不調と怪我を乗り越えて果たした、宇野昌磨の連覇 再び立った頂点で見えてきた「スケーターとしての道」

沢田聡子

ハイレベルな男子フリーを制してつかんだ栄冠

“神試合”の最後を飾った宇野のフリー 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 宇野はショートで首位に立ってフリーを迎えたが、フリーは最終の一つ前のグループから好演技が続出する“神試合”になった。最終グループのスケーター達も力のこもった滑りを次々と展開し、観客は一つ演技が終わるごとに立ち上がって拍手を送る。ショート3位のチャ・ジュンファン(韓国)はクールなプログラムをほぼミスなく滑り、トータルスコアは296.03。ショート2位のイリア・マリニン(アメリカ)は4回転アクセルを成功させ、合計点は288.44。宇野のフリーは4回転4種類5本を跳ぶ高難度の構成だが、大きなミスをすれば連覇は危うい状況だった。

 最終滑走の宇野は大歓声を受け、たくさんの日の丸が降られる観客席を背にスタート位置についたが、自分の中に入り込んでいるような静かな表情を崩さない。『G線上のアリア』が流れて滑り始めた宇野は、4回転ループをきれいに着氷。2本目の4回転サルコウでは着氷が乱れるも、続く4回転フリップは成功させる。

 トリプルアクセルを決めた後はコレオシークエンスで重厚感のあるスケーティングをみせ、スピンを終えた後半から、曲はテンポの速い『Mea tormenta, properate!』に変わった。2回転トウループをつけてコンビネーションにする予定だった4回転トウループが単発になると、2本目の4回転トウループに1回転トウループをつけてジャンプの繰り返しによる減点を防ぐ。

 最後のジャンプとなるトリプルアクセル―ダブルアクセルのシークエンスを決めると、宇野は解き放たれたように曲線的な振付と滑らかなスケーティングで厳かな旋律を表現し、フィニッシュに向かっていった。

 フリーで3つ入れられるコンビネーションジャンプは2つしか入らず、回転不足のジャンプも散見されたが、宇野は果敢に挑んだ高難度構成と高い演技構成点で196.51という高得点を得る。合計点はただ一人300点台に乗せる301.14で、宇野はハイレベルな男子シングルを制し、世界選手権連覇を果たした。

「演技直後は、結構ほっとした」

 ミックスゾーンで、宇野は率直に安堵を口にしている。

「久々に練習以上を出さなければいけないという気持ちだったので、地に足が着かない演技ではありましたけれども、ほっとしました」

 安堵の理由は、「どんな内容でも、結果というものが僕を支えてくれた人達への恩返しになる」という思いだった。不調と怪我に苦しんだ自分を助けてくれた周囲への感謝が、厳しい状況下で戦い抜いた宇野の原動力だったといえる。

 そして、宇野は新たな思いを口にしている。

「ただ、僕がスケートをやってきた上で求めているのは、自分の演技を見返した時に『いいな』と思える演技をしたいということ。僕はこの二年間、正直それができているか、って聞かれたら…ジャンプは本当に上手くなりましたし、いいと思いますが、スケーターとしてどうだ、と考えると、あんまり“うん”とは思えないので」

 宇野はミックスゾーンで「来年も競技会は出る」と明言した一方で、記者会見でも「(優勝したグランプリ)ファイナルも、すごくいい演技ではありましたけれども、久々に自分で見直した時に、心に響くような演技だったかなとは思えない」と語っている。

「結果を求めるのであればこの2年間やってきたことは間違いないと思いますが、僕もスケーターとして何を目指したいかというのは、これから考えていきたいなと思っています」

 厳しい状況下で果たした連覇の先に宇野が見ているのは、表現者としての新たな道なのかもしれない。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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