連載:プロ野球みんなの意見

江本孟紀、槙原寛己、里崎智也がセに提言! 「DH制より“二刀流”を育成するべき!?」

前田恵

“第2の大谷翔平”は育成可能か、それとも100年に1人の存在なのか!? 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 球界を代表するご意見番の江本孟紀、槙原寛己、里崎智也が初の座談会を実施! 第2回は、2019年、20年の日本シリーズ・巨人対ソフトバンク戦を機に議論が巻き起こった「セ・リーグDH制」導入の是非について、語り合いました。

江本案「隔年DH制」とは?

――「セ・リーグDH制」導入の是非については皆さん、どう考えますか? 2019年、20年と日本シリーズでソフトバンクに8連敗した巨人・原辰徳監督が、「セ・リーグのレベルアップを図るためにもDH制を導入すべきではないか」と提言し、話題になりました。

江本 原監督の発言以前から、DH制に関する論争はありましたよ。そこで、僕が以前から提案しているのが、セ・パが1シーズンごとに導入する「隔年DH制」。今季はセがDH制を採用して、パは9人制。来季はセが9人制で、パがDH制といった具合にね。それなら公平でしょう?

槙原 巨人は8連敗したくらいで白旗を揚げてはダメですよ。セ・リーグ出身者としてはさびしい限りです。確かに「DH制導入によってリーグ全体の打力が上がり、投手が育つ」という論理も分からなくはない。しかし、セが現状をどうにかしたいと思うなら、DH制を導入する前になぜパ・リーグが強いのか、どういう野球をしているのか、徹底的に研究してほしい。

 また、昔はオールスターゲームに臨むパ・リーグの選手たちは、目の色が違いました。「なんとかセ・リーグを倒してやろう」という思いが強かったから。こういう気持ちが、近年のセ・リーグには欠けていたと思うな。昨年、交流戦でセが12年ぶりに勝ち越し、日本シリーズもヤクルトが制した。これは選手が気持ちを入れ替えたということも、あるのではないですか。

里崎 僕は正直、セがDH制を採用しようがしまいが、どちらでもいいと思っています。1980年代から2000年代にかけて、日本シリーズの結果はセの14勝、パの16勝と拮抗(きっこう)していました。この頃のセはDH制を導入していないのに、どうしてパに勝つことができたのか。「投手が打席に立つことによって故障者が増えるから、それを未然に防ぎたい」といった理由ならまだしも、ただ「パ・リーグに勝てないからDH制を導入したい」というのは、情けないと思います。

江本 サトの言う通りだよ。メディアでもずいぶん「セ・リーグよりもパ・リーグの方が強い」なんて言われていたけど、プロが「情けない」なんて思われないようにしてほしいね。9人打者が並ぶパ・リーグの方が有利になることも多少はあるだろうけど、日本シリーズでの敗因をDH制のせいにするのは間違っていると思うな。

もしもセにDH制が導入されたら

「えもやん」の愛称で親しまれた江本孟紀。エースとして1973年の南海の優勝に貢献した 【スリーライト】

――セ・リーグ一筋の槙原さんは、もし現役時代にDH制が導入されていたらどうなっていたと思いますか?

槙原 当然、投手の気持ちは変わりますよ。僕は現役時代、上位打線には全力で投げ、投手に打順が回る下位打線の八番、九番に対しては力をセーブしていました。だから、たくさんの試合で完投できたと思っています。DH制を導入すると、投手は力の抜きどころがないので、きつかったでしょうね。9人制のセ・リーグと、DH制のあるパ・リーグでは、投手の疲労度は違うはずです。

 最近は「DH制を採用しているパ・リーグは、打者に対して息を抜くことができないから、いい投手が育ちやすい」といった論調も見られますが、ドラフトでパの方にいい投手が回っている結果とも言えるんじゃないかな。

里崎 捕手からすると、DH制がないほうが楽でいいです。槙原さんがおっしゃるように、投手の打順で力をセーブすることができるし、投手の打順に近づくと盗塁のような作戦もしなくなるから、そこに気を使わなくてもいい。投手の打順で盗塁を仕掛けて失敗してチェンジ、次の回の打順が投手からというのは、どの監督も嫌いますからね。打率1割に満たない打者と投手が八番、九番にいたら、オアシスみたいなものですよ(笑)。

一同 笑い。

江本 DH制の有無によって、監督の采配は明らかに変わる。セよりパの監督の方が楽だと思うよ。極端なことを言うと、試合終盤の「ここ一番」のタイミングを見計らって、代打を送るか否かを考えればいいだけだから。セと違って、一番から九番まで全員打者を並べることができるんだから、シンプルに打たせておけばいいわけだし。

槙原 投手的には、調子がいいのに1点取られてしまったがために、1対0のスコアで代打を出されて交代しなければならないときは、嫌でしたね。「パ・リーグなら5点取られても完投している投手がいるのに」なんて思うと、ちょっとうらやましかった。最も、僕はバッティングもバントも下手だったので、(代打を)受け入れるしかなかったんだけど(笑)。

江本 僕はむしろ、打席に立ちたかったよ。打たれてばかりだとイライラして、たまに打ちたくなる。ヒットを打って塁に出たり、本塁打を打ってダイヤモンドを回るときって、最高に気持ちいいからね。これは自慢なんだけど、僕は現役時代7本ホームランを打ったんだよ。しかも相手のエースクラスから。あと、角(盈男)からデッドボールを受けたことがあってね。デッドボールは痛いということ身をもって知ったよ(笑)。

一同 笑い。

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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