初めて自らの手でつかんだ、世界選手権代表の座 冷静なエンターテイナー、友野一希の魅力

沢田聡子

アイスショーで癒す、全日本での激闘の疲れ

年末の全日本選手権など、ハードなシーズンを戦ってきた友野。アイスショーへの出演は「スケートが好き」という気持ちを再確認する舞台となった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「本当に出演することができて嬉しいですし、しっかり踊り狂いたいなと思います」

 3年ぶりに開催されたアイスショー『アイスエクスプロージョン』のゲネプロを終えた友野一希は、氷上で行われた会見で本番に臨む意気込みを語っている。3年前は観客として来場し「いつか出たいな」と感じていたという『アイスエクスプロージョン』への思いが伝わる言葉だった。

「リハーサルから新しい感覚というか、今までにないショーだなとすごく感じていて。演技のつなぎの部分など、本当に細かいところまで振り付けしてもらいました。それぞれの選手の個性もすごいなと思っているので、楽しんでいただけるように頑張りたい」

 フィギュアスケートのシーズンは、グランプリシリーズ、そしてその上位選手が出場するファイナルを終え、これから後半に入っていく。昨年末の全日本選手権で選出された代表が、今年行われる四大陸選手権(2月、アメリカ・コロラドスプリングス)や世界選手権(3月、さいたまスーパーアリーナ)に出場する。

 友野は熾烈な争いとなった全日本で3位に入って初めて表彰台に乗り、晴れて世界選手権代表に選ばれた。過去に2回(2018年・5位、2022年・6位)世界選手権に出場している友野だが、2回とも補欠からの繰り上げ出場で、代表に選出されるのは初めてとなる。

 シーズンの折り返し地点ともいえる年頭に行われた『アイスエクスプロージョン』への出演がシーズン後半にどう影響するかを問われ、友野は「全日本に向けてかなり追い込んできた状況で、本当に正直『心も疲れたな』というところはあった」と吐露している。

「ショーを経験することによって、改めてスケートの素晴らしさや深さ・楽しさ、人に表現すること、『自分はスケートが好きなんだな』とすごく感じることができます。今回も自分が初めて経験するような表現や、来シーズンにつながるような新しいアイデアのヒントがたくさん眠っているショーだなと感じています。僕はこういうショーを経験して調子がすごく上がったりもするので、とにかく今あることに集中して、このショーと向き合っていけたらと思います」

「踊り狂いたい」と意気込んで臨んだ『アイスエクスプロージョン』のゲネプロで友野が滑ったソロナンバーは、海外でも支持されるギタリスト・MIYAVIによる『What's My Name』だ。黒の上下に身を包みメイクも施した友野はヴィジュアル系バンドマンのような姿で、激しいロックを表現する。最初から最後まで高いテンションを保って滑り続ける『What's My Name』について、友野は「試合を通して、このエキシビションナンバーが一番きつい」としている。観客を楽しませる才能では世界でも指折りのスケーターである友野の、エキシビションへのこだわりが伝わるプログラムだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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