初めて自らの手でつかんだ、世界選手権代表の座 冷静なエンターテイナー、友野一希の魅力

沢田聡子

荒れた全日本、自分自身に集中した友野の強さ

荒れた展開の全日本で結果を出せたのは、繰り上げ出場によって得た、自分の演技に集中する心構えの影響も大きい 【写真:坂本清】

 “浪速のエンターテイナー”と称される友野は、一方で“代打の神様”とも呼ばれてきた。過去に何度も補欠から繰り上げ出場した経験を持ち、その度に結果を残してきたからだ。楽しげに踊って客席を湧かせながらも、大舞台できっちりとジャンプを決めて高い得点を出すことの重要性を知り実行できるのが、友野一希というスケーターの凄さだといえる。

 今季グランプリシリーズでの友野は、フランス杯では銅メダルを獲得したもののNHK杯では4位となり、ファイナル進出は逃している。日本男子はファイナルに4人進出しており、北京五輪銀メダリストの鍵山優真も出場した全日本はハイレベルな戦いとなった。しかし、友野はショート・フリーとも4位という堅実な戦いぶりで総合3位に入り、念願の世界選手権代表選出という結果につなげている。

 ミスが続いて荒れた展開となった全日本のフリーでも、大きな失敗は4回転トウループが2回転になった一か所のみにとどめ、後半で2本のトリプルアクセルを成功させる粘り強さをみせた。代表発表記者会見でフリーの試合展開を振り返る友野のコメントからは、大舞台を踏んだ経験から得たものの大きさがうかがえる。

「僕はやっぱり何回も試合をこなしてきて、なんとなく勘で、6分間(練習)の雰囲気から多分気をつけないと荒れるというか、ちょっと独特の緊張感があった(のを感じた)。『自分に集中してしっかり雰囲気に引きずり込まれないようにやれば、結果はついてくるんじゃないか』と自分の中で予感していたので。特別(他の選手の)演技を見たというわけではないですが、とにかく客観的に雰囲気や周りの緊張感を感じとりながら、しっかり自分自身に集中して演技に臨みました」

 繰り上げ出場で出してきた結果は、自分に集中する冷静さを保って試合に臨む心構えが生んだ必然であることを感じさせる言葉だった。

 友野は昨季世界選手権でショート3位につけ、スモールメダルを獲得している。フリーではミスが続き総合6位に終わったものの、大舞台で存在感を示した。

『アイスエクスプロージョン』ゲネプロ後の会見で世界選手権への意気込みを問われた友野は「去年ショートはよかったのですが、フリーですごく悔しい思いをしているので、リベンジというのもありますし」とし、言葉を継いだ。

「また、初めて自分でつかみとった代表なので。でも2回経験はあるので、しっかり自信を持って臨みたいなと思います」

 友野は全日本で、自ら掲げた「脱!代打!」という目標を見事に成し遂げた。繰り上げ出場した過去2回の世界選手権で得た経験が、さいたまスーパーアリーナのリンクでも友野を支えてくれるはずだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント