今なおプレーの「幅」を広げる驚異のベテラン 古川孝敏が秋田に与えるインパクト

大島和人

古川孝敏は秋田ノーザンハピネッツをけん引するベテラン 【©B.LEAGUE】

 2022-23シーズンの秋田ノーザンハピネッツは、現在16勝16敗の五分。チームはいくつかの試練に見舞われつつ、シーズン後半を迎えている。12月末に起こった残念なアクシデントが、田口成浩の負傷だ。チーム最高の得点効率を誇っていた秋田生まれの名シューターが、今季中の復帰は難しい状況にある。

 ただ1月はここまで4勝2敗と勝ち越しペース。古川孝敏はそんな秋田のエース格で、特に21日と22日の大阪エヴェッサ戦では印象的な活躍を見せていた。

古川が2試合で49得点の大活躍

古川は大阪戦で効率的に得点を挙げた 【©B.LEAGUE】

 秋田は21日の大阪戦を85-79と勝利し、古川は26点を挙げて試合後のヒーローインタビューに登場した。22日はチームこそ敗れたが、古川は23点を記録している。

 古川は190センチ・92キロのスモールフォワード(SF)で、外に立ってパスを待つだけでもディフェンスに対する脅威となれるシューターだ。加えて筆者が取材した21日の試合ではゴール下への“ペイントアタック”から効率的に得点を決めていた。

 ディフェンスの背後に生じたスペースへ走り込んでパスを受けるバックカット、3ポイントシュートを封じようと詰めてくる相手の逆を取ったドライブなど、ベテランならではの読みや駆け引きが光っていた。21日の大阪戦は、何しろ2ポイントシュートを11本放って10本決めている。彼にはミドルシュートの精度もあるのだが、「楽にシュートを打てる状況」を周りとの連携で作り出していた。

「ペイントアタック」は秋田のテーマ

今季はヘッドコーチ代行を務めるケビン・ブラスウェルコーチ 【©B.LEAGUE】

 ペイントアタック(※ゴール下の色が塗られている制限エリア=ペイントエリアへの攻撃)は、今季の秋田がチームとして強調しているプレーでもある。昨シーズンはB1最高の3ポイントシュート成功率を叩き出した秋田だが、外への偏りはチームの課題だった。ケビン・ブラスウェルHC(ヘッドコーチ)代行はこう説明する。

「自分たちの足りなかった部分、接戦を落としていた理由に挙げられるのが『ペイントアタックをしない』『確率の悪いジャンプシュートに逃げてしまう』ところです。そこを(選手に)強調していました」

 中山拓哉は述べる。

「今までだとピック(インサイドのスクリーン)使って終わりましたという状況が多くて、ピックを使って(ボールを)さばいても、そこで止まってしまうところがありました。でも1人がアタックした後に、ちょっとズレができた中でまたアタックする形が少しずつ増えてきています」

ステップアップを求められる日本人選手

中山拓哉(写真右)も古川、田口らと共にチームの中心選手 【©B.LEAGUE】

 秋田にはスティーブ・ザック、スタントン・キッドといった能力の高い外国籍選手がいる。加えて彼らは日本人のガード、フォワードを“脇役”にとどめず、アグレッシブに攻めさせるチームでもある。田口が負傷により離脱したことで、他の選手たちは今まで以上の積極性が求められている。

 中山は続ける。

「シゲさん(田口成浩)は得点効率がチームで一番良かったと思います。なので、シゲさんにシュートを打たせたいとなっていましたが、他の日本人選手がちょっと消極的になってしまっていた。シゲさんがいた頃にもそれができていたらまた違ったと思うんですけど……。今は全員にアタックしようという意識があって、それは一つの変化です」

 26点を挙げた大阪戦後、ペイントアタックについて古川はこう語っていた。

「ペイントの中にアタックすることが大事という話をチームでしていた中で、プレーが変わったという言い方はちょっと極端ですけど、以前よりも中に行くことが多くなっています。それまでの自分の持ち味もあった中で、今日はいろんなバリエーションを持ってプレーできたのかなと思います。レイアップもカットもあったし、ジャンプシュートはもちろん打っていましたけども、しっかりペイントにタッチした中で止まって打てるシーンがあった」

 もっとも古川の得点量産については、短期間の意識付けでなく、長い現役生活の積み重ねが背景にある。ブラスウェルコーチは21-22シーズンから秋田に在籍しているが、その取り組みと二人の関係をこう説明する。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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