W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

森保一監督×戸田和幸 豪州戦直前対談 大一番を前にしても平常心を保てる理由

YOJI-GEN

引き分け狙いで行くつもりはない

勝ち点を考えても日本はオーストラリアよりもやや有利な状況だが、森保監督は「引き分け狙いでいくつもりはない」と攻めの姿勢を強調する 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

戸田 勝ち点状況を考えても(グループ2位の日本が18、3位のオーストラリアが15)、最終戦の相手を見ても(日本がホームのベトナム戦、オーストラリアがアウェイのサウジアラビア戦)、追い詰められているのはオーストラリアの方だと思います。彼らは次の日本戦に、絶対に勝たなくてはならない。しかもホームですからね。そうした状況を考えたときに、引き分けを前提に試合に臨むということは、どのくらい現実的なのでしょう?

森保 引き分け狙いでいくつもりはありません。難しい戦いになるとは思いますが、アグレッシブに、我慢強く、そして賢く戦うことを忘れずに、あくまでも勝ち点3を目指したい。相手が勝利を与えてくれるわけでも、W杯の出場権を与えてくれるわけでもありませんから。選手たちには、自分たちで勝ち取りに行く、つかみ取りに行くということをしっかり胸に刻んで、試合で表現してほしいですね。

戸田 前回対戦(昨年10月12日、ホームで2-1の勝利)の印象、もしくはここ最近のオーストラリアの試合から、彼らの強みはどこにあると見ていますか?

森保 ゴールに向かって、縦からも横からもダイナミックに攻める迫力でしょうね。今回の戦いにおいても、かなり前から圧力をかけてくると思いますが、我々はそれに屈しないようにしたい。もちろん受ける時間帯もあるでしょうが、受けた後に、これまで積み上げてきた、良い守備からの良い攻撃につなげていくことが大切です。

戸田 前回対戦時は、オーストラリアにサイドからうまくボールを運ばれた場面が何度かあった一方で、試合全体を通して見ると、日本はよくプレスが効いていたし、ボール奪取から非常にスピーディーな攻撃につなげていたように思います。

 今回もオーストラリアが出てくることを想定し、逆に相手に持たせてやろうということは考えていますか? 今の日本は、奪ってからの攻撃もすごく速くて強いですが、対するオーストラリアは、裏返されたときの対応にやや難があるように見えますから。2月のサウジアラビア戦(ホームで2-0の勝利)のように、伊東純也選手のスピードを使って、うまくスペースを突けるような気もします。

森保 前回対戦でピンチになったシーンに関しては、ボールを奪いに行くタイミングが合わず、相手に突破を許してしまった。もちろん、積極的にボールを奪いに行く姿勢は悪くありませんが、ただ奪い切るタイミングを合わせていく必要はあります。相手がボールを握ったときに、しっかりと制限をかけて奪い切るところは、試合前に整理しておきたいと思います。

自分はここまで「生かしてもらっている」

日本もオーストラリアも欧州組を多く抱えるが、少ない時間でどれだけ準備をできるかが勝負を左右する。 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

戸田 先ほど前回シリーズのときに、中国戦がサウジアラビア戦よりも前にあったので、それはラッキーだったという話をされていましたが、今回は2連戦の初戦がオーストラリア戦です。ヨーロッパから合流する選手たちの身体的なコンディションに加え、前回の活動からまた1カ月半ほどが経ち、代表でのプレーを思い出させるという意味でも、準備が難しい部分はありませんか?

森保 おっしゃる通りですね。これまでの代表チームでの活動を、もちろん選手たちは覚えてくれていると思いますが、それでも所属クラブでの戦いが日々ある中で、あらためてスイッチを代表モードに切り替えてもらわなくてはなりません。

 ヨーロッパからオーストラリアへの長距離移動もあり、メンバー全員がそろうのは前々日の夜で、実際にチームとして準備ができるのは、試合の前日と当日のみ。個別ミーティングやグループミーティングを通してマインドを変えてもらい、スムーズな連係ができるように、ピッチ上での練習はもちろん、ミーティングで使う映像なども細かく考えながら、取り組んでいくつもりです。

 ただ、移動に関しては、オーストラリアにもヨーロッパでプレーする選手が多いので、そこはあまり条件が変わらないと思います。とにかく我々スタッフは、選手たちがフレッシュな状態で戦えるように準備を進めるだけです。

戸田 なるほど。ところで、前回インタビューさせていただいたとき(昨年10月)と比べて、森保監督の表情と雰囲気が少し変わったように感じます。前回の方がもう少しピリピリされていたように見えました。

森保 今もピリピリしていますよ(笑)。

戸田 やっぱり、厳しい予選を一つひとつ、まさに決勝戦だと思って戦ってきて、いよいよ最後、あとひとつ勝つだけだっていう状況にたどり着けたからこその表情というか。もうあとはやるだけだって、覚悟を決めた表情に見えます。

森保 オーストラリア戦に向けて、もちろん身の引き締まる思いはあります。ただ、さっきも言ったように最終予選のスタートが1勝2敗で、そこから自分は「生かしてもらっている」と感じながら戦ってきましたし、おっしゃるように一戦一戦、すべてが決勝戦のつもりでやってきましたから、この大一番を前にしても、これまでとあまり変わらない気持ちではいられます。

 いざ試合になれば、また緊張感が増してくるんでしょうが、しかしこの緊張感のある戦いをやらせてもらえる喜びや幸せ、誇りが、すべてを上回るんです。

戸田 まだ残り2節ありますので、ここからいろんなことが起こり得ると思いますが、森保監督の覚悟は間違いなく伝わってきました。あとは残りの試合を、日本らしく、森保監督らしく戦っていただければと。我々は最後まで一生懸命に応援しますので。

森保 ありがとうございます。DAZNさんには、最終予選のすべての試合を中継していただいていますが、この放送を通して、本当に多くの方が日本代表を応援してくださっていることを心強く思いながら、ここまでやってきました。残り2試合ですが、まずはオーストラリア戦に全力を尽くし、みなさんに勝利と笑顔を届けられるように頑張りたいと思います。

協力:DAZN

森保一(もりやす・はじめ)

1968年8月23日生まれ。長崎県出身。長崎日大高から87年にマツダ(現サンフレッチェ広島)に加入し、92年からは広島の中心選手として活躍。94年のJリーグ・サントリーシリーズ優勝に貢献した。その後、98年に京都パープルサンガ(現京都サンガ)にレンタル移籍するが、翌年には広島に復帰。2002年からベガルタ仙台でプレーし、04年1月に現役を引退した。日本代表でも名ボランチとして鳴らし、通算35試合・1得点。93年には「ドーハの悲劇」も経験した。指導者に転身後は、広島の育成コーチや年代別の日本代表コーチを歴任し、07年からは広島のトップチームコーチを務める。アルビレックス新潟のヘッドコーチを経て、12年に広島の監督に就任すると、1年目にリーグ優勝を達成。翌13年には史上4人目となるJ1リーグ連覇を果たした。15年にも再び年間王者に輝き、17年には東京五輪を目指すU-23代表チームの監督に就任。18年ロシアW杯でコーチとして日本代表のベスト16入りに貢献すると、大会後には五輪代表監督と兼任する形でA代表の監督に就任。1年延期となった今夏の東京五輪も指揮した。

戸田和幸(とだ・かずゆき)

1977年12月30日、東京都生まれ。桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。解説者に転身し、緻密な分析と、ピッチで起きている現象の的確な言語化によって人気を博す。18年に慶應義塾大学ソッカー部のコーチ、20年からは一橋大学ア式蹴球部のコーチ、監督を歴任し、今年からSHIBUYA CITY FCでテクニカルダイレクター兼コーチを務める。著書に『解説者の流儀』(洋泉社)がある。

【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント