史上最年少の四大陸選手権王者、三浦佳生 勝利の前に乗り越えていた「2つの危機」

沢田聡子

三浦佳生にとっては、自らの予想に反して選出された四大陸選手権だった 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

見事なリカバリーをみせたショートで首位発進

 昨年の銅メダリストとして臨んだ四大陸選手権で、三浦佳生は表彰台の一番高いところに立った。

 昨年末の全日本選手権、三浦はショートプログラムで2回転倒し、13位と出遅れている。フリーのみの順位では2位と猛烈に追い上げたものの、総合6位に終わった。フリー後のミックスゾーンで、三浦は「今シーズン、もう派遣とかはないかもしれないですけど」と漏らしている。しかし本人の予想に反し代表に選出された四大陸選手権で、三浦はその期待に十二分に応えた。

 全日本のショートで転倒した最初のジャンプ・4回転サルコウは、四大陸選手権でも完璧な跳躍にはならなかった。前傾姿勢で着氷したため、予定していたセカンドジャンプ、3回転トウループをつけられない。絶望したという三浦だが、全日本と同じ失敗は繰り返さなかった。全日本では再び転倒した後半の4回転トウループを今大会では鮮やかに決め、さらに後ろに3回転トウループをつけてコンビネーションにする見事なリカバリーをみせたのだ。

 本格的なシニアデビューシーズンとなる今季、グランプリファイナルにも出場した三浦は、試合で思い切りの良さと冷静さのバランスを保つ術を身につけつつある。二年連続の出場となる四大陸選手権で昨季から一皮むけた戦いぶりをみせた三浦は、91.90というスコアでショート首位発進となった。

 ショート後の記者会見で中央に座った三浦は「グランプリシリーズの時から、ショートは割とまとまって演技することができて」と語った。

「(ショートは)国際試合では得意というか、全日本選手権だけちょっと13位に落ちてしまったのですが、それ以外はよくできていて。今シーズンはすごくショートが安定していていいかなと思うのですが、その分グランプリシリーズでもフリーで逆転を許してしまうことが多々あるので。フリーでもいい流れに乗って『美女と野獣』の世界観をみせられたらと思います」

直前に気づいたジャンプの重複を冷静に回避

『美女と野獣』の世界観をみせた三浦佳生のフリー 【USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 男子フリーの最終グループでは、最終滑走者である三浦の前に滑った佐藤駿やキーガン・メッシング(カナダ)が、素晴らしい演技を展開していた。三浦は自らに「自分もできるぞ」と言い聞かせてリンクに入る。

 予定構成表では4回転ループになっていた冒頭のジャンプだが、三浦はトリプルアクセルからの3連続ジャンプに変更し、手堅く決めた。続いて4回転トウループ―3回転トウループを成功させ、続く4回転サルコウはショート同様に前傾気味になったものの着氷。その後トリプルアクセルも決め、後半に入って跳んだ4回転トウループは、3.66という大きな加点を得る出来栄えだった。

 次のジャンプは、予定構成表によればトリプルアクセルからの3連続ジャンプだったが、このコンビネーションは4回転ループの代わりに入れた最初のジャンプとして既に跳んでいる。さらにその後単独でもトリプルアクセルを跳んでいるため、ここで三本目のトリプルアクセルを跳ぶと規定違反で無得点になってしまう。

 しかし三浦はツイッターで、この部分で勘違いしたままトリプルアクセルを跳ぼうとしており、直前に気づいたことを明らかにしている。確かに動画では、前向きに滑ってきた三浦は今にもアクセルを跳びそうな構えをみせている。しかしそこから振り向いて3回転フリップを跳び、しかもダブルアクセルをつけシークエンスにして成功させた。ジャンプを踏み切る方向を前から後ろに瞬時に切り替えられる身体能力と、冷静さ。この場面は、三浦ならではの強さを象徴しているようでもあった。

 最後のジャンプとなる3回転ループも決め、演技を終えた三浦はガッツポーズをみせている。どちらも自己最高得点となるフリー189.63、合計281.53というスコアをたたき出し、三浦は史上最年少の四大陸王者となった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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