けたい。今は、ボクシングだけを見ることは僕のためにならないと思います」

　4月末の発刊された著書「折れない自分をつくる　闘う心」（KADOKAWA刊）の中でも、村田さんはボクシングを「自分にとって既知のもの」と言い、「未知の世界に飛び込む方が難しい。難しいことを選ぶ方がリスペクトできるし格好いい」と書いている。

　「できることなら、海外に勉強に行きたいと思っている」と村田さん。以前から哲学や心理学、宗教など多方面に関心が強く、読書家でも知られる。実はこの春、長男が小学6年生にして海外の学校に留学した。「今ある環境で何となく生きるのでなく、常に広い世界を見てほしいと思って息子にそういう道もあるよと薦めた自分が、手持ちの札で生きていくのは違うだろうと。それって親の見せる姿じゃない。息子にチャレンジさせた以上は、自分も新しいチャレンジしたいなと思っています」。ミドル級の頂点を極めた村田さんが、今度はどんな山を登るのか。ボクシングファンならずとも期待してしまうだろう。