連載:22年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

3年ぶりのPO復活で競争力アップ? 番記者によるJ2展望座談会【後編】

飯尾篤史

熊本はスカウティングに注力した成果が

昨季のJ3を制し、4年ぶりにJ2で戦う熊本。今年は駒澤大のストライカー、土信田悠生を獲得するなど、スカウティングが成果を挙げている 【(C)J.LEAGUE】

──J3を制して昇格してきた大木武監督の熊本はどうですか? 郡司さんの評価はかなり厳しいですね。

郡司 大木さんらしく、攻守の切り替えのスピード感とか強度を重視したサッカーで昇格してきましたけど、インテンシティの高いサッカーって、今のJ2ではどのクラブもやっている。それがスタンダードのなかで、どこまで戦えるか。大卒ルーキーが多い編成を見るかぎり、苦戦は必至かなと。ただ、残留を唯一最大の目的として割り切れば、それが強みになるケースもあるでしょうね。

佐藤 多くのクラブを指揮してきた大木さんですが、これまで甲府以外に昇格させた実績がなくて、良いサッカーはしてもなかなか結果が伴わない監督というイメージがありました。でも、それを昨シーズンの熊本で覆し、J2でも監督として進化した姿を見せくれそうな期待感はあります。たしかに大卒ルーキーは多いですが、昨シーズンも1年目の選手が主力として活躍しましたし、今年は駒澤大から加入した土信田悠生みたいなスーパーFWもいる。かつてサンフレッチェ広島で強化部長を務めた織田秀和さんをGMに迎えてから、スカウティングに力を入れるようになって、それが着実に成果を出しつつあります。

海江田 甲府の敏腕スカウト、森淳さんに以前話を聞いた時、このスカウトが面白いよって教えてくれたのが、熊本の筑城和人さんなんです。森さんが太鼓判を押すからには、下手な選手は連れて来ないでしょう。

──初昇格のいわてグルージャ盛岡(昨季はJ3の2位)は、やはり厳しそうですか?

郡司 スタートダッシュを切れるか、あるいは残留にターゲットを絞って割り切れるかでしょうね。なによりも僕は、かつて京都や町田で上手くいかなかった秋田豊監督が、指揮官としてどう変わったのかに注目しています。

佐藤 1トップのブレンネル次第じゃないですか。昨シーズンのJ3でも、途中から手が付けられない存在になっていましたから。彼がシーズンを通してJ2のDFを圧倒できれば残留、抑えられればしんどい昇格1年目になるでしょう。

海江田 秋田さんが京都の監督時代に重用した中村充孝をモンテディオ山形から獲得しましたが、ここ何年かはそれほど試合に絡めていない彼が、恩師の下でその高い能力を発揮できるかどうか。まだ31歳。京都から鹿島アントラーズに引き抜かれた頃の輝きを取り戻してほしいですね。

──最後に山口(昨季15位)ですが、みなさんの評価は軒並み低いですね。

佐藤 水戸もFWの高井和馬とCBの楠本卓海を引き抜きましたが、あまりにも多くの主力を失い、その穴を埋める補強もできていない。名塚善寛さんが監督になって2年目。それまでの攻撃サッカーからプレッシングサッカーに切り替えようとしている段階ですが、既存戦力の大半が攻撃サッカーに親しんできた選手なので、ストレスを感じずにやり切れるかどうか。僕は簡単じゃないと思っています。

海江田 J3から上がってきた頃のフレッシュ感がもうないし、さりとてもっと上を目指せるかと言えば、それだけのチーム力もない。ヴェルディは昇格してきたばかりの山口にボコボコにされた記憶があるけど(苦笑)、当時のカラーが今は見えづらくなっている。なんとかしてJ2に残ろうよって、それしかない。

郡司 渡邉晋さんが率いていた昨シーズン途中までのボール保持の名残りと、名塚さんがやろうとしているプレッシングの要素を掛け合わせた、良く言えばハイブリッドなサッカーを、この編成で担保できるかと言えば疑問だし、特に決め切る部分はかなり心もとない。残留争いは避けられそうにありません。

──今シーズンの大きな変化として、コロナ禍で過去2年はなかったJ1参入プレーオフが復活した点が挙げられます。最後に、その影響についてそれぞれの見解を聞かせてください。

佐藤 たぶんそれを見越して、ファジアーノ岡山なんかは、まずはプレーオフに出るためのチーム編成をしていますよね。今回は22チームを3つのクラスに分類しましたが、僕の中では2グループだと思っていて、上位11チームで昇格とプレーオフ出場権を争い、下位の11チームで残留争いが展開されると予想しています。そして、下位グループからどこが抜け出し、上位に食い込んでいくかが、今シーズンのJ2の面白さになるんじゃないかと。

海江田 J1から4つも落ちてきたわけだから、上位を争う6〜7チームのレベルは、昨シーズンよりも確実に上がっている。ヴェルディの立場で言えば、プレーオフ出場圏内に入るのも、かなり大変そうだなと感じています。

郡司 プレーオフがあることで、リーグ全体の競争力はかなり上がるはずです。ちなみに町田の場合、これまで上位に食い込んだのは、なぜかプレーオフに参加する資格がなかったり、プレーオフが実施されなかった年ばかり(苦笑)。今シーズンこそ、そのジンクスを払しょくしたいですね。

──ヴェルディ、町田、水戸の3チームが、そろってプレーオフ出場権獲得以上の成績を残せるよう、祈っています(笑)。

佐藤 いや、水戸に関しては、まずは残留っす、マジで(笑)。

海江田哲朗(かいえだ・てつろう)

【YOJI-GEN】

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『フットボール批評』、『Number Web』、『サッカーダイジェスト』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。2016年初春に始動した『スタンド・バイ・グリーン ライター海江田哲朗のWEBマガジン』で、東京Vのマッチレポートやコラムを届けている。

郡司聡(ぐんじ・さとし)

【YOJI-GEN】

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『EL GOLAZO』や『サッカーダイジェスト』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』の編集長も務める。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。

佐藤拓也(さとう・たくや)

【YOJI-GEN】

1977年生まれ。2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げてからはホームのみならず、アウェーにも足を運んでリーグ戦を全試合取材している。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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