W杯戦士とコンビを組むJ2町田の大卒新人 平河悠の“三笘”を感じる強烈なプレー

大島和人

J2開幕戦でフル出場を果たした平河悠(写真左) 【(C)FCMZ】

 「〇〇の三笘」「〇〇の1ミリ」という表現を、昨年末からよく目にする。もちろん三笘薫(ブライトン)と同レベルの日本人選手がそんなにいるはずはないし、スポーツの結果が1ミリで左右される展開も稀(まれ)だろう。安直な“たとえ”の多用に、ウンザリしている読者がいるかもしれない。ただあえてベタな表現を使いたくなるほど、FC町田ゼルビアの大卒ルーキー・平河悠は魅力的なアタッカーだ。

開幕戦で存在感

 2023年のJ2の中で、町田は特に注目度の高いチームだ。今季は青森山田高校・前監督の黒田剛氏が指揮官に招かれ、J1昇格を視野に入れた強化をしている。新加入はオーストラリア代表として先日のワールドカップでゴールを挙げたミッチェル・デューク、2019年の横浜F・マリノスJ1制覇に貢献した高速アタッカー・エリキなど、大量19名を数える。

 町田は19日の開幕戦で、ベガルタ仙台を相手に五分以上の戦いを見せつつ、0-0のスコアで勝ち点1をつかんだ。先発11名のうち、6名が他クラブからの移籍選手。現時点の登録は35名で、J1からの新加入選手、昨季の主力がベンチ入りから外れるほどの激しい競争状態だ。

 ただ、平河は大卒新人ながら開幕戦の先発で起用され、タイムアップまでピッチに残った。特別指定選手として町田でのプレーは既に経験しているが、2001年1月生まれの彼はこの試合のチーム最年少。世代的にはパリ五輪の出場資格がある。前線ならどこでもこなせるタイプだが、現時点のポジションは右サイドハーフ(ウイング)だ。

 仙台戦の活躍にはインパクトがあった。28分には相手の背後を取る超高速スプリントから右足クロスを上げると、29分に高橋大悟に1点もののラストパスを供給。44分にもカットイン、縦突破の気配を感じさせつつ横パスを送って高江麗央のミドルをお膳立てした。81分、87分と彼自身が迎えた2つの決定機も含めてゴールには結びつかなかったが、町田の決定機には高頻度で絡んでいた。

 大卒新人がデュークやエリキ、高橋大悟といった実力者とともにピッチに立っているというだけで、それなりの価値はある。しかも平河は脇役でなく、完全に主役級の働きを見せていた。

「1枚だったら簡単に剥がせる」

 仙台戦後の取材で、彼はこう口にしていた。

「スペースのある中で(相手が)1枚だったら簡単に剥がせる」

 平河は加速がスムーズで、相手を面白いように剥がせるドリブラーだ。右利きながら左足のキック、左方向への抜け出しもハイレベルで、仕掛けの選択肢が多い。突破して終わりではなく、味方に点で合わせる感覚も持ち合わせている。川崎フロンターレの新人選手として2020年前半のJリーグを騒然とさせ、W杯で世界にセンセーションを巻き起こした“あの男”とそのプレーは似ている。

 スピードがあって、しかも縦へのスプリントと、内側へのカットインがどちらもいい。それは守備側から見ると、対応に困るタイプだ。この試合の町田は仙台の3バックに対して、サイドバックやトップ下との連携で平河が1対1になるように上手く仕向けていた。

 黒田監督は試合後にこう語っていた。

「J1相手にもやれていたので、やはりいけるなと思いました。1つのポイントとして、平河を有効活用することは考えていました」
 もっとも平河は早い時期から騒がれていた選手ではないし、これまでは年代別代表とも無縁だ。高校時代にプレーしていた佐賀東は全国レベルの強豪だが、3年次の高校サッカー選手権は龍谷に敗れて出場を逃している。進学先の山梨学院大も、当時は東京都リーグ1部(関東1部から数えて3部相当)だった。

 しかし山梨学院は都リーグながら2021年夏の総理大臣杯で関東予選を突破し、全国のベスト4進出という快進撃を起こす。攻撃の中心として活躍を見せた平河は当時3年生だったが、町田はすぐオファーを出して21年9月に“2023年の契約”を済ませた。昨シーズンも町田の特別指定選手として16試合に出場しているが、大学でのプレーを優先。チームを関東2部に昇格させて、晴れてプロになった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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