W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

川端暁彦×飯尾篤史の日本代表徹底討論 弱い?強い? どう見るのが正解なのか?

吉田治良

戦術しか語らないのはもったいない

出場機会の少ない原口(写真)や予選途中で出番を失った柴崎など、チームを支えるベテランの姿勢も見逃せない 【Photo by Kaz Photography/Getty Images】

飯尾 間違いないですね。例えば、21年10月のオーストラリア戦、1-1でゲーム終盤を迎えて柴崎岳がピッチに入ってきた。ご存じのように柴崎は、その直近のサウジアラビア戦で決勝点につながるバックパスミスをして、スタメンから外れていたわけです。すると、その直後、浅野拓磨の決勝ゴールが生まれたとき、柴崎が真っ先に浅野に駆け寄っていき、そのあとで一人ゴール裏に向かってガッツポーズをするんですね。彼の立場や心理を考えると、胸が熱くなってしまう。

川端 カッコ良かったですね。

飯尾 例えば、原口元気はそんなに出番が得られていなくて、囲みの取材に出てきたときに、「やっぱり悔しい」と口にするけれども、「まずW杯に行かなきゃいけないし、そのためにも自分はチームのためにやれることをする」と言うわけです。原口というとやんちゃで、ドイツに行って選手としての幅が広がったとはいえ、陰で盛り上げるようなキャラではないと思われているかもしれない。でも、原口なり、柴崎なりが悔しさを押し殺して、チームのためにやってくれている。それによって田中碧や守田英正がのびのびとプレーできるという側面はあると思うんですよ。

川端 それって柴崎や原口が逆の立場だったときに、先輩たちの姿を見ていて、日本代表の伝統として受け継がれていると思うんですよ。「ああいう男でいたい」ってね。それも含めての、日本代表の力。代表チームの戦いって、いろんな世代が積み上げてきたものが問われる舞台でもある。そういう代表の力が、追い詰められた状況で出たというのは素晴らしいこと。

飯尾 2002年日韓W杯のときに、ゴンさん(中山雅史)や秋田豊さんが率先してチームを鼓舞してくれた。逆に、06年ドイツW杯ではそういう選手がいなくて、うまくまとまれなかった。そうしたら10年南アフリカW杯では川口能活さんや中村俊輔がそういうことをやってくれて。その姿を見ていた本田圭佑が、18年ロシアW杯でサブに回ったときに、槙野智章を誘って盛り上げてくれた。それを知っている柴崎や原口が今回、チームを支えてくれている。そういう戦術以外の部分に、代表チームの魅力って詰まっていると思うから、そうしたチームの雰囲気も感じ取ってほしいですよね。そもそも代表チームは、試合前2日間くらいしか練習ができない。しかも年間で12試合くらいしかできない。そうなるとぶつ切りの練習を、年間24〜30日しかやれないわけです。

川端 しかも、中3日で移動ありみたいな連戦ですから、強度の高い練習はまったくできないし、特別な戦術を落とし込む、新しい選手たちとの連係をトレーニングで作ることはどんどん難しくなっていますよね。

飯尾 逆に言えば、そんな代表チームを見るときに、戦術的なことだけでしか語らないのはすごくもったいない。もちろん、ピッチで起きている現象を分析するのは大事だし、分析するライターや解説者の存在は大事だけれど、それがすべてではない。代表チームの魅力や語り口って、たくさんあると思うんですよね。

代表チームなんで「粗」だらけ

全員が集合して2日後にはもう試合。ほとんど練習できない状況で何をやれたか――そうした視点が必要になってくる 【写真:ロイター/アフロ】

川端 代表の見方は戦術じゃないでしょ、というのは僕もすごく感じていて。戦術のすごさを見たいなら、チャンピオンズリーグを見ましょうと(笑)。あと、マンチェスター・シティと日本代表を比べてもしょうがないですね。マンチェスター・シティと川崎フロンターレを比べるならまだ発展性がありますけれど。ここを間違えてしまうと、代表戦は日本代表の試合に限らず楽しめないでしょう。

飯尾 W杯本大会やEUROでも、メンバー構成やチームマネジメント、チームのコンディション、チームと選手の背景やストーリーにも注目しているから楽しいわけで。

川端 日本代表を戦術で見るなら、逆の目線が必要です。例えば、日本のホームゲームだと、海外組は長距離移動と時差調整があって、前日にしか全員がそろって練習できません、という状況があるじゃないですか。それでも「これができたんだ」といった目線。4-3-3を導入した10月のオーストラリア戦がそうでしたけど、「なるほど、普段からそういうサッカーをやっていた選手をうまく組み込んで、こういう良さが出せたな」と。戦術的な見方をするならそう見ないと。粗探しをしようと思ったら、代表チームなんて「粗」だらけですから(笑)。

飯尾 昔みたいに日本に全選手がいて、長期間の合宿が組める時代ではないですからね。しかも、今回のオマーンがそうだったように、相手チームはそういうことがやれたりもする。

川端 日本は次のステージに進んでいるんです。選手のほとんどがヨーロッパでプレーしている。とはいえ、プレーしている国もチームもバラバラで、まったく異なるサッカーをやっている。そういう選手がパッと集まってパッと試合をする。しかも、コンディションもバラバラとなると、いかに組み合わせてパフォーマンスを引き出すか、という工夫が必要になる。それがうまくハマったら気持ちいい。そこに楽しみを見いださないと、代表戦なんて見ていてしんどいだけだと思うんですよ(笑)。

飯尾 今年はW杯直前にも合宿の時間がないという特殊な大会になりますね。日本だけじゃなくて、各国がそうだから。

川端 だから、国内組ばかりでじっくりチームを作れて、コンディショニングも万全であろう地元のカタールや、同じ中東勢のサウジアラビアが躍進するかもしれませんよ。彼らにはホームアドバンテージもありますから。

飯尾 とはいえ、ほとんどのチームはそうじゃない。粗を抱えた者同士が、どう駆け引きしながら、粗を隠すのか、粗を突くのか。準備期間がないならないなりに、どうするのか。そういう楽しみ方がありそうだと。

川端 今回のカタールW杯は今年の11月終わりに開幕するんですけれど、Jリーグも11月頭までやってるし、ヨーロッパのリーグも11月頭までやってるから、どの代表チームもたくさんの「粗」を抱えながら、カタールに集まってくる。だから、戦術的なレベルはかなり落ちる大会になると思います。でも、それでW杯がつまらないかというと、そんなことはない。チームとして機能しないなら機能しないなりのパフォーマンスを、熟練の選手たちが見せるとか、代表の10年戦士同士なら並みのクラブチーム以上の連係プレーがあったりもしますしね。そういう組み合わせの妙もある。そして、W杯を戦いながらチームを完成させていく国が優勝する大会になると思うんです。

飯尾 その過程を予選から見ていたらもっと楽しいよね、ということですね。つまり、日本目線で言うと、その過程におけるひとつの集大成が、3月24日のオーストラリア戦。

川端 だから、このオーストラリア戦を楽しみましょうよ、ということです。これだけプレッシャーがかかる状況で、選び抜かれた選手たちが苦難を乗り越えて、チームとしてひとつになって臨む舞台はなかなかない。別に無理して応援しなくてもいいんですけど、少し違う目線で見ると、見方も変わって楽しめるんじゃないかと思います。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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