平野歩夢が二刀流の恩恵を受けた「着地」 スノボHP予選・決勝展望を野上大介が解説

久下真以子

予選1位通過を果たした平野歩夢。スケートボードとの二刀流で特に着地の精度を高めた 【写真は共同】

 9日、北京五輪のスノーボード・男子ハーフパイプの予選が行われ、3大会連続のメダル獲得を目指す平野歩夢(TOKIOインカラミ)が93.25点で予選トップ通過を果たした。その他は、平野流佳(太成学院大)が87.00点の3位、戸塚優斗(ヨネックス)が84.50点の6位、平野海祝(日大)が77.25点で9位になり、12人が進む決勝に日本選手全員が進出した。

 優勝候補の1人であるスコット・ジェームズ(豪州)は91.25点で平野に次ぐ2位。五輪を3度制したショーン・ホワイト(米国)も86.25点の4位で予選を突破した。メダル争いを演じる役者がそろった11日の決勝はどんな戦いが予想されるのか。予選1位で証明した平野歩夢の進化とは。複数ブランドの契約ライダーとして活躍し、現在はスノーボード専門メディア「BACKSIDE」の編集長を務める野上大介さんに、日本勢の活躍が際立った予選の戦いぶりと決勝の展望を聞いた。

悲願の金メダルへ1位発進で成長を示した平野歩夢

 抜群の安定感で予選1位通過をした歩夢選手は、滑走順が1番手にもかかわらず、想像よりも点数が高くて驚きました。どうしても1番手はその後に続く選手の採点基準になりがちなので、高得点が出づらい傾向にあります。予選1本目の技の難易度は歩夢選手にとっては決して高くはないトリックだったのですが、正確な滑りや着地、圧倒的なエアの高さでいきなり87.25点を出しましたね。

 歩夢選手は、東京五輪ではスケートボードのパークに出場しました。2つの競技は似て非なるものと言われますが、結果的にスケートボードでの経験がスノーボードに生かされているようです。具体的には、一番大きいのが「着地」ですね。

 たとえば、着地のときにノーズ(板の先端)方向に詰まってしまってバランスを崩しそうになったとします。スケートボードの競技に専念する前の彼だったら減速したり、転倒してしまったりするシーンでも、「今はリカバリーできる」と本人も言っているんですよね。スケートボードは足が板に固定されていない分、より不安定さが増します。それを競技レベルで経験したことによって、バランス感覚がさらに鍛えられたように感じます。

 予選で印象的だったのは、2本目の滑りでの3ヒット目のトリックです。フロントサイドダブルコーク1260(進行方向に対して腹側に縦2回転、横3回転半)で着地した直後、実はハーフパイプのボトム(底部)にエッジを取られて崩れかけたんですよね。他の選手だったら倒れてもおかしくないくらいのバランスの崩し方に見えました。

 でも歩夢選手は踏ん張っただけではなくて、その後の4ヒット目にバックサイドダブルコーク1260(進行方向に対して背中側に縦2回転、横3回転半)を決めたところに、彼の成長を感じました。以前の彼なら、減速してしまって回転数の少ないトリックに切り替えていたと思います。その辺の成長は二刀流を経験したことの恩恵だと感じています。

全員が決勝進出の日本の強みは「滑走の正確性」

全員で決勝進出を決めた日本選手たち。他国と比べて滑走技術の繊細さが光った 【写真は共同】

 また、歩夢選手だけでなく、流佳選手、戸塚選手、海祝選手と日本選手4人全員が決勝に進出できて、本当に良かったです。技の難易度に加え、踏切の動作や着地の精度に関して日本選手は海外選手よりも上手いので、それが顕著に出た結果だと思います。

 ハーフパイプでは、トリックに入る時にリップ(壁の一番上部のヘリになっている部分)に対して進入角度が直角に近いと高い放物線を描きやすくなります。ただ、直角に入るとどうしてもエッジがかかって減速しがちなのですが、日本選手はそのコース取りが非常にうまいんですね。

 正確に飛び出すことができると、着地もリップ付近にしっかりできて、次のトリックに向けた加速ができるんですよ。それがいわゆるヘリの先端で飛び、先端ギリギリで着地する「リップ・トゥ・リップ」ですね。そうした技術が「日本人気質」と言えるほど繊細で、基礎的な滑走力が圧倒的に高い点が強みになっています。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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