田中碧、W杯前に本音で思いを語る「日本人全員で船に乗り、他の国を倒しにいっている感覚」

木崎伸也

W杯を直前に控え、「言葉の力」を持つ田中は何を語るのか 【Photo by Kenta Harada/Getty Images】

 今、日本代表の中で最も「言葉の力」があるのは、田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)ではないだろうか。

 東京五輪で4位に終わったときは、「彼ら(スペインやメキシコ)はサッカーをしているけれど、僕らは1対1をし続けている。それが大きな差」と発言。日本サッカーの問題点をシンプルに表した。

 また、W杯最終予選第4節のオーストラリア戦で先制ゴールを決めて勝利に貢献すると、次のように語った。

「スタジアムに来るときに5歳くらいの子供がユニフォームを着て僕らのバスの写真を撮っていた。こういう子供たちに夢を与えないといけないなと感じました」

 なぜ田中碧の言葉にはこれほど力があるのだろう? ドイツとオンラインでつなぎ、インタビューを行った。

「自由に動いているのが、いい方向につながっている」

好調の要因は「2つある」と冷静に分析 【スポーツナビ】

――ドイツ2シーズン目となった今季、田中碧選手はデュッセルドルフで先発に定着し、開幕戦ではキッカー誌のドイツ2部・ベストイレブンに選ばれましたね。好調の要因は?

2つあると思います。1つは体だけでなくメンタル面も含めて、すごくフレッシュな状態で新シーズンを迎えられたこと。もう1つはチームとリーグの両方にアジャストし、同時にチームメイトも僕に合わせてくれるようになったこと。この2つが重なって、一定のパフォーマンスを発揮できていると思います。

――今季は「8番」(トップ下とボランチの中間のようなポジション)の役割で主にプレーしており、チームメイトとの距離感が非常にいいように見えます。

日本にいるときは、全体の配置を見て、自分がどこに立つべきかを考えてやっていたんですね。今はどちらかというと、ポジションや立ち位置を少々崩してでもボールを触りにいくようにしています。

自由を与えられていて、FWに近づいたり、最終ラインに落ちたり、いい意味でポジションを守らずにプレーさせてもらっています。

これを90分やり続けるのはすごくきついですけれど、周りから信頼を得られるし、自分の存在感を出せる。自由に動いているのが、いい方向につながっているのかなと思います。

――川崎フロンターレのときは「相手の配置を見て、こういうときは誰がどこにいるべき」という共通理解があったのが、デュッセルドルフではポジショナルプレー的な立ち位置を取ると逆にパスが来ない、ということがドイツ1年目は多かったということですか?

そうですね。チームメイトとそこまで戦術的に深い会話をできていないので、彼らにポジショナルプレーの概念があるかどうかはわからないですし、ブンデス1部はまた違うのかもしれませんが、ドイツサッカーの傾向として守備で1対1を多く作ろうとするんですね。いわゆるオールコート・マンツーマンです。

Jリーグでオールコート・マンツーマンは札幌が少しやっているくらいで、相手の間に立てば誰かが空くというスタンスで試合をしていました。ポジションを取るための空間も時間もたくさんあったんです。

それがドイツだとオールコート・マンツーマンが基本なので、日本のときのように間に立とうと思っても相手がついてくる。動かないとボールが来ないし、そもそもセンターバックのところにプレッシャーがかかっている。

相手が人基準で守ってきたときにどう振る舞えばいいのか、ドイツで1年間プレーして整理できました。

ホームの試合後に1人スタジアムで……

21年夏の東京オリンピックではベスト4入りに貢献 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

――今季は相手からボールを奪うシーンが目につき、それがドイツのメディアでも話題になっています。自分ではどう感じていますか?

オフに体を変えなければいけないと思い、取り組んだ成果が出ているのかなと。自分の考え通りに体が動き、そのまま前にいけるようないい形で奪えている感覚があります。

――日本人の守備はアグレッシブさが足りないとよく言われますが、ドイツに行ってから意識の変化はありましたか?

日本にいるときは、足を伸ばせば取り切れることが多かったんですね。ただ、ドイツでは自分より足が長い選手がたくさんいるので、シンプルにぶつかり合いで勝たなきゃいけないという意識になった。

1年目から頭ではそれをわかっていたんですけれど、実行するのは簡単じゃなかった。今季は慣れもあるんでしょうが、先ほど言ったように、体づくりの工夫が成果として出ていると思います。

――W杯最終予選の序盤、日本代表のチーム内で「東京五輪に出た選手が燃え尽き症候群になっている」という指摘がありました。やはり自国開催の五輪は消耗度が大きかったんでしょうか?

そうですね。結果がどうかは置いておいて、6試合を戦うことができた。チームとして積み上げてきたものに1つ区切りがつき、身体的にも、メンタル的にもやり切った感じがあったと思います。

そこからもちろんやる気はあるんですけれど、本来のコンディションに戻すのはすごく大変でしたね。

――ヨーロッパでは日本のような気晴らしは少なく、さらに冬は天気が悪く、試合に出られない時期があるとすごく精神的にきついと思います。高原直泰選手はハンブルク時代に夜に叫びながら運転していたそうで、長谷部誠選手は原因不明の発熱に時々悩まされました。本田圭佑選手はオランダ2部に降格したとき、プレッシャーから毎試合前にトイレで吐いていたそうです。田中選手は昨季の試合に出られない時期をどう乗り越えましたか?

いや、本当に大変でしたね。きつかったです。僕は吐いたりはしなかったですけれど、腐るほど走っていました。練習が終わったあともそうですし、ホームの試合後、みんなが帰宅してから、1人でスタジアムで走っていました。

お腹は空くので、まずはチームメイトとスタジアムで食事をして、みんなが帰ってから、スタンドに誰もいない中、1人で走るんです。スタジアムの片付けをする人と仲良くなって、一緒に走ったこともありました。

――走らないとやり切れなかったと。

自分に対する不甲斐なさがあったので。何かしないと、いても立ってもいられなかった。スタメンのとき以外はほぼ走っていましたね。

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著者プロフィール

1975年1月3日東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経てフリーに。2002年日韓ワールドカップ後にオランダに移住。2003年からドイツを拠点に取材を続けている。著書に『2010年南アフリカW杯が危ない!』(角川SSC新書)、共著に『敗因と』(光文社)がある。『Number』『ワールドサッカー・グラフィック』『ワールドサッカー・ダイジェスト』『フットボリスタ』『サッカー小僧』などに執筆。日々ブログを更新中

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