【コベルコ神戸スティーラーズ/Together as a Team】 タッチエンブレム製作秘話を語る 株式会社福田博商店 & 株式会社三共合金鋳造所
きっかけは最後の銑鉄を使ったコーロクンのモニュメント
そのストーリーとは。
もともと福田博商店と神戸製鋼所の関係は古く昭和28年まで遡る。長年の関係もあり、2017年秋、神戸製鉄所第3高炉が休止する際に、福田博商店が最後の銑鉄を預かった。その銑鉄を使って神戸製鉄所から記念オブジェの製作依頼があり、担当窓口となったのが、2007-2008シーズンまで不動の『3番』として活躍したOBの清水 秀司氏。
「尼崎製鉄所の閉鎖時には最後の銑鉄でミニチュア高炉を製作しましたが、清水さんと打ち合わせさせていただいた結果、チームに関係するものにしようと意見がまとまり、神戸製鋼コベルコスティーラーズ(当時)のマスコットキャラクター『コーロクン』のモニュメントを作ることになりました」と福田氏。
この時、記念オブジェをコーロクンのモニュメントとしたことでチームとの距離がぐっと縮まった。完成したコーロクンのモニュメントは神戸線条工場のエントランスに設置され、従業員や来訪者をお迎えしている。
さらに、2021年7月には、コーロクンのモニュメント製作時のデータを活用して作られたミニチュアコーロクンを新クラブハウスの竣工祝いとしてチームに贈呈していただいた。
練習時の守り神『錨』とタッチエンブレムの製作依頼が舞い込んだ
「ディロンHCがチームと会社が一体となって戦うため、チームの母体企業となる神戸製鋼所という会社を深く知らないといけないですし、神戸製鋼所を含むコベルコグループのお陰でラグビーができていると言われており、会社への敬意として高炉の灯を譲り受けてクラブハウス内で灯していると伺いました。その一環として練習時の守り神として『錨(いかり)』を作ってほしいとご依頼いただきました。錨はチームのエンブレムの一部でもありますし、神戸製鋼所が初めて製品化したものです。シンボルとして相応しいのではないかとなりました」
さらに、その数週間後に福本前TDから電話が入る。
「グラウンドへ入る時に気合を入れるための鉄製のプレートを作ってくれないか」
それがタッチエンブレムだった。
「錨とタッチエンブレムは一体であるという意味もあり、我々に依頼がありました。それもあって、福本さんと相談した結果、錨の製品化をお願いしていた三共合金鋳造所にタッチエンブレムも併せて作っていただくことになりました」
三共合金鋳造所は、コーロクンのモニュメント、ミニチュアコーロクンの製作にもかかわっていた。
「それぞれの会社によって得意とする分野がある中で、コーロクンのモニュメントといった設計図がないものを一から造れるのは三共合金鋳造所しかないとお願いしました」と福田氏は信頼を寄せる。
神戸製鋼所と福田博商店が共同で開発した鋳物用原材料を使用
三共合金鋳造所 大阪事業所 取締役事業所長 前田氏は、
「コーロクンのモニュメントは大変でしたね。コーロクンの寸法を計って石膏像を作り、鋳型を造型し、さらに複雑な立体形状を再現するために鋳型を分割するなど、かなり難易度の高い作業が求められました。ただ、その時の経験があったから、錨やタッチエンブレムを作ることができたと思います」とコーロクンのモニュメント製作時の経験を活かすことができたという。
また、コーロクンのモニュメントの製作に携わり、錨やタッチエンブレムも担当された三共合金鋳造所 総括部 部長 坪内氏はラグビー経験者で、大学時代には神戸製鋼ラグビー部と練習試合で対戦した縁も重なった。
「昔から応援しているチームから依頼を受けた仕事ということで嬉しかったですね。普段は設備部品等を主に作っているのですが、まったく違う分野の製品化にチャレンジさせていただき、楽しみながら携わらせてもらいました」と頬を緩める。
とはいえ、錨、タッチエンブレムともに年内に納品しないといけない。
チームと三共合金鋳造所の間に立った福田博商店 取締役 鉄鋼事業部長 山口氏は
「リーグワン開幕までに必ず製作し納品しないといけません。『錨』の製作もあり、かなりタイトなスケジュールになりました」と振り返る。
エンブレムのイメージを壊さないような立体データ作りに悪戦苦闘
その後、鋳型に必要な模型作りへ。
エンブレムのデザインを元に立体モデルのデータを作り、3Dプリンタを使って樹脂成形モデルを作成。そのモデルから鋳型となる砂型を作り、できあがった型の空洞に銑鉄を流し込むという工程だ。
特に苦労したのは、平面のエンブレムを、イメージを壊さずに立体的なデザインに落とし込むことだったそうだ。銑鉄を流し込む砂型を作るには、砂を込めた鋳型から樹脂成形モデルを抜き取るのだが、その際に砂を壊さないように、予め模型に勾配をつけなくてはいけない。また、KOBESTEELERSの文字のところや尖った部分などは砂型を作る際に崩れる恐れがあるために、mm単位で調整を行った。そうして模型として使用できる形状の立体モデルを設計する。
前田氏は「チームからいただいたエンブレムのデータを模索しながら、いろいろな加工を施し、立体モデルを作り上げていきました」と時間に追われる中で作業を進めた。
続けて前田氏と坪内氏は
「タッチエンブレムの裏側にラグビーボールと『since 1928 production 2021.12』と文字が入っているんです。この部分も文字の太さ、高さを試行錯誤しましたね」と悪戦苦闘したという。
余談ではあるが、練習時の守り神として製作を依頼された『錨』に関しても、資料となるものは『神戸製鋼グループ100周年記念誌」に掲載されている写真のみだったため、デザインから設計、製品化まで苦労の連続だったそうだ。
台座の裏面にはチームの計らいでそれぞれの社名を表記
「実はタッチエンブレムは、第3高炉で使用された耐火煉瓦を組み上げたものの上に置く予定だったのですが、最終的に安定性に欠けるとのことで、現在の形状の台座になったそうです。炎の精霊であるサラマンダーや耐火煉瓦、錨…。福本さんやディロンHCから神戸製鋼所に対するリスペクトや思いの強さを感じました。そういう熱い思いを受け止めるものを作らないといけない。難しい作業であることを理解していましたので、実際に出来上がるまで不安はありましたね」という。
しかし、福田氏の心配は杞憂に終わる。
12月下旬、「良いものができた」という自信作を持って、クラブハウスへ。
納品の際は練習グラウンドでセレモニーが行われた。当時バイスキャプテンを務めていた橋本 皓選手にタッチエンブレムを手渡し、グラウンドにいた選手らと記念撮影。福本前TDをはじめ、選手たちからもタッチエンブレムは高評価を得た。
「思いもしていなかった」という納品時のセレモニーに加え、タッチエンブレムを置く台座の裏面には、選手らにわかるようにと「福田博商店」と「三共合金鋳造所」の社名が記載された。
4人は「その心遣いも嬉しかったですね」と声を揃える。
エンブレム製作を機にさらにチームへの思いが強くなった
タッチエンブレムなどの製作にかかわったことで、前田氏は、コベルコ神戸スティーラーズはもとよりラグビーにも親しみと愛着を持つようになり、リーグワンやラグビーワールドカップの試合を観戦するようになったそうだ。
福田氏は
「以前から1ファンとして応援させてもらっていましたが、これをきっかけにこれまで以上にチームや選手に対して思いが強くなりました。我々も微力ですが、チームをサポートする一員であるという気持ちが生まれました」とチームを応援する思いにも変化があったと話す。
冒頭で紹介したように福田博商店は、リーグワン初年度よりブロンズパートナーとしてご支援いただいている。タッチエンブレム製作にかかわったこと、そして同い年という福本前TDとの縁がパートナー加入へとつながった。
福田氏は
「コベルコ神戸スティーラーズは地域とも密接にかかわって活動されています。地域を愛し、地域からも愛されるチームであり続けてほしいですね。そして、見ていて楽しいラグビーで優勝を目指してほしい」とチームに対して熱いメッセージを送る。
続けて前田氏も
「これからもどんどんファンを増やして、神戸を盛り上げてほしいと思います」と笑顔を見せてくれた。
ホストゲームの試合会場や、J SPORTSの中継でタッチエンブレムが映し出された時は、製作にかかわった2社のことにぜひ思いを巡らせてほしい。
取材・文/山本 暁子(チームライター)
株式会社福田博商店
本社:兵庫県尼崎市大浜町1-43
創業:1953(昭和28)年4月
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株式会社三共合金鋳造所
本社:大阪府大阪市西淀川区佃5-10-7
創業:1994(昭和19)年1月
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