逸材2人を擁して“勝負の年”を迎えた神村学園 新たな強みをつかんで頂点を目指す

大島和人

福田師王(左)、名和田我空(中)、大迫塁(右)の年代別代表3人が長崎U-18戦では揃って得点を挙げた 【撮影:大島和人】

大迫、福田はプロ注目のコンビ

 鹿児島県は日本代表の主力を相次いで送り出してきた土地だ。前園真聖、城彰二、遠藤保仁を輩出した鹿児島実業はオールドファンならご記憶だろう。W杯カタール大会のエースを期待される大迫勇也は鹿児島城西OBだ。神村学園高等部の男子サッカー部はそんな鹿児島の代表として、5年連続で全国高校サッカー選手権大会に出場している。

 神村は2006年度の第85回大会に初出場してベスト4入りを果たしたときから「見て楽しい」サッカーをしている。橘田健人(川崎フロンターレ)や高橋大悟(清水エスパルス)といったOBを見れば分かるように、主に技巧派MFをJリーグに送り出してきた。うまいチームは得てして戦績が不安定になりがちだが、彼らは違う。近年は付属中との一貫指導体制も定着し、安定して県内の覇権をつかんでいる。

 2022年度は神村にとって、さらなる“勝負の年”だ。キャプテンを務めるMF大迫塁、FW福田師王は高1からチームの主力で、神村学園中時代から注目を浴びていたタレント。そんな二人が最終学年を迎えている。

 大迫は既にセレッソ大阪入りを決めている左利きの司令塔で、U-15から年代別日本代表の常連だ。福田師王は高1、高2と選手権の優秀選手に選出され、昨夏の高校総体では得点王を獲得している生粋のストライカー。3月にはU-19日本代表候補にも呼ばれた。進路は未定だが、こちらもプロ入りは間違いない。

 他にも1年生にして10番を背負うMF名和田我空、DF吉永夢希がU-16代表に呼ばれている。とにかく「上を狙える人材がいる」「スカウトが追う」チームだ。

総体のアクシデントを乗り越えて復調

 しかし7月の高校総体では、初戦で履正社(大阪)に0-2で敗れた。有村圭一郎監督はこう振り返る。

「(一部の選手が)コロナでずっと休んでいて、1日も練習しないで試合に出たり、まだ後遺症が残っていたり、そんな中でゲームさせてしまった。もちろん本人たちは全く動けなかったし、かわいそうなことをさせてしまった」

 相手の履正社は高校生年代の最高峰に位置する「高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2022」に参戦し、川崎フロンターレ入りを決めた名願斗哉を擁する強豪。ベストコンディションで臨んだとしても、厳しい戦いになっただろう。とはいえ神村は夏の全国タイトルを、不完全燃焼で終えてしまっていた。

 その後は復調を果たしている。8月中旬に大阪で行われた「ユースワールドチャレンジ・プレ大会2022」は静岡学園、昌平、興国と注目校がそろう大会を制した。プリンスリーグ九州もここまで8勝2分けと無敗の首位。17日には2位・V・ファーレン長崎U-18とのアウェー戦を3-1で制している。

 長崎戦は相手の組織的な守備に苦しみ、前半はセカンドボールを支配されて0-1とリードを許す展開だった。後半はサイドハーフの立ち位置を中寄り修正することで悪い流れを断ち切り、福田と大迫、名和田が立て続けにゴールを決めて勝ち切った。

「ボランチは取られにくい」

大迫塁(右)は1年から神村のエース番号「14」を背負う 【写真は共同】

 大迫は試合後にこう振り返っていた。

「しっかり神村がやることをやれば、点数も取れると思っていました。慌てずにやれたのが良かったのかなと思います。前半は結構セカンドボールを回収されていたし、サイドに入ったときに(エリアの)中に入る人数も少なかったんですけど、後半はそういうところも修正できました」

 今年の大迫はボランチとしてプレーしている。スルーパスが強みで、スペースがあれば自分で運び出すドリブルもできる。夏休みにはC大阪の練習に2週間ほど参加してJ1の強度に感覚を慣らし、清武弘嗣からはスルーパスの極意も学んだという。

 ボールを奪われず、落ち着かせられるところが大迫の強みだ。ボランチでのプレーについて尋ねると、面白い見方を説明してくれた。サッカーをそれなりに取材しているが、このような感覚を口にする選手は初めてだった。

「ボランチは(ボールを)取られにくいです。『360度から(相手が)来るから難しいよね』と言われますけど、逆に360度逃げるところがあるから簡単なんです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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