来季35歳、元大型左腕がトライアウトを受けた理由 独立Lで野手転向し手応え、若手への還元も

三和直樹

17年のトライアウトには投手として参加。トミー・ジョン手術からまだ日が短かったこともあり満足のいく結果は残せなかった 【写真は共同】

 2005年のドラフト会議で2球団競合の末、楽天1位指名でプロ入りした片山博視。期待の大型左腕としてプロ3年目で先発ローテーション入りを果たすと、5年目の2010年からはリリーバーとして活躍した。だが、左肘痛によって野手転向、育成契約、トミー・ジョン手術と苦難の時を過ごし、2017年オフに戦力外通告を受けた。TBSテレビの年末番組「プロ野球戦力外通告」でもその後の様子は取り上げられたが、トライアウトを経て、BCリーグ・埼玉武蔵でプレーを続ける34歳の“挑戦”、そして“未来”とは——。

4年ぶり2度目のトライアウト受験

 かつて、大型左腕としてドラフト1位指名でプロ入りした男の姿が12月8日、12球団合同トライアウトの会場にあった。ポジションは「内野手」。身長192センチ、体重110キロの、ひと際目立つ巨体を揺らしながら左打席に立つ。午前中の4打席は1四球のみでヒットが出なかったが、午後の部の第1打席で古川侑利のカウント2ボール1ストライクからの4球目、147キロのストレートを逆らわずに弾き返した。

「何とか1本打ちたいなと思っていたので良かったです。この1年やってきたことが出せましたし、トライアウトに挑戦するのは今回が最後(2019年の規定変更によって参加回数が最大2回までとなった)という中で、自分の力は出せたかなと思います」

 4年ぶり2度目のトライアウトだった。1度目は楽天を戦力外となった2017年。この時は「投手」としてマウンドに立った。その年の3月にトミー・ジョン手術を受けてから8カ月後の挑戦。一般的に1年から1年半の回復期間が必要な中での強行出場だった。結果は、打者4人に対して1安打1四球2奪三振で、ストレートの最速は134キロ。NPB球団からのオファーは来なかった。

「4年前は、トライアウトを受けなかったら、野球をする場所がなくなってしまうという危機感があった。手術のことを考えれば、1年間はどこかで治療とリハビリに専念すれば良かったのかもしれませんけど、あの時はその“どこか”というのもトライアウトを受けなければ見つからないんじゃないかと思った。それだったら、万全ではなくても『8カ月で、ここまで投げられますよ』という姿を見せた方がいいと思った」

打者「本格転向」2年半で打率.361

 片山が危惧していた“どこか”は無事に見つかり、BCリーグの武蔵ヒートベアーズ(現・埼玉武蔵)に入団した。1年目の2018年は「投手兼コーチ」、翌2019年は「コーチ専任」との肩書きだったが、2019年6月に所属する外国人選手が故障離脱したことで急転直下、翌7月に「内野手兼コーチ」として登録され、試合に出て、打席に立つようになった。

「NPBでも1年だけ野手としてやらしてもらいましたけど、野手として1年間しっかりと練習できたというのは実質、去年が初めてだった。そして今年はある程度、自分の思っているような形のバッティングができたと思いますし、結果も残せた」

 2018年に24試合で打率.280、3本塁打、13打点の成績を残すと、野手として腰を据えて挑んだ翌2020年は52試合に出場して打率.282、8本塁打、25打点。そして迎えた2021年シーズンは、60試合に出場して、打率.361、7本塁打、35打点の好成績を残し、首位打者のタイトルも獲得した。

「今年はチームが地区優勝を果たすことができて、充実したシーズンになりました。個人としては、打順が7番ということもあって、イニングの頭でまずは塁に出るという役割、次に繋ぐという部分を意識して打席に入っていた。投手の経験も活かして、相手が今、何をされたら嫌なのか考えて、野手のポジショニングも見る余裕も出たのが良かった」

 報徳学園高時代は1年秋から「4番・エース」として活躍し、2年時に甲子園に春夏連続出場。当時から投手としてだけでなく、高校通算36本塁打を放った打者としての評価も高く、もし時代が違えば「二刀流」として球界を騒がしていたかもしれない。その打撃センスを34歳にして開花させ、トライアウトの舞台でもレフト前へ会心のクリーンヒットを放って見せた。

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著者プロフィール

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。学生時代からサッカー&近鉄ファン一筋。大学卒業後、スポーツ紙記者として、野球、サッカーを中心に、ラグビー、マラソンなど様々な競技を取材。野球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターを経て、現在はフリーランスとして、プロ野球、高校野球、サッカーなど幅広く執筆している。

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