連載:我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語

来日1年目に得点王、2年目には主将を務めたM・ジュニオール「マリノスを心から愛しているし、ここで引退したい」

二宮寿朗
アプリ限定

2019年にマリノスにやってきた助っ人はポステコグルー監督の出会いに胸が高鳴った 【Getty Images】

 フルミネンセで好パフォーマンスを続けるマルコスに、横浜F・マリノスから運命のオファーが舞い込む。ブラジル国内のメディアによれば、フルミネンセでは給料未払いの問題が指摘されていた。マルコスがその話題に言及を避けるのは、愛するクラブを傷つけたくないからなのかもしれない。「サッカー以外のことまでいろいろと考えなくてはいけなかった」とだけ述べた。『ドラゴンボール』を生んだ日本には、興味もあった。家族、妻、そして伯父に相談したうえで、2019年にマルコスは横浜にやって来た。

 アタッキングフットボールとの出会いに胸が高鳴った。アンジェ・ポステコグルー監督2年目のシーズン、チームがその完成度を高めていく過程にマルコスはスムーズに溶け込んでいった。
「ブラジルではいろいろな監督と仕事をしてきましたが、ボス(アンジェ)はまた違うタイプで僕にとっても新鮮でした。勇敢な気持ちで攻撃にかかる一方で、ハードワークして守備をこなさなければこのサッカーは実現できない。僕は天才なんかじゃありませんから、チームに対してできることを献身的に、すべてを出し切ってチームを奮い立たせなきゃならないと考えました」

 初めての異国の生活も、異国のサッカーもノーストレス。もう何年も前からここにいるように、来日して1カ月も経たないうちになじんでいた。日本語が分からないことは本人にとってさほど問題ではない。ひらがな、カタカナを独学で覚えようともしている。

 J初ゴールの興奮と感動は、忘れられないものになった。

3月10日の川崎戦で決めた来日初ゴール

初ゴール後に味わった歓喜の瞬間。その写真は今も自宅の冷蔵庫に貼ってある 【Getty Images】

 3月10日、日産スタジアムでの川崎フロンターレ戦。前半早々に失点してリードを許すなか、反撃に出る。仲川輝人が大津祐樹と連係して右サイドを崩してグラウンダーのクロスをゴール前に送る。流れてきたボールをファーで待ち受けていた左ウイングのマルコスが右足でゴールマウスに蹴り込んだ。

 雄叫びを挙げながらダッシュしてガッツポーズを繰り出す。アドレナリン全開だった。

「テルがいいパスをくれました。今でも目をつぶるとあのシーンが真っ先に思い出されます」

 その歓喜のシーンを撮った写真をもらい、いつも目に入るようにと自宅の冷蔵庫に貼りつけた。それから一度もはがしたことがない。毎日見ることでチームへの愛を深め、献身を誓い、そして初心を忘れないようにと戒めにもした。
  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 次へ

1/2ページ

著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント