[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第2話「大学生・玉城迅」
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もう代表の戦いは始まっている――玉城は自分にそう言い聞かせると、長い黒髪を撫で、強気のスイッチを入れた。
まずは通信社の記者がお決まりの質問を投げかけてきた。
「6月の親善試合に向けて日本代表の23人が発表され、玉城迅選手が初招集されました。11月のインドW杯のメンバー入りも夢ではありません。率直なお気持ちを教えてください」
「ついにこの日が来たなという感じです。毎回、俺を選べ、そうしたら日本代表を変えてやる、っていう念を送っていたのでね」
「えっと……大学生なのに相当な自信ですね」
「経歴や肩書きでサッカーを語るのはやめません? 歴史や格で勝負したら、一生W杯で勝てないですから」
「なぜ招集されたと思いますか?」
「戦術眼が日本の誰よりも優れているからだと思います」
通信社の記者がビッグマウスに閉口していると、一癖ありそうなフリーランスの記者が手を挙げた。
「経歴と言えば……今回もう1人初招集がいるんですが、誰か聞いてます?」
「いや、まだ携帯もチェックしてないんで」
「マンチェスター・ユニティの松森レオ。元日本代表の松森虎の息子で、最近までU19イングランド代表でプレーしていたんですが、初めて日本代表の招集に応じました。日英で争奪戦になっているストライカーです。失礼ながら、大学生とはモノが違うのでは?」
「ああ松森レオね」
「面識がある?」
「いや、会ったことも、話したこともないです。でも、僕が使っているバーチャルリアリティの練習システムでは、好きな選手を選べるんでね。おもしろい選手なんで、しょっちゅう選んでますよ」
「ゲームで選手を選ぶ感覚でしょうか」
「んー、正確には違いますが、まあそうですね」
「それでわかってる気になってるのって危険じゃ……」
玉城は説明しても無駄だと思い、質問を無視した。
「有明臨海大学では僕の戦術の引き出しを30%も使えてないんですが、レオと一緒にやったら50%くらいまではいけるでしょう。そういう意味でも楽しみです」
プライドを傷つけられたのだろう。フリーランスの記者は毒づいた。
「玉城選手が代表でモメないといいですね」
当然だ――玉城は心の中で思った。日本代表内でモメごとを起こすつもりはない。だが、階段は駆け上がれるときに一気に駆け上がらなければ、次の勢いが知れてしまう。
玉城は自分に言い聞かせるように強い言葉を発した。
「他の選手がいくら稼いでいるか知りませんが、こっちは収入ゼロ。失うものがない人間は強い。大学生だからこそ、好きにやらせてもらいますよ」
玉城は背中に汗がにじむのを感じた。
これからこの緊張感を快感に変えなければならない。
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