戦力外2度も“佑の恋女房”は社会人で現役続行中 細山田武史が秘める亡き両親への思いと夢

三和直樹

声を出しながら練習に臨む細山田。現在はコーチ兼任選手、さらに人事部所属の社員としても仕事に取り組む 【写真:本人提供】

 早稲田大から2008年にドラフト4位指名を受け横浜に入団した頭脳派捕手、細山田武史。2013年オフに戦力外通告を受けた際には、TBSテレビの年末番組「プロ野球戦力外通告」でも取り上げられた彼は、その後福岡ソフトバンクでもプレーし2015年12月にトヨタ自動車硬式野球部に加入。社会人選手として現役を続行し、2016年には都市対抗野球優勝に大きく貢献し、2018年のアジア大会では社会人日本代表のメンバーとして参戦した。高校、大学、NPB、社会人と立場を変えながらも野球を続けて来た35歳が見据える“未来”とは——。

コーチ兼任&人事部としての日々

 かつて、“佑ちゃんの恋女房”と呼ばれた男は、今もなおユニフォームに袖を通し、汗を流す。肩書きは『トヨタ自動車硬式野球部コーチ兼捕手』。朝6時には起床。6時半には自宅を出発し、7時前に練習場に到着。1時間ほどのトレーニングで体を動かした後は、コーチとしてスタッフミーティングに参加。社会人選手としての慌ただしい1日が始まる。

「プロの時も朝から体を動かしていたので、このルーティンは変わらない。でもプロの時は本当に野球だけの生活でしたからね。今年からコーチにもなって、やることも増えましたけど、いろいろなことを想定しながら、しっかりとした準備をするという部分は、ずっと同じです」

 今年でトヨタ入社6年目。当初の人材開発部から人事部に異動。人材育成室に所属し、大卒1年目の社員の研修などを受け持つ。朝から晩まで野球のことだけを考えていたプロ時代とは異なる生活を送るが、仕事に取り組む姿勢は変わらない。

「目の前のことに全力で取り組むこと。何か問題が起きた時に自分で解決すること。チャレンジするための行動力、そして周りの人を巻き込むこと。自分が野球を続けてきた中で必要だと思っていたものは、どんな仕事でも必要ですからね」

 基本的には野球に集中できる環境が整えられているが、特にオフシーズンなどは一つのプロジェクトを任される。「周りには優秀な方がたくさんいますし、その方たちからも刺激をもらっています」と細山田は言う。そして、仕事上の様々な情報が飛び交う中で「もの作りが日本の経済を支えているということも含めて、社会の仕組みというものを少しずつ分かり始めました」と背筋を伸ばす。「そういう社会の中では、プロ野球の世界というのも“ちっぽけなもの”だったなと思いますし、同時に“ありがたいもの”だったと思いますね」

1度目の戦力外とトライアウト

ドラフト4位で早稲田大から横浜へ入団。正捕手として活躍したこともあったが、大幅減俸ののちに戦力外通告を受けた 【写真は共同】

「ちっぽけ」で「ありがたい」と評した細山田のプロ生活は、計7年だった。ドラフト4位入団から横浜の正捕手として奮闘した時期もあったが、周囲の期待に応えることはできず、「能力も低かったですし、プロ野球というものに対して申し訳なかったですね」と振り返る。

 1度目の戦力外は2013年の10月だった。本人が言う「実力」だけでなく、血行障害に悩まされて本来の力を出せない時期、不運な巡り合わせもあったが、「それも含めて力が足りなかった。戦力外になるべくしてなった」と納得する。その前年の契約更改で25%を超える減俸を提示された時から「あと1年だなという覚悟はあった」と明かすが、それでも現在の妻・菜穂子さんとの結婚式を2ヶ月後に控えた時期での通告は、精神的に辛いものがあった。

 だが、諦めたくなかった。細山田は現役続行を希望し、結婚式を延期した上でトライアウト受験を決意。11月の静岡・草薙球場での第1回トライアウト(当時は年2回実施)では、3打席で無安打のまま降雨によって室内練習場へ移動するという不完全燃焼なものとなったが、「自分の持っている力を出し切って、その姿を見てもらうしかない、という気持ちでしたね。それに僕はキャッチャーなので、トライアウトが始まってからは、ブルペンに行ったり、それぞれの投手の持ち球を把握したり…。自分の打席以外で、いろいろと忙しかったですね。とにかく自分の実力以上のプレーはできませんから」と冷静に振り返る。

 自身の携帯電話に“吉報”が入ったのは、そこから1週間後のこと。名古屋での第2回トライアウトへ向けて、ひと足先に野球道具一式の配送手続きを終えた直後だった。

「本当に突然でした。一瞬、『あっ、荷物、送らなきゃよかった…』って思いましたけど(苦笑)、本当に嬉しかったですし、ありがたかったです」

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著者プロフィール

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。学生時代からサッカー&近鉄ファン一筋。大学卒業後、スポーツ紙記者として、野球、サッカーを中心に、ラグビー、マラソンなど様々な競技を取材。野球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターを経て、現在はフリーランスとして、プロ野球、高校野球、サッカーなど幅広く執筆している。

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