W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

川端暁彦×飯尾篤史の日本代表徹底討論 弱い?強い? どう見るのが正解なのか?

吉田治良

メンバーがいつも同じ…えっ、ほんと?

11月のオマーン戦で代表デビューを果たし、決勝点をアシストした三笘(右)。心強いスーパーサブが誕生した瞬間だった 【Photo by Adil Al Naimi/Getty Images】

飯尾 ところで、森保さんはメンバーを固定しているといった不満をよく聞くけれど、川端さんはどう思っていますか?

川端 外野がああだ、こうだ言うのも娯楽なので、そこは別にいいと思うんです。「あいつを使え」「こいつを使うな」というプレッシャーがかかるのも代表チームの宿命ですし、一つの娯楽じゃないですか。この前の長友がそうだったように、そういう声を跳ね返してこその代表選手だとも思います。ただ、「メンバーがいつも同じ」という声に対しては、「えっ、ほんと? ファクトチェックかけますよ」みたいな気持ちになります(笑)。実際には変わっているじゃないですか。1年前と比べたら大きく変わっているし、最終予選に入ってからもそうだし。毎試合半分ずつくらい入れ替えないといけないのかな、と。本当に時間がない中で、チームとして多少なりとも詰めなきゃいけないのに、毎試合ガラッと入れ替えて勝てると思っているのかな、という疑問はあります。

飯尾 例えば、三笘薫に関しても、11月のアウェイのオマーン戦で後半頭から起用したら、流れが変わって決勝点をアシストしたと。そうすると、すぐ「三笘をスタメンで使え」とか、「なんでスタメンじゃなかったのか」といった声が出ますよね。でも僕は、こんな最高のスーパーサブがいるんだから、切り札として懐に忍ばせておきたいよねと。相手も疲れている状況の後半に起用したから、あれだけズタズタに切り裂いてくれたけど、最初から起用すると、また話が変わってきますよね。

川端 最初から使っていたら、三笘は守備に追われて疲れてしまっていたかもしれないですしね。

飯尾 左サイドバックの長友と中山雄太の問題も、4-3-3で戦っていて、左ウイングの南野をハーフスペースに入れたいんだから、大外のレーンが得意な長友とセットになるのは当然だろうと。三笘や浅野拓磨だったら大外のレーンで勝負したいわけだから、インサイドでサポートできる中山の方が相性がいい。中山と長友のどちらがいいという問題ではなくて、セットで考えないと。しかも、今は5人交代制なんだから、サイドバックを途中で代えることを最初から計算に入れていてもいい。

川端 さっきも言ったように、代表チームは粗探しをすれば、いくらでもできるものなので。でも、それ以外の楽しみもサッカーにはあるよ、というのはちゃんと伝えたいなと。昔ながらの代表チームのイメージがやっぱり残っていると思うんですけれど、現代の代表チームはまた別の見方をしたいですし、そのためのベーシックな情報がファンに届いていないなとも感じます。例えば、3月24日のオーストラリア戦の3日前にはリバプールが出場するFAカップ準々決勝があるので、南野拓実は前日練習から合流になりそうだ、と。

飯尾 でも、その情報はあまり伝わってないですよね。

川端 そこはテレビ報道が代表から離れたのと、人々がテレビから離れたのがワンセットで起きた結果もあると思っていて、僕が音声や映像を使っての情報を出していかないとダメだなと感じている理由の一つでもあります。『ゲキサカ』を熟読すれば、大体は書いてあるんですけど、逆に量が多すぎて、あれを全部読む人はまあほとんどいないでしょうから(笑)。

飯尾 そもそも5連勝だって、簡単ではないですよね。延長戦だってないし、日本のホームでは、相手は引き分けでいいと思っているわけで。しかもこんなにプレッシャーのかかる舞台で、ザックジャパンは2連勝が最高、ハリルジャパンも3連勝しかしていない。だから、森保ジャパンはすごいことをやっているんですよね。

川端 あの逆境がチームを強くしました。それは確かです。逆に初戦で勝ってたら今ごろ敗退の危機だったかも(笑)。チームは生き物ですからね。危機を乗り越え、一皮むけた。

飯尾 だからこそ、アウェイのオーストラリア戦もしっかり勝ち切って、W杯出場をつかみ取ってほしい。

川端 勝ち切ってほしいですけど、究極、引き分けでいいんですよ(笑)。「ここまで来てそれかい!」と思うかもしれませんが、リアリズムをちゃんと持った方がいいと思うんです。日本人ってそこがすごく苦手なので。初戦のオマーン戦だって、最悪引き分けでよかったんですから。

飯尾 たしかに。0-0で終盤まで行ったのだったら、最後は割り切って。

川端 そう。0-0はうれしくないけれど、勝ち点0よりは100倍いい。失点しないように戦う術は持っていた方がいい。もちろん僕も、オーストラリアには気持ちよく快勝してくれたら最高だなと思っているんですけど、相手あってのスポーツで、向こうも必死に来るのは確実です。しかもアウェイの大観衆を背後にして。そこで勝たなきゃダメだ、勝て、勝て、勝て! というのは違うかなと。もう少し心のゆとりを持っても大丈夫だぞ、ということは選手たちにも言いたいですね。

ベストを求められない時代のチームづくりとは

オーストラリア戦は引き分けでも大きなアドバンテージになる。同点で試合終盤を迎えたとき、キャプテンの吉田がピッチ内の意思を統一させる必要がある 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

飯尾 絶対に勝たなければならないと、変にプレッシャーを感じながら挑む必要はないと。もちろん、勝利を目指して戦うんだけど、戦況や時間帯によっては、最後はドローに持ち込んでホームに戻ってくるという考え方も必要だということですね。そういう意味では、森保さんが立ち上げ以来、ずっと求めてきたピッチ内での判断や自主性が求められるゲームになりますね。

川端 ピッチ内で吉田麻也なのか、遠藤航なのか、誰かがリーダーシップを発揮して、どう戦うのか、どう終わらせるのか、しっかり意思統一して戦い抜いてほしいですね。その結果、しっかりドローをつかむなら、それでオーケーだと。

飯尾 先ほども話に出たけれど、代表選手の8割くらいが海外でプレーするようになり、パッと集まって2日くらいの練習で試合をやらなければならない時代になった。そのなかで、森保さんはロシアW杯での西野朗監督のやり方を踏襲して、自分のスタイルや戦術を植え付けるのではなく、対話重視で、選手たちの意見を集約させるような、選手それぞれの良さをつなぎ合わせるようなチームづくりをしてきた。覚悟を決めて、日本人が苦手とする自主性、自発性を促すようなチームづくりにトライしてきたわけじゃないですか。それが、何をやりたいのか見えないと叩かれる要因にもなっているけれど、今の日本代表の置かれた状況を考えると、こうしたチームづくりの方法は悪くないというか。僕は実験的ではあるけれど、これまでの常識が通用しなくなってきたわけだから、そういうチャレンジもありだと感じているんですけど、川端さんはどうですか?

川端 ベストのチームづくりができない時代において、ベターをいかに選ぶか、ということですよね。そういう意味で、僕もありだと思います。それと、森保さんはパーフェクト・ヒューマンではもちろんなくて、何が足りないのかと言うと、采配力でも戦術でもなく、巻き込んでいく能力がちょっと足りない。世論ともっと共犯関係になった方がいいと思っていて。今言っていたようなチームづくりの方法についても、もっとアナウンスして、メディアも含めて巻き込まなければいけないんじゃないかと。

飯尾 そもそも、そういうことが得意な人ではないですよね。良くも悪くも周りにすごく気を遣う方なので。

川端 それなら、アナウンスする人を別に用意することも必要なのかなと。代表チームのスポークスマンみたいな存在ですね。結局、よくわからないから、みんな不安になるんですよ。なぜかと言うと、やっぱりみんな、日本代表に勝ってほしいと思っているから。特に今の時代、監督がそういうメッセージを出すと、「言い訳している」「負け惜しみだ」と言われかねないので、なおさら別に発信していく人が必要なんじゃないかなと思います。

飯尾 確かに。今こういうチャレンジをしていて、ここはできたけれど、ここはできなかったとか。

川端 誰それを呼ぼうとしていたけれど、クラブの事情で呼べなかったとか。もちろん、伏せる情報と明かす情報はしっかり分けないといけないですけど、負傷で呼べなかったとかも含めて情報は出した方がいい。他にも、スポークスマンが「実はあれは、森保監督がハーフタイムにちょっとアドバイスしたんだよ」なんて話をしてくれると、見え方が変わるじゃないですか。

飯尾 森保さんは、自分の手柄は絶対に話さない人ですからね。

川端 SNSも監督自らやるにはリスクも負担もデカ過ぎる。一方で、協会のオフィシャルで出すのは敷居が高いし、あっちはカッコ良く見せることを考えた方が良いという面もあります。だから、そっちでの発信を担う役割の人が別にいてもいいと思うんですよね。

飯尾 森保さんのチームマネジメントの話に戻ると、選手の意見を吸い上げたり、彼らの自主性を促してきたことで、代表チーム内のコミュニケーションの量もかなり増えているようです。この前、守田が言っていたのは、今のベテラン選手はそれぞれに確固たるサッカー観があるんだけど、若い選手の意見もしっかり聞いてくれると。だから守田や碧がああやって抜てきされてもすぐ、「ここに立つので、ここに入れてください」とか、「こういう感じにしましょう」と言いやすいみたい。もちろん、吉田たちの人間性も優れているんだけど、ロシアW杯の流れを汲んだ森保さんのチームづくりの良さが、そういうところに出ていると思うんですよね。

川端 日本は文化的に上下関係が強いし、やっぱり最初は遠慮しがちですから。代表選手は個が強い人は多いですが、でもやっぱり主張するのが苦手な選手が多い。だから、代表チームとして意図的に雰囲気を作らないと主張が出てこなくなってしまう。日本人の集団の場合は、自然とは出てこないですからね。

飯尾 だから、田中碧と守田が起用されました、彼らの良さがパッと出ました。もちろん、彼らの能力が高いのは間違いないんだけれど、その背景に監督やロシアW杯組が作り上げたチームの雰囲気があるというところを伝えたいし、そういうのを感じ取ってもらえると、代表チームの見方が変わると思います。

川端 面白くなると思うんですよ。現実は『ウイイレ』じゃないんで、守田の能力値が80だったら80のプレーをして当然でしょ、と思うかもしれないけど、いやいや、いきなり入って80をそのまま出せないよと。でも、出せたということは、うまく引き出させる何かがあったんじゃないのか、ということです。

飯尾 カタールW杯アジア最終予選も大詰めを迎えたので、もし、この対談を読んで、日本代表の試合を見てみようとか、応援してみようかなと思ってくれたらうれしいですね。

川端 今から見ておくと、きっとW杯本番はもっと楽しめます。

(企画構成:YOJI-GEN)

川端暁彦(かわばた・あきひこ)

1979年生まれ、大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、10年からは3年にわたって編集長を務めた。13年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『Goal』『footballista』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、YouTubeチャンネル「蹴球メガネーズ」にも出演。14年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行。

飯尾篤史(いいお・あつし)

1975年生まれ、東京都出身。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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