森保一監督×戸田和幸 豪州戦直前対談 大一番を前にしても平常心を保てる理由
森保一監督(左)と戸田和幸氏(右)による対談が実現。W杯出場をかけた最終決戦を前に指揮官の胸の内に迫った 【YOJI-GEN】
ラッキーだった中国戦→サウジ戦の試合順
森保一(以下、森保) こちらこそ、応援していただいてありがとうございました。しかし、これも選手たちが本当にプライドを持って、誰が欠けても結果を出すんだという思いで試合に臨んでくれた結果です。褒めるなら、選手を褒めてあげてください(笑)。
戸田 今振り返って、実際にあの2試合に臨むにあたっては、どれくらいの危機感を持たれていたんですか?
森保 危機感自体は、ゼロではありませんが、実はそんなになくて。ひとつ我々(われわれ)にツキがあったのは、中国戦からサウジアラビア戦という試合の順番だったことですね。コンディションの部分もそうですが、新しいCBが入ってくる中で、いろんなことを確かめながら中国戦を戦って、少しでもチーム状態を上げてからサウジアラビア戦に向かうという流れが作れましたから。
戸田 谷口彰悟選手と板倉滉選手のCBコンビに対しては、彼らをピッチに送り出すまでに、何か意識して働きかけたことはありますか?
森保 我々のコンセプトを、どれだけ徹底して試合の中で発揮してもらえるか。大きなところで言えば、コンパクトな形を保って攻撃をし、相手の嫌がる守備をするために、やはりラインの上げ下げについては、こちらの要望を伝えました。
戸田 ビルドアップでも非常に良い縦パスが入っていましたが、ああいったプレーも意識してトライさせたんですか?
森保 そうですね。谷口も板倉も、攻撃に絡んでいけるCBですから、その特徴を出してほしいと。しっかりとした守備で相手をゼロに抑えながら、攻撃面でもチームに良いリズムを作ってくれていたと思います。
毎試合が大一番だと思って戦ってきた
選手の故障なども含めて苦しみながら成長も見せてきた日本代表。24日のオーストラリア戦はW杯出場へ向けて大一番となる。 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
森保 前回の2試合は、チームにとっても、選手個々の成長にとっても非常に大きかったですね。麻也に代わって(遠藤)航にキャプテンをやってもらいましたが、彼もこれまでとは違う、いろんな思いを感じたでしょう。自分にできることをチームに還元しようという選手一人ひとりの責任感が、やはりいつも以上に強かったからこそ、チームとしても良いパフォーマンスができたんだと思います。帰ってきた麻也には、また麻也らしいキャプテンシーを見せてほしいですが、同時にチームの成長も感じてもらいたいですね。
戸田 責任感とか使命感はモチベーションにつながる一方で、場合によってはすごく大きなプレッシャーにもなります。プレーするのが怖くなったり、結果にとらわれすぎて、試合を楽しめなくなったり。最終予選の最初の3試合で2敗を喫して、やはりその部分のマネジメントが非常に難しかったのではないかと想像しますが、実際、ここまで持ち直すのは、どれくらい大変でしたか?
森保 プレッシャーに関して言えば、選手たちが自信を持って、思い切って戦えるように、それを取り除いてあげる働きかけが必要だとは思います。ただ、実はほとんどの選手が個々であったり、選手間でそうした問題を解決してくれたんです。彼らのプレッシャーに向き合う能力の高さを、あらためて感じましたね。やはり大きいのは、目標がはっきりしているということ。最終的な目標はW杯でベスト8以上の結果を出すことですが、まずは最終予選を勝ち抜くという目標に、選手たちは自然な形でフォーカスしてくれました。
戸田 いよいよ次のオーストラリア戦に勝てば、W杯出場が決まるというところまでたどり着きました。森保監督はこれまでのキャリアの中で、数々の大一番を経験されていますが、こうした重要な試合に臨む際に必要なことはなんでしょう?
森保 そうですね……今回のオーストラリア戦が大一番であることに変わりはないんですが、これまでも毎試合が大一番だと思ってやってきました。「勝たなければ終わり」という試合は、すでに何度も経験し、乗り越えてきました。最終予選の出だしが1勝2敗で、あとはもう勝ち続けなければW杯の出場権を勝ち取れないと、そんな気持ちで一戦一戦、目の前の試合を戦い、勝ち切ってきたわけです。
選手たち、そしてスタッフにも伝えたいのは、我々は勝たなければ終わりのプレッシャーにはすでに打ち勝ってきて、このオーストラリア戦を迎えるんだということ。だから、まずはそこに自信を持ってほしいですね。
戸田 なるほど。
森保 一番大切なのは、やっぱりそこでしょうね。次のオーストラリア戦は、相当なプレッシャーがかかる試合になりますが、私が選手に言ってあげられるのは、これまでしっかりと自分の仕事をして、チームのために戦ってきた結果として、この大一番に臨めるんだということ。自分たちが持っているものをすべて出し切れば、勝利の確率は限りなく上がるんだと伝えたい。そして、我々はW杯でベスト8以上の結果を出すために、今を戦っているんだということを忘れないでほしい。今だけのことを考えて、押しつぶされないでほしいんです。