全国2冠狙う前橋育英、再び「キャプテン涼」で選手権優勝なるか

平野貴也

2冠のカギは、攻撃の選択と変化

 全国2冠達成のカギは、増えた攻撃の選択肢を、状況に応じて的確に選べるかどうかだ。混戦模様の大会であるにも関わらず、夏に全国制覇を果たしたことで相手に研究され、狙われる立場になる。

 山田耕介監督は「もう少し(チームの状態を)上向きにしないと、相当厳しいと思います、ハッキリ言って。(全国で)狙われますね。ボールを相手のライン間でもらうとか、こちらのポゼッションのやり方は、研究されてスペースを消される。バリエーションが必要」とまだ見ぬ相手の育英対策を見越して警戒。また「ハイプレスにも、リトリートにも対応できるように、相手の布陣を見て機転が利かないといけない。相手の守備の仕方によって、どこが空くのか。型にはめず、試合開始10~15分で『これ』という戦い方をやらないといけない」と攻撃方法の選択を課題に挙げた。

 柔軟性を持ち、試合の中で変化を持つ点は、6-0と快勝した県大会決勝でも選手が強く意識していた部分だ。共愛学園を相手に、早めに前線へボールを入れて押し上げる攻撃で優位に立った。一方で引いた相手を崩しきれず単調になり、ボール支配率の割には相手に脅威を与えられない時間も長かった。主将の徳永は「前線に頼りきりのサッカーになってしまった」と課題を指摘していた。

5年前の初優勝時と同じく「キャプテン涼」がまとめるチーム

主将の徳永涼。攻撃のタクトを振るうゲームメーカーだ 【筆者撮影】

 現代サッカーらしく、一つの型を押し通すだけでなく、状況に応じた変化にも取り組んでいるチームだ。当然、判断力や伝達力が必要になる分、難しい。しかしチームのまとめ役である徳永の頼もしさは、それが可能だと感じさせるだけのもの。山田監督は「給水タイムのときに、涼がみんなに言っていましたよ。『こんなんじゃ、スタンドで見ている同級生は納得しないぞ』って。その通り!と思っていました」と笑みを浮かべて、県大会の決勝で仲間を鼓舞した“ピッチ上の監督”への信頼を示す。

 前橋育英が初優勝を飾ったのは、5年前。2017年度の第96回大会だ。当時の主力選手の多くが高卒、大卒でJリーガーになっている。今大会は、高卒でプロに内定している選手がいない。それでも山田監督は「スーパースターがいる感じではないけど、みんながボールを持てるし、コントロールの良い選手が多い。全体の平均よりちょっと上の選手がいっぱいいる。チームとしては期待できると思う」と戦力に自信を持っている。

 主将の徳永涼は「(優勝候補として)見られるプレッシャーは感じますけど、それをみんなが楽しむくらいのメンタリティーで、気負うことなくやっていきたい。選手権は、入学前の小さい頃から見てきた、憧れの舞台。国立競技場でプレーするという夢があった。一歩一歩、近づいてきている実感はある。特別なものだし、夢をつかみたい」と意気込む。

 前回優勝時の主将は、MF田部井涼(横浜FC)。上州の虎は再び「キャプテン涼」がまとめるチームで、夏冬2冠と、2度目の選手権制覇を目指す。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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