W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

最終予選は「地獄の中でつかみ取るもの」 勝つために守田英正は厳しいことも言う

飯尾篤史

ピッチ上では身振り手振りでチームメイトに指示を出す。チームを良くするために、厳しいことも言う姿勢は頼もしい限りだ 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

 カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の序盤で1勝2敗と窮地に立たされた日本代表を救ったのは、ポルトガルでプレーする守田英正だった。元チームメイトの田中碧とともにピッチに立つと、チームの立ち位置を整理し、ボールを握る術をチームにもたらした。日本代表はその後5連勝を記録し、ついにW杯出場に王手をかけた。救世主とも言える働きを見せたMFに、自身の成長、チームの変化、3月24日に行われるオーストラリアとの決戦とW杯本番に向けた青写真について聞いた。

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一番自信のあるサッカーで緊張する必要はない

――前回(2017年)のW杯アジア最終予選のとき、守田選手は大学4年生でしたけど、日本代表がW杯出場を決めたオーストラリア戦は観ていましたか?

 井手口(陽介)選手が決めた試合ですよね。あのミドルシュートは印象的で、今でもはっきりと記憶に残っています。

――井手口選手は同じポジションで、1歳下ですよね。その選手が大舞台で活躍した。どんな思いでした?

 高卒でプロの世界に入るのと、大卒で入るのとでは4年の差があるので、大卒でプロになる時点で焦りがありました。当時の自分にとっては日本代表だとか、W杯の舞台に立つということは現実味がなくて。だから、大学時代は、いちファンとして応援していた感じですね。

――学生だった5年前に観たのと同じ舞台に立つ機会が迫ってきました。W杯出場に王手をかけた3月24日のアウェイのオーストラリア戦は緊張しそうですか? それともワクワクしそう?

 僕は緊張しないタイプなんですよ。だから、特別な何かは芽生えないんじゃないかなと思いますね。ただ、やっぱり大一番なので、多少なりともプレッシャーがあるかもしれない。普段と変わらずにやりたいですけど。

――実際、いつも落ち着いていますよね。21年10月のオーストラリア戦でも、「普段どおりやれた」と話していました。1勝2敗と日本代表が追い込まれた状態での初先発だったにもかかわらず。

 やれると思っていましたね。サッカーって自分が一番自信があるものなので、緊張する必要がないというか。誰よりもやれる自信がありますし。そういうところから来ている落ち着きだと思います。

――結果いかんでは、代表チームの命運だけでなく、守田選手の日本代表におけるキャリアをも左右しかねない大一番なのに、プレッシャーがなかったと。

 そうですね。あの試合まで自分はポジションが得られていなかったので、「やっとチャンスが来たな」としか思ってなかったです。特に代表では、誰かに支障があったり、誰かがパフォーマンスを落としたりしないと、出番が回ってこないし、チャンスをもらったときにチームを勝たせたり、良いパフォーマンスを見せないと、ポジションを確保できない。「自分がミスをしたら」といったネガティブなことは一切考えてなかったですね。やれるとしか思ってなかったので、いつも通りやった感じです。

――敗れたサウジアラビア戦からオーストラリア戦まで、3日間くらいしか練習できませんでしたが、チームは機能して2-1で勝利しました。なぜ、うまく回ったのか。守田選手は周りにどういう風に働きかけたんですか?

 まず大きかったのは、(田中)碧と一緒にプレーしたことですね。「こうした方がいい」と思っていても、なかなか1人ではチームに影響をもたらせないので。碧とは言葉で言わなくても同じような思考でプレーできるし、2人のほうがチームへの影響力が強くなる。働きかけに関しては、「ボールを持つ時間を増やそう」ということを、僕から伝えました。

 ボールを持つことにもっと自信を持つべきだと思いますし、相手が強くなればなるほど、その機会は少なくなりますけど、だからといって、それを放棄するのは自ら首を絞める行為だと思うので。しっかり守ってカウンターを狙う、セットプレーで点を取る、相手に点を与えないというのも大事なポイントですけど、自分たちのボールの時間を増やさないと攻撃につながらない。そこがアダプトするように、声がけしました。

3人の中では自分が最も柔軟

川崎時代からの盟友・田中とは、言葉をかわさずして理解し合える仲。川崎のエッセンスを代表チームにもたらすことに成功した 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

――守田選手と田中選手が起用されてから、相手を見てサッカーをする、その際の立ち位置が整理されてきたように見えます。

 立ち位置の部分では、今までにないような、けっこう厳しい間で受けるポジショニングを取ったり、あえてディフェンスラインに落ちたり、そういうプレーが出せるようになってきました。ただ、まだまだ完ぺきではなくて、前の選手を生かすサポートの仕方が悪かったり、前線との距離が遠かったり、試合によっていろいろな課題が出ています。でも、それまでは、できていたことの方が少なかったので、多少なりとも改善できてきたんじゃないかと思います。

――守田選手のアイデア、考え方が代表チーム全体に波及しているように感じます。オーストラリア戦で結果を出したことによって、ご自身の影響力の変化を感じますか?

 いや、特に変化はないですね。もともとベテラン選手をはじめ、ずっと日本代表で活躍されてきた選手もすごく謙虚なので。僕が新米で、日本代表に入ったばかりの頃から、なんでも聞き入れてくれましたから。そうした柔軟な姿勢はすごくありがたくて。なので、僕自身の発言力や影響力に関しては、そこまで変化はないと思います。

――森保一監督はこれまで、ひとつの戦術を植えつけるというより、対話を重ね、選手の自主性や主体性を育むようなチーム作りをしてきました。そうしたチーム作りによって、話し合う土壌がチーム内にすでに構築されている?

 選手同士ですごく話しますし、全員が自分の主張をしながらも、相手の意見も聞き入れて、最終的にどれが一番いいのかをみんなで共有しています。ミーティングで森保監督から相手のキーマンは誰で、どこを注意しないといけないかといった話があったあと、それぞれが近くのポジションの選手と自然と話し合う。そういう雰囲気はチーム内にありますね。

――21年11月11日のアウェイのベトナム戦での守田選手の左サイドに落ちるポジショニングが個人的には面白かったです。守田選手自身は試合後、「中にスペースを作ったり、相手を食いつかせるような立ち位置を取ろうと思ったけど、ちょっと遠すぎてリズムが出なかった」と反省していましたが、左ウイングの南野拓実選手を中でプレーさせたい。それには左サイドバック(SB)の長友佑都選手に高い位置で幅を取らせたい。そこで守田選手があそこに落ちるのは理にかなっているなと。

 あのときは、拓実くんと佑都さんの個性を出すなら、自分が斜めに下りて、SBのようなポジションを取った方がいいかなと。ただ、そのタイミングが悪かった。数センチずれるだけで、相手をもっと怖がらせることができたんですけどね。自分が開きすぎると、サイドのラインに2枚立つことになってしまう。

 偽SBじゃないですけど、自分がSB化するうえで下りすぎず、かといって、相手と近すぎず。そんなポジションが取れれば、必然的に相手の足が止まって、ボールを奪いに来られなくなる。でも、自分が張りすぎてしまったり、早いタイミングで下り切ってしまうことで、相手にずれが起こらず、そのまま対応されてしまう形が多かった。それで、佑都さんを上げる、拓実くんを中に入れるという作業が無と化してしまって。タイミングと下りる場所をもっと的確にやらなければならなかったというのは、あらためて映像を見返しても感じました。

――一方、2月1日のサウジアラビア戦では、右サイドに回って、ハーフスペースのところを抜けるというか、ハーフスペースを突くようなプレーが効果的でした。

 あのときは試合が始まってから、碧と左右を入れ替えたんですよね。自分も碧も、左右、不自由なくできるので。今、同じようなキャラクターが3枚(守田、田中、遠藤航)、真ん中に立っていますが、細かいところを見れば、役割というか、できることとできないことが違う。航くんは真ん中でドシッと構えたいタイプですし、それが一番、チームとしてもありがたい。碧は後ろに下がってのビルドアップに参加したい気持ちが強いですし、効果的な縦パスも入れられる。その3人の中では、自分は前で受けられるというか、走ることも含めて最も柔軟というか。2人の良さを引き出すには自分が前に行く必要がある。そうなったときに、左サイドでそれをやると渋滞してしまうので。

――左ワイドに長友選手がいて、ハーフスペースに南野選手がいるからですね。

 はい。右サイドだと(伊東)純也くんがワイドに張っているから、ハーフスペースが空く。そこを自分が使えると思って右に移動しました。組む選手によって、やることを変えられるのも自分の強みなので、そこをうまく出せたと思います。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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