成功率80%の昇格請負人、A千葉・小林大祐 チームの“スキマ”を埋めて勝つ脅威のバスケ脳

大島和人

小林大祐(中央)は2016-17シーズンから昇格に4度絡んでいる 【(C)B.LEAGUE】

 Bリーグ誕生後の6シーズン、5度のチャンスで、4度の昇格を経験しているバスケットボール選手がいる。それはアルティーリ千葉に所属する小林大祐だ。

 A千葉は2021-22シーズンのB3を2位で終え、トライフープ岡山との昇格決定戦を制して昇格を果たした。今季はB2初年度ながら、4月9日の西宮ストークス戦を終えて44勝12敗を記録している。レギュラーシーズン残り4試合の山場で、東地区首位だ。B1昇格を決めるのはプレーオフだが、西地区も含めた14チームの中で最高勝率を記録している。

大逆転勝利を飾った8日のA千葉

 8日の西宮戦は、小林の価値を証明する試合だった。西宮にしてみれば兵庫県知事、神戸市長を賓客に招き、4,603名の観客も集めた大一番。A千葉にとっては、アウェイの空気にさらされる難しい状況だった。

 A千葉は56-61の5点ビハインドで第4クォーターに入った。しかしそこから31-15と圧倒し、逆転で西宮に87-76で勝利している。

 A千葉は第4クォーターの開始から、レオ・ライオンズ、杉本慶、大崎裕太、そして小林の4人を交代選手として投入している。小林と大崎はベンチスタートの“セカンドユニット”だが、2人は結果的に試合終了までベンチに戻らなかった。

 アンドレ・レマニスヘッドコーチは振り返る。

「小林はディフェンス(DF)でスマートな判断ができるタイプです。サイズがあるのでしっかりとリバウンドに絡んでくれることにも期待して、コートに出てもらいました」

直近の6季で4度の昇格を経験

茨城ロボッツでは2020-21シーズンのB1昇格に貢献 【(C)B.LEAGUE】

 小林は189センチ・90キロのスモールフォワード(SF)。Bリーグではもう珍しくなった昭和生まれのベテランで、福岡大大濠高、慶應義塾大を経て新卒時は日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)に加入した。当時のトップリーグJBLでは2010-11シーズンの新人王にも輝いている。それなりの名門を渡り歩いてきたエリートだ。

 2016年のBリーグ初年度はライジングゼファー福岡に移り、2シーズンでB3からB1まで浮上する“最短昇格”に貢献した。2020-21シーズンは茨城ロボッツのメンバーとしてB1昇格を経験し、2021-22シーズンもA千葉のB2昇格に絡んだ。その“資格”があった5シーズン中のうち、4シーズンで所属チームを昇格に導いている。昇格枠は昨季のB3が「15分の 2」で、一昨季のB2なら「16分の2」という具合。つまり決して低いハードルではない。

 8日の小林は第4クォーターだけで7得点を決めている。翌9日は22分03秒の出場で15得点を記録して連勝に貢献している。ただ8日の第4クォーターに限ればレマニスHCの期待も、本人の狙いも、DFが主眼だった。

“守備の司令塔”を担う

 そもそもバスケは「守備的にプレーするほど得点が増える」競技で、負けているチームは守備の強度を上げるのが定石。A千葉の守備が効いたからこそ、10分間で31点のハイスコアが生まれた。

 小林に第4クォーターまでの展開を尋ねると、強度がやや高めな答えを返してきた。

「ベンチで見ていて、ウチは戦い方がうまくないなというのが正直な感想です」

 知性と豪胆さを兼ね備えた35歳の九州男児は続ける。

「上からいうつもりはないですけど、自分にはずっと勝ち続けている経験があります。どこをどうしたら勝率が5%でも10%でも上がるかは誰よりもわかっているつもりです。膠着(こうちゃく)状態に持っていくと相手のプレーがある程度決まってくるんです」

 小林は“守備の司令塔”として、コート上で仲間たちをコントロールしていた。

「点差とファウルの数、タイムアウトの数と、ポゼッションの数で、どんどん相手のやることを制限させていくわけです。それが僕は勝利の“道しるべ”だと思っています。西宮はハミルトンと(センター)のビッグビッグ(=ビッグマン同士の連携)で、ずっとピック&ロールをしていました。僕らはオフェンスで何をやってどう決めたら、次はこういうプレーをやるとか、3ポイントを決めたら相手には絶対3ポイントを打たせないDFをして、打たれそうならファールで止めていいとか……。(小林が)ずっと選手に伝えて、ただ時間が減っていくのを待っていました」

小林は何を“マネジメント”するのか?

 バスケは意外と点差が開かないスポーツで、だからこそ終盤は1ポゼッションの価値が重くなる。そこでお互いが「とっておきのオプション」を繰り出し、序盤に張った伏線を回収しにいく。A千葉の背番号6は自身の経験から、そんな時間帯を詰将棋のように分析している。

「時間はどんどん過ぎるので、あとはポゼッション数とファウルの数をマネジメントすれば、勝率が上がっていきます。(判断材料は)向こうのタイムアウトアウトの数と、向こうのやりたいことと、あと何回オフェンスがあるかです。(8日の試合で意識したのは)簡単に2点を取らせないことと、あとは相手に先にタイムアウトを使わせることでした。こちらは2個残っていたので、仮に追いつかれてもタイムアウトを取ればポゼション数を増やせますから。(結果的に)増やすまでもなかったですけど、そこを常に考えていました」

 24秒ルールがある中で相手のオフェンスが残り何回か、狙いは何かから逆算して、守備の組み立てを考えるーー。それが第4クォーターに小林が任されている役割だ。例えば3ポイントシュートを打たせないように外を厚くする守備を何回やるか、そしてどの局面でファウルを使うか。つまり勝負どころでどの駒を打つか、彼が決めている。

 突き詰めるとバスケは確率のスポーツだ。小林には数値や情報をインプットすれば瞬時に確率の高いプレーを選択しつつ、“詰み”の局面まで見通すバスケ脳がある。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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