気持ちを切らず代表のCB争いに名乗り 30歳・谷口彰悟が存在感を増している理由
年明けのW杯アジア最終予選では、2試合連続フル出場でいずれも完封勝利に貢献。吉田麻也、冨安健洋が不在の最終ラインを支えた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
自身初の最終予選は「可もなく不可もなく」
昨年11月の2試合(ベトナム戦、オマーン戦)にも帯同できましたが、出場機会はつかめませんでした。だから、僕自身にとって初めての最終予選のゲームとなった中国戦は、今までに経験したことのないような独特の空気を感じていましたね。でも同時に、心の中では「やってやるんだ」というワクワクした思いも抱いていたんです。
もちろん前提として大切にしていたのは、チームの結果です。その意味で、2試合とも無失点で勝てた(いずれも2-0)ことは何より大きかったですし、個人としても持てる力は発揮できたのかなと感じています。ゲームに集中できて、パフォーマンスも悪くなかった。ただ全体的には可もなく不可もなくというか(苦笑)、いつも通りにはやれたと思っています。
――「可もなく不可もなく」というのは、自らに厳しい谷口選手らしい表現ですが、あの2試合はレギュラーCBの吉田麻也選手と冨安健洋選手が負傷欠場し、戦前は危機的状況と騒がれていましたよね。そんな中でも谷口選手は落ち着いて、とても良い表情で準備をしていた印象を受けました。
主力の2人がいない状況は、他のCBにとってはチャンスです。僕もその座を狙っていましたし。だから緊張というか……なんて言えばいいのかな、それも多少はありましたが、とにかく競争に勝って出場機会をつかむんだと、そんな覚悟を持って臨んでいましたね。試合が近づくにつれて、自分がスタメンで出られそうだなと分かってきましたが、自信を持って挑むしかないという心境でした。
今までやってきたことを評価していただき、選んでもらえたわけですから、「ここでやらなきゃいつやるんだ」と、自分に言い聞かせて。ゲームには高いモチベーションで入れましたし、さまざまな背景に振り回されず、目の前のプレーに専念できました。
自分たちを信じて強気にライン設定できるか
最終予選の2試合を戦って得た自信が、インタビュー中の表情からも伝わってきた。それでもラインコントロールなど、いくつかの改善点も口にする 【本田健介】
ここでのプレー次第で、選手人生が変わるような状況でもありましたからね。もちろん試合前にはいろんなことを考えましたよ。でも、サッカー人生の集大成というか、これまで培ってきたことをすべてぶつけたい、そのためには「やるしかない」と腹を括ったというか。キックオフしてからは、相手の動きを見てしっかりプレーできました。
ただ、良かった面があった一方で、改善点もいくつか浮かび上がりました。こういうプレーができたら、もっと周りが楽なんだろうなとか、発見の連続でもありましたね。
――具体的には?
まずはラインコントロールの部分、もっとコンパクトに陣形を保てれば前線の選手を引かせずに済みますし、より素早くスライドできたはずです。それを実現できたシーンもありましたが、もっと合わせたいですね。
あとは球出しや、ビルドアップのところ。“安パイ”なパスを選択してしまったことが何度かありました。点差や状況を考えて、無理をしなくていい場面はもちろんありますが、すべて強気でやれたかと問われると……。自分の技術やメンタルを信じ切れなかったことが反省点ですね。良い経験になりました。
――ラインコントロールに関しては、川崎フロンターレと日本代表では感覚が異なるはずです。それこそ最終予選のような国際試合では、1本のパスで裏を取られ、それが即失点につながるケースが少なくありません。ただ、谷口選手はもう少しラインを上げたそうにしていましたよね?
確かに、フロンターレでやっている感覚とは違いました。ミスが許されないのは当たり前ですが、最終予選は本当に一滴たりとも水を漏らせない。そこの緊張感には差があったのかなと。だから安全なプレーを選択した場面もありました。ただ、それは仕方ないと割り切れますが、一方で自分たちを信じて、強気にライン設定ができるかどうかも大切になるはずです。フロンターレでもよりシビアにそこは意識したいですし、日本代表でプレーする選手たちと、その部分を擦り合わせられれば、もっと面白いサッカーができるんだろうなと感じてもいます。
――では、球出しのイメージは? 4-3-3の中盤、インサイドハーフの2枚は元同僚の守田英正選手(サンタ・クララ)と田中碧選手(デュッセルドルフ)で、感覚は合わせやすかったはずです。
そうですね。「このタイミングで縦パスをつけても大丈夫だよね」「きっとここで欲しがるよね」といった感じで、2人の特徴を理解できているからこそ選択できたプレーは少なくありませんでした。ただ、彼らも今は別のチームで進化していて、あらためて感覚を合わせていくべき部分も見つかりました。
彼らがプレーしやすいシチュエーションを作るのが、僕らCBの仕事。インサイドハーフがより高い位置でボールを持った方が相手は怖いわけで、そこは後ろからサポートしたいです。攻守に絡まなくちゃいけない2人のポジションは、今の代表チームの生命線。だからこそ、彼らとの関係性をより深めたいですね。
――左サイドで組んだサイドバック(SB)の長友佑都選手(FC東京)、ウイングの南野拓実選手(リバプール)との関係性は?
南野選手は内に入りながらライン間で受けるポジショニングがうまいですし、彼の欲しがるタイミングでボールを入れることを意識しました。一方で、南野選手の動きに相手DFが食いついたら、今度は佑都さんの縦へのオーバーラップが生きてくる。そうした感覚を共有し、3人の関係性がより密になれば、もっとスムーズに左サイドを崩せるようになるはずです。