スポーツで街を元気に! 大阪体育大学・冨山浩三教授(スポーツマネジメント)コラム

大阪体育大学
チーム・協会
 あなたが今住んでいる「まち」は元気ですか。このように聞かれると困ってしまいますね。街が元気かどうかはどうすれば分かるのかがはっきりしないからです。街が元気というのは、そこで暮らしている人が生きがいを持って生き生きと生活をしている状態であると考えています。2023年の日本の人口は約1億2千万人ですが、年々減少が進んでいて2050年頃には1億人を下回ると言われています。人口が減少すると、そこで暮らす人々の生活に様々な問題が生まれます。そして人口減少の問題は、都市部よりも地方の方が深刻です。人口が減少することによって、電車やバスの路線が維持できなくなったり、スーパーマーケットなどが経営できなくなったり、さらには電気や水道等といったインフラを維持することも難しくなってしまいます。若者が流出することによって町や村を維持することが難しいといわれる消滅可能性自治体は、全体の4割に上ると言われます。
 地方都市での人口減少によって、過疎の町が増えています。過疎の町では子どもたちの数も少なく、一学年の児童数が10人に満たない小学校が多く存在しています。一学年の児童数が10人いないと、野球やサッカーはもとより、バスケットボールも試合を行うことができません。スポーツの楽しさは試合をすることにあると考えられますが、体育の授業でもチームスポーツの試合を経験したことがなければ、スポーツの本質的な楽しさを体験しないままに大人になることになります。

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1.スポーツによる地方創生

 そのようなことにならない様に、地方に移住する人を増やしたり、移住しないまでもその土地を訪れる人を増やしていこうとする取り組みが進んでいて、そこにスポーツが役立つのではないかと期待が集まっています。スポーツイベントを開催することで開催地を訪れる人を増やすことができるし、その地方特有のスポーツ活動を活性化することによって、その地域を訪れる人が増えて賑わいを生み出すことができます。琵琶湖や淡路島を自転車で一周する人を増やそうとする試みや、徳島県吉野川の上流では専用のゴムボートで川を下るラフティングが盛んで、アウトドアのまちづくりが進められています。そこに住んでいる人を定住人口、その地域を訪れる人を交流人口といいますが、スポーツイベントの開催によって交流人口を増やすことによって、経済効果や社会的な効果など様々な効果が期待できます。
 スポーツのイベントを開催することは来訪者を増やすために期待されているのですが、その一方で望ましくない効果を引き起こしてしまうかもしれません。来訪者によるゴミの増加や交通渋滞、公共交通機関を来訪者が占領してしまうことで地域に住んでいる人が利用しづらくなるといった「オーバーツーリズム」の問題も指摘されています。

2.社会的な交換ということ

 地域に住んでいる人以外の人々が地域を訪れることによって得られる効果と、引き起こされるネガティブな影響のバランスで私たちは「歓迎」するか「反対」するかを決めることになります。私たちがものを買うときは、お金と商品を交換します。それは、商品がもたらす価値とお金の価値を比べて、自身に利益があると思うからお金と品物を交換して商品を購入するわけです。同様に、スポーツイベントが開催される際に、イベントの開催で得られる楽しさや効果と、自身が感じるネガティブな要因(コスト)とを比較して、利益がコストを上回るとイベントの開催に対して賛成するのに対し、コストの方が上回ると考えるとイベントの開催に反対するというものです。このような考え方を社会的交換理論といいます。一人一人が感じるコストや効果は少しずつ異なる事が考えられるので、個人の感じる「社会的交換」の視点に立ってイベントを受け入れることが必要です。

3.長野県小布施町の事例

 長野県小布施町は、長野県の北東部に位置する人口約1万1000人の町で、長野県内で一番面積の小さな町です。小布施栗と呼ばれる栗が名産で、秋にはこの栗を目指して多くの観光客が訪れます。この小さな町で、夏にも観光客を誘致することを目指して始められたのが「小布施見にマラソン」で、約8000人が参加するハーフマラソンの大会です。記録を目指して走る人に加えて、仮装して走る人が多くいる“ファンラン”の大会で、多くの住民がボランティアとして参加しています。そして、地域在住の高齢者や子どもたちも道路に出てきてランナーに手を振りながら声援を送っており、町を挙げてのイベントとして皆がこの日を楽しみにしている様子がうかがえます。このようなイベントが地域で開催されることによって、参加費や参加者のお土産代、飲食費などの経済効果が地域に生まれます。またそこに住んでいる人たちは、我が町に訪れる8000人の来訪者を温かく迎えようとするホスピタリティの心が生まれます。また、ボランティアに参加することで、住民同士の関わり合いを意味するソーシャルキャピタルが高まります。これらのことを通して、我が町を見直す機会となり、住民の地域への愛着が高まるきっかけになることが考えられます。冨山研究室では、ここに示したような効果を住民が実際どのくらい感じているのか、参加者は訪れた町をどの様に評価しているのかなどといったイベント開催の効果について測定・研究を行っています。スポーツマネジメントとは、スポーツ組織が目的を達成するために行う活動のことを意味しています。参加者が満足度を高め、地域住民が満足を得るためにはどの様にイベントを進めていけば良いのかといったイベントマネジメントについて研究結果を示していきたいと思います。

道路脇でランナーを応援する人々 【大阪体育大学】

仮装をして走るランナーたち 【大阪体育大学】

風光明媚な街を仮装して走るランナー 【大阪体育大学】

<キーワード> スポーツ地方創生 スポーツイベント スポーツツーリズム 社会的交換理論

冨山浩三(スポーツ科学部教授)

 専門はスポーツマネジメント、特にスポーツを活用した地方創生・地域活性化やスポーツツーリズム について研究を行っています。また、大阪体育大学の社会貢献担当の学長補佐として大学の社会貢献を 担っています。担当科目は、「スポーツ経営学」「スポーツ地方創生論」など。
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