世界ジュニア選手権優勝の島田麻央 14歳の新星、輝かしい道程の始まり

沢田聡子

「調子が上がらなくて」それでも挑んだ大技2本

優勝した世界ジュニア・フリーの冒頭、島田麻央はトリプルアクセルと4回転に挑んだ 【Photo by Leah Hennel - International Skating Union via Getty Images】

 試合のリンクに入ってスタート位置につく時、島田麻央の眼は強い光を放つ。14歳にしてトップアスリートの雰囲気を醸し出す表情は、ポーズをとってジャッジを見つめる時にはスケーターの華やかな笑顔に変わる。

 しかし、ショート首位に立ち最終滑走で迎えた世界ジュニア選手権(カナダ・カルガリー)のフリーでは、島田がポーズをとり終える前に曲が流れ始めたようにみえた。スイッチを入れたように笑顔に切り替わるいつもの瞬間がないまま、島田は演技を開始する。

 自分のタイミングで滑り出すことができなかったのではないかと案じられたが、島田は動じなかった。トリプルアクセルの軌道に入ると持ち前の鋭さで3回転半回り切り、美しい着氷姿勢をとる。続いて4回転トウループに挑み、こちらも着氷。4分の1回転不足と判定されたものの、ほぼ成功したようにみえる跳躍だった。

 フリーの2日前に行われたショート後、リモート取材に応じた島田は「調子が上がらなくて」と吐露している。ショートで首位に立ったものの、本人は本来の調子ではないと感じていた。

「(トリプル)アクセルと4回転は本当にあまり跳べないという状況で、(3回転)ルッツ―(3回転)トウ(ループ)までは跳べるのですが、自分の思うようには跳べないという感じでした」

 だが、島田は悲観的にはならなかった。

「試合前調子が良くても試合で跳べなかったり、試合前調子悪くても試合で跳べたりという時があったので、『今回も最後まであきらめずに滑ろう』と思っていました」

「世界ジュニアは初めてなので、プレッシャーというよりは、憧れていた舞台だったので楽しみたいという思いです」

 その言葉通り、フリー冒頭で島田がみせた二つの大技は、調子の悪さなど感じさせない鋭いジャンプだった。

東京から京都へ転居して磨いたスケート

 全日本ノービス選手権を3連覇した島田は、その能力の高さで幼い頃から注目を集めてきた。今季フリーに組み込んでいる4回転トウループは12歳、トリプルアクセルは13歳の時に初めて成功させている(いずれも国内大会)。4回転トウループを決めたのは、日本人選手として初の快挙でもあった。

 昨季はノービスから“飛び級”で出場した全日本ジュニア選手権を制し、満を持して今季からジュニアに移行。今シーズンも快進撃は続き、ジュニアグランプリシリーズで2連勝し、出場したファイナルでも優勝を果たす。全日本ジュニアを連覇して出場した全日本選手権では、シニアの選手と同じ舞台で銅メダルを獲得した。

 今季からシニアの試合に出場できる年齢が段階的に引き上げられる影響で、島田は2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪への出場は叶わなくなった。しかし、優勝した今季ジュニアグランプリファイナルの記者会見では「年齢が変わっても変わらなくても、自分がやることは同じ」と冷静にコメントしている。

「ジュニアの時期が長くなったので、その分世界ジュニア連覇やユースオリンピックに出ることを目標に、変わらず努力していきたいと思っています」

 島田は東京でスケートを始めたが、11歳だった2020年、京都に拠点を移している。父を東京に残し、母と妹を伴っての転居だった。環境の整った木下アカデミーで練習するためで、以来濱田美栄コーチの下でスケートを磨いている。

 20年11月、全日本ジュニア選手権にノービスからの推薦で出場し3位に入った当時12歳の島田は、幼い口調で強い決意を語っている。

「スケートをもっともっと頑張るために(京都に)来たので、『毎日練習を一生懸命やらないと』ということは思っています」

 オフアイスではあどけない印象の島田だが、試合のリンクに立つとトップアスリートならではの引き締まった空気を漂わせる。家族の協力を感じているからこそ、島田のスケートにかける思いには並々ならぬものがあるのだろう。

 幼くして大技を習得している島田だが、その強さの要因は高難度ジャンプだけではない。ジュニアのショートプログラムは規定によりトリプルアクセルが入れられず、基礎点では差がつかない構成で競うことになる。しかし、初出場となる世界ジュニアのショートでも、島田は僅差ながら首位に立った。スピン・ステップは一つのレベル3を除きすべてレベル4、高さと飛距離があり着氷後の流れもあるジャンプでは加点を得ている。

 島田の演技には、最初から最後まで揺らぐことのない正確さが貫かれている。すべての要素に対して日々真剣に取り組んでいることがうかがわれる丁寧な滑りが、島田の強みだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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