連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 最終話「日本を青に」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 2038年11月23日、インド・ワールドカップ(W杯)の日本初戦当日――。
 上原丈一はインド西部の街・コルカタのスポーツバーにいた。
 マルシオのスポーツバー「オブリガード」が現地の店と提携し、日本人サポーターのための拠点がつくられたのだ。まだ夜の試合まで数時間あるのに、店内は日本代表のユニフォームで溢れ返っている。
 丈一は一番奥の席にラップトップを広げて陣取り、今日のスペシャルゲストを待った。
 入口の向こうに、メガネをかけた銀行員のような男性が姿を現した。
 来た!
丈一は入口に向かって走り、8年ぶりのハグをかわした。

 同時刻、日本代表のホテル――。
 午後6時半キックオフのアルゼンチン戦に向けて、選手たちはランチを終えようとしていた。
 日本代表の食事では、じゃんけんに負けた人がテーブルにいる全員分のコーヒーを持ってくるという習慣がある。
 この日、負けたのは玉城だった。小高有芯ら6人分のコーヒーをトレイに乗せて円卓に届けたとき、監督の秋山大がみんなに呼びかけた。
「ちょっとミーティングルームに集まってくれ」
 何事だろう? 予定表にはなかったスケジュールだ。
 渋谷寛人がコーヒーを飲みながら小声で言った。
「どうせ冨山会長とかお偉いさんの挨拶じゃねえ?」
 一宮光が悪ノリする。
「日本の首相かもしれませんよ。今回の代表は期待が大きいから」
 玉城も慌ててコーヒーに口をつけ、誰だろうと考えた。
 もしかしたらOBかも?
 玉城の予感は的中した。
 ミーティングルームに入ると、スクリーンに上原丈一が映し出されていた。
 選手たちから一斉に驚きの声があがる。
「ジョーさん!」
 スピーカーから丈一の声が聞こえてきた。
「みんな、半年ぶりだな! クレドができて以来、コミュニケーションや議論が活発になったと秋山から聞いている。OBとしてすごく嬉しい。俺たちにできることはもう限られているだろう。それでも最後に何かを届けたいと思った。これからメッセージを伝えさせてくれ」
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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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