【対談】4.8 大一番に臨む拳四朗と吉野修一郎 同級生“夢の共演”が実現した2022年を振り返る

船橋真二郎

大舞台にも臆さないメンタル。「俺のためのリング」(吉野)

2022年4月、吉野はさいたまスーパーアリーナで元世界王者の伊藤雅雪を打ち破った 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

――吉野選手はどうでしょう。昨年を振り返って。

吉野 濃かったですね。元世界チャンピオンの伊藤選手、アメリカで名前のある中谷選手、強い選手に勝ったことで、充実したっていうか、楽しかった1年ですね。

――昨年の吉野選手は、見ていて、「楽しい」という言葉がぴったりでした。

吉野 伊藤選手も中谷選手も強くて、評価も高い選手で。「勝てるのか」みたいな目で見られてたと思うんですよ。「見てろよ」みたいな感じで練習もできましたし、モチベーションが違いましたね。去年はずっと、そんな感じでやれたんでよかったです。

――2試合ともさいたまスーパーアリーナという大舞台での重要な一戦でしたが、臆したところがまったくなくて。「自分のためのリングだ」という気持ちでできたということでしたね。

吉野 はい。プレッシャーとか、緊張はまったくなくて。めっちゃ楽しかったです(笑)。

拳四朗 分かるわ。俺もワクワクはするな。

吉野 俺のための場所みたいなね。

拳四朗 ここで注目されるって思うとね。あれは多分、普通に生きてたらないもんな。

吉野 ない。スポットライトがあたるし、人もすごいしね。

拳四朗 入場とか、めっちゃ楽しくない?

吉野 楽しい。(試合前の)リングチェックのときとか、どうやって入場しようかなってイメージするだけで気持ちが上がる(笑)。

――入場のときは(吉野の入場曲の)ウルフルズの「ガッツだぜ!!」を口ずさみながら(笑)。

吉野 はい。俺、なんか歌ってるんだよな。入場のとき(笑)。

拳四朗 余裕あるんだ。負ける不安なんてなくない?

吉野 ないね。

拳四朗 ね。絶対に勝てると思って行くから。俺もそうやわ。

吉野 ずっと練習してきたじゃん。試合に向けて。俺はこれだけ練習してきたって。相手も練習してると思うけど、俺のほうが練習してきた、俺のほうが強い、みたいな感じで行けるよね。で、ああいうデカい会場で、お客さんもいっぱい入るじゃないですか。俺のボクシングを見てくれ、俺は絶対に勝つから、強さを見てくれ、みたいな気持ちになりますよね。

――舞台が大きくなればなるほど。

吉野 はい。自信もあるし。大勢の人に俺を見てほしいって、気合いも入りますよね。

拳四朗 一緒やね。自信もあるし。練習でつくり上げてきてるから、負けるわけないもんな。

吉野 うん。って、なるよね。やる前から少しでも負けるかもって不安に思ったら、その時点で。

拳四朗 でも、結構いると思うんだ。

吉野 いるね。大丈夫かなとか、勝てるかなとか。

拳四朗 その時点で負けてるよな。メンタル的に負けてるよね。

吉野 まずメンタルで負けてちゃダメだね。

11.1さいたま共演。「吉野と一緒にやれてよかった」(拳四朗)

――拳四朗選手は矢吹選手に、吉野選手は伊藤選手に勝って、さいたまスーパーアリーナで一緒にできることになったときは、どんな気持ちでしたか。

拳四朗 シンプルに嬉しかったですね。「やった!」っていう感じ。

吉野 僕も同じです。拳四朗は世界タイトルの統一戦、僕は中谷選手とライト級のナンバーワンを決めるっていうデカい試合をデカい会場で一緒にやれるんで。それこそ、楽しいですよね(笑)。

拳四朗 控え室も一緒やったし。誰かと一緒って、なかったんですよ。

吉野 あ、そうだった?

拳四朗 BMB(ジム)の選手ともなかったし、デビューして1回もなかったと思う。

――三迫ジムの選手と試合に出ることもなかったんですよね。だから、チームの力を感じた、と言っていましたね。

拳四朗 控え室に(一緒に戦う)誰かがいるのは気も紛れるし、よかったですね。大事ですよ。なんだかんだ、個人戦じゃないと思うもん。でも、プレッシャーはあったな。僕のほうが後じゃないですか。

吉野 あ、そうだね。俺が先に出て。で、(中谷戦が)終わって、「拳四朗、勝ったぞ!」って、プレッシャーかけに行きましたからね(笑)。

拳四朗 うわっ、吉野、もう解放されてるやんって(笑)。うらやましかったな、先に終わるの。でも、先に勝ってくれたら、より頑張ろうとはなりましたね。しっかり(吉野の)試合も見て、気持ちも上がったし。あ、だから、俺、5ラウンドはまとめに行ったのかもしれん(※)。

※拳四朗が京口から最初のダウンを奪った5回、フィニッシュに行くも仕留めきれず、ガス欠になって反撃に遭い、あわやの窮地に陥ったが、しのいで終了ゴングに逃げ込んだ。

吉野 ああ(笑)。

拳四朗 多分、そやで(笑)。ちょっと思っててん。イメージに残るんですよ、あの吉野の倒し方。まとめに行った感じやんか、最後。

吉野 うん。効いたと思った瞬間、行ったじゃん。

拳四朗 イメージが残ってたから。俺も行けるんちゃう? ってなったと思う。だから、吉野のせいやで。

――吉野のせい(笑)。

吉野 俺が悪いんかい(笑)。

拳四朗 うん(笑)。俺も行けるんちゃう? ってなるよね。

吉野 なるんかな?(苦笑) でも、あれだけ人が入って、ウワーッて、なるとね。

拳四朗 そう。応援の声もあったしね。「行け、行け、倒せる」って。

吉野 ああなるとお互いの応援団の戦いにもなるもんね。あの時は声を出しちゃいけませんってなってましたけど、やっぱり出ちゃうじゃないですか、応援団も気合いが入ってて。自分たちも思いっきり手を叩きまくって、拍手で「行け、行け」みたいな感じでやってましたしね(笑)。

――それもチームですね。

拳四朗 そうなんですよね。大学のリーグ戦もそうじゃん。

吉野 そうね。みんなで盛り上がってね。お祭りみたいな感じで。

拳四朗 控え室の雰囲気とかもそうやし、そういうのをプロでも味わえて。吉野と一緒にやれてよかったですよ。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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