連載:22年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

3年ぶりのPO復活で競争力アップ? 番記者によるJ2展望座談会【後編】

飯尾篤史

大宮は結局エース河田の出来次第か

残留争いに巻き込まれても、上位に顔を出しても、どちらに転んでもおかしくない大宮。成績を大きく左右するのは、エース河田篤秀(写真)の出来だ 【(C)J.LEAGUE】

──では、ここからはみなさんの評価が分かれた大宮アルディージャ(昨季16位)、FC琉球(昨季9位)、ブラウブリッツ秋田(昨季13位)について触れながら、Cクラス全体の顔ぶれを見ていきましょう。まず大宮ですが、佐藤さんはBクラスの真ん中に、郡司さんは同じくBクラスの一番下に、そして海江田さんはCクラスのトップに入れていますね。

●Cクラス予想
(※並びは順位予想順)
海江田:大宮、金沢、熊本、栃木、群馬、岩手、山口

郡司:秋田、群馬、栃木、金沢、山口、熊本、岩手

佐藤:琉球、栃木、熊本、金沢、群馬、岩手、山口


佐藤 うーん、評価が難しいチームですよね。また残留争いに巻き込まれても、逆に中位から上位を窺うポジションに浮上しても、どっちに転んでもおかしくない。お金がなくなったというわりに、J2の中では戦力は粒ぞろいですからね。霜田正浩監督のチームは、レノファ山口を率いていた頃から長所と短所がはっきりしていて、攻撃力という長所を前面に押し出し、点を取れるチームになれれば、面白そうではあります。

郡司 本当は大宮とFC琉球はCクラスに入れたいところでしたが、数合わせで2つをBに上げなきゃいけないとなった時に、ある程度の資金力があって、夏の移籍市場でどうにかできそうで、なおかつ前線に計算できるアタッカーがいるかどうかで判断しました。多くの主力が抜けた最終ラインにも不安を抱えている大宮は、結局エースの河田篤秀の出来次第で、大きく順位が変わってきそうです。

海江田 大宮は経営の考え方が転換期にあって、簡単に言えばチームにかけるお金を絞るようになった。これで選手の待遇面がどのくらい変わるかですが、結果が出なくなれば士気の低下は避けられないでしょうね。たとえば2010年のヴェルディみたいに、経営危機でクラブの消滅が噂されるまで落ちてしまうと、その危機感が逆にパワーになるんですが、今の大宮はまだそこまで行ってませんからね。反発力は、それほど期待できそうにない。

──昨シーズン9位の琉球を、佐藤さんのみCクラスに入れていますが、その理由を教えてください。

佐藤 琉球は去年くらいから方向性が変わりましたよね。それまでは、小泉佳穂(現浦和)みたいな無名の若手がポンと出てきて、強烈なインパクトを残すチームだったのが、ここにきて実績重視で選手を集め、きっちりまとまったサッカーをするようになった。でもそうなると、浮き沈みが減る分、爆発力も伸びしろもなくなってしまうんです。今シーズンは風間宏希(ザスパクサツ群馬)と宏矢(ジェフユナイテッド千葉)の兄弟が移籍しましたが、また同じようなチーム作りをしていて、正直、ベストパフォーマンスと言えた昨シーズン以上のものが見られる期待感がないんです。

海江田 僕もCクラスにこそ入れなかったけど、必ずJ2に残ると言えるほどの材料もない。ただ、昨シーズン終盤からチームを率いる喜名哲裕さんって、初の沖縄出身のJリーグ監督で、彼を地元全体で支えようっていう空気が、琉球のパワーになるかもしれない。

郡司 知念哲矢(浦和)みたいな個性の強い選手がまた1人抜けてしまったけれど、チームのアイデンティティでもある、ボールを前へ前へと運ぶサッカーのクオリティが保たれれば、少なくとも残留争いは回避できると思います。前線には山口から、裏抜けを得意とするストライカーの草野侑己も獲りましたし。ただ大宮と同じく、C寄りのBではあります。

秋田にはブレない強さがある

直線的にゴールへ迫るサッカーで、昇格1年目の昨季に13位と大健闘。吉田謙体制3年目を迎えた秋田が残留争いに巻き込まれる可能性は低いか 【(C)J.LEAGUE】

──秋田も評価が分かれました。海江田さんと佐藤さんがBクラスの下位、郡司さんだけがCクラスです。

佐藤 昇格1年目であったことと、その予算規模を考えれば、4チームが降格する厳しい昨シーズンを13位で終えたのは大健闘。そこから主力もほとんど引き抜かれなかったし、なによりブレない強さがあるチームなので、昨シーズンと同等の成績は残せるんじゃないかと。縦に速いサッカーを継続しつつ、アスルクラロ沼津時代に吉田謙監督の下でプレーした青木翔大を群馬から呼んで、前線もパワーアップしているので、研究はされたとしても、残留争いに巻き込まれる可能性は低いと思います。

──郡司さん、Cクラスとした理由は?

郡司 たしかに強化は進んでいますよ。ただJ2を戦うフレッシュ感がなくなることに加え、対戦相手が昨シーズンに初めて対戦した時のように、あのサッカーに面食らうこともないでしょうから、そうなると苦戦は免れない。とはいえ、徹底する強みはあるので、ぎりぎり残留はするんじゃないかと僕は見ています。

海江田 直線的にゴールに迫るサッカーが、吉田謙体制3年目の今シーズンまでは、なんとか持つかな。でも、勤続疲労が出やすいサッカーなので、来年は危ない気がする。吉田監督のゾーンに入る感じの会見が、ちょっとした名物になりつつあって、まだ楽しみたいんですけどね(笑)。

──面白いことに、大宮、琉球、秋田を除くCクラスの6チームの顔ぶれは、みなさん同じになりました。

郡司 この6チームには、Bクラス以上を予想する要素がなかなか見出せなくて……。

海江田 たとえば群馬なんかは、大槻毅さんを監督に据えた意図がちょっと分からない。あの強力なパーソナリティをチーム力につなげたいのかもしれないけど、博打の要素が強いんじゃないかと。

郡司 僕は大槻さんへの期待値込みで、Cクラスの上位に置きました。もともとベガルタ仙台で分析担当コーチをやられていた方で、相手の弱点を突くのが上手い監督ですからね。とはいえ、ボール奪取からのショートカウンターという明確なスタイルがあるなかで、それをやり切れるだけの駒がいるかと言われれば、得点源の大前元紀(京都サンガF.C.)も抜けて、かなり心もとない。残留はできると見ていますが、それ以上は望めないでしょうね。

佐藤 なんだかんだ言っても、大前って怖いストライカーですからね。一発で仕留められてしまいそうなヒリヒリ感を常に放っている。実際、彼と青木(秋田)みたいに頑張れる選手が組んだ2トップは脅威でしたから。その2人がいなくなった上に、監督交代でリスタートとなれば、結構しんどいシーズンになりそうですよね。

郡司 本当は昨シーズン途中に就任して、チームをなんとか残留させた久藤清一監督の続投で行きたかったんだけど、ツエーゲン金沢にヘッドコーチとして引き抜かれてしまった。

佐藤 群馬の監督より金沢のコーチ……。そういう評価をされるって、クラブとしては結構ショックでしょうね。

金沢の“ヤンツースタイル”もそろそろ限界か

地元に帰還した豊田陽平(写真)など、金沢の補強自体は悪くない。それでも在任6年目を迎えた柳下監督のサッカーは、すっかり研究された感がある 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

──金沢の柳下正明監督とは、磐田でプレーしていた現役時代に一緒に仕事をした繋がりもあるのかもしれませんね。その金沢ですが、柳下体制となってもう6年目を迎えます。

海江田 さして強調する材料もないんですが、ロアッソ熊本や栃木SCよりは上かなと。あとはその栃木から加入した豊田陽平が、地元に戻ってどこまでやれるかにも、チームの成績が大きく左右されそう。

郡司 マンマークにオーソドックスなプレッシングという“ヤンツー(柳下監督)スタイル”も、J2最長の在任期間となって、そろそろ限界が見えてきた感があります。ただ、いざという時には、久藤体制に移行してしのぐやり方もあると思うので、そのあたりのリスク管理はできている。

佐藤 たしかにヤンツーさんのマンツーマンサッカーはすっかり分析されていて、昨シーズン後半戦はどのチームからも対策を練られていました。とはいえ、さっきの秋田じゃないですが、貫く強さもあったりする。今年はヤンツーさんにとって勝負のシーズンになりますね。だけど、豊田やサガン鳥栖から獲得した松本大輔など、補強自体は悪くない。17位に終わった昨シーズン以下の成績にはならないような気がしています。

──栃木(昨季14位)も田坂和昭さんから時崎悠さんへ、監督を代えましたね。

郡司 タイトな守備、スピーディなトランジション、出足の鋭いセカンドボールワークといった栃木らしさを時崎さんが引き継ぎながら、プラスアルファをもたらそうとしていた矢先に、複数の新型コロナウイルス陽性者を出して、キャンプが中止に追い込まれてしまった。プレシーズンでの出遅れは、かなり大きなハンデでしょうね。

海江田 少なくとも、序盤戦は影響が残るだろうね。もっとも、栃木にはJ3に落ちそうで落ちない耐性があるような気もしている。なかでも、栃木のストーミングに彩りを添える谷内田哲平みたいな選手が残留したのは大きい。

佐藤 時崎監督のことは、現役時代に水戸でもプレーしていたのでよく知っていますし、福島ユナイテッドFCの監督時代には、水戸と練習試合もやっています。当時の福島は球際が激しく、インテンシティの高いチームでしたが、3−4−2−1のシステムも含めて、栃木でもそれを踏襲すると思いますよ。その福島から加入した一発のあるトカチなんかが、上手くハマれば面白そう。活動休止について言うと、水戸も東日本大震災の時に、ほんの1〜2週間の準備期間でシーズンの再開を迎えましたが、最初のうちはアドレナリンが出ているから結構いけるんです。でも、やっぱりシーズンの半ばできつくなってくる。そこをどう乗り越えるかでしょうね。今年は残留を果たせば、成功のシーズンと言っていいんじゃないかな。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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