来季35歳、元大型左腕がトライアウトを受けた理由 独立Lで野手転向し手応え、若手への還元も

三和直樹

気持ちの「変化」とトライアウト受験の「意義」

今季はBCリーグで首位打者に輝くなど打撃でも成果を出した片山 【写真提供:埼玉武蔵ヒートベアーズ】

 首位打者の自信を手にトライアウトを受験した片山だが、この4年間を振り返るとコーチとしての役割、比重の方が大きいと言える。2019年のドラフトで西武から3位指名を受けた松岡洸希も指導。「NPBでは打者が分かっていても打てない球を投げられるようにならないといけない」、「どんな場面でもストライクを取れる球種を持つこと」、「1つの武器を磨くこと」と言い続け、サイドスローに転向させた中で投手としての技術、メンタルを教え込んだ。

「投げてみないとわからないというので首脳陣は使いづらい。それは僕がコーチになって感じることですし、自分がNPB時代に使ってもらえなかった理由も今ならちゃんと理解できます。今は野手兼任投手コーチだからこそ伝えられること、投球のテンポ、打者の心理状況など、野手目線で気付くこと、有効なことを教えて行くようにしている」

 コーチ業を続ける中、教えている選手たちからも刺激をもらっている。独立リーグに対する思い、そこで戦い続ける選手たちに対する気持ちも変化した。

「独立リーグの選手たちは大変です。給料が出るのはシーズン中だけですし、オフの間はアルバイトで生計を立てている。ホームゲームの時は、試合の準備も片付けもチーム全員でやりますし、ビジターの時は基本的に日帰りなので移動が大変。だからこそ、そういう環境の中でも目の色を変えて野球に取り組んでいる選手たちの姿を見ると、NPBに1人でも行かせてやりたいと思いますし、長く野球を続けられる選手になってもらいたい」

 今回のトライアウト受験で、嬉しいこともあった。片山は当日、埼玉ヒートベアーズのユニフォームを着て参加。NPB各球団の色とりどりの対戦が続いた中、ベアーズの「青&赤」は、片山の身体のサイズも相まって、大きな存在感を放っていた。

「ユニフォームが結構、目立つ色ですし、スポンサーの方々に挨拶に行った時に『ベアーズのユニフォームで出てたね!』、『頑張ってたね!』って言って喜んでくれたのが嬉しかったですね。そういう声を聞くと、NPBに復帰することはできませんでしたけど、少しは意味のあるトライアウトだったのかなと思いますし、少しは恩返しになったかなと思います」

来季以降も現役続行「やれるだけやる」

報徳学園からドラフト1位で楽天に入団。3年目には完封勝利をマークするなど成果を出していた(写真右) 【写真は共同】

 トライアウトから1週間が経過し、NPB球団からのオファーは来なかった。だが、そこに失意の色はない。新たに埼玉武蔵ヒートベアーズと契約を結び、来季は「ヘッドコーチ兼野手」として勝負する。球団社長を兼任することになった角晃多監督に対して「監督って呼べばいいのか、社長って言えばいいのかっていう悩みがありますけど…」と言いながらも力強いサポートを約束。個人としても新シーズンでのさらなる“成長”を目指す。

「僕はもうNPBに行けるチャンスはないと思うので、これからは本当に、これまで以上に、ヒートベアーズの選手、コーチとして、ファンの方、若い選手たちのために全力を尽くしたい。今年はヒット、出塁率というところに重点を置いて、そのイメージ通りのバッティングができたんですけど、来年はそこに長打というものを加えて、ホームランの数に拘っていきたい」

 来年4月で35歳となる片山。4年前のトライアウト受験時はビジネスホテル住まいだったが、すでに埼玉に住んで4年が過ぎ、「もうだいぶ慣れましたよ」と得意げに言う。プライベートでも2020年に結婚し、現在は1歳の娘がいる。「やっと歩き始めたところ。休みの日は子供と過ごすことが多いです。かわいいですね」と笑う。その家族の存在も自らの力に変え今後は“恩返し”のための野球を続ける。

「一応、球団のオーナーからは『やれるだけやってほしい』と言われているんで、やれるだけやります。これからもベアーズのために力になりたい。僕の励みは、川?(宗則)さんと西岡(剛)さん。あの2人のように30歳後半になっても独立リーグで現役を続けている姿を見ると励まされます。ベアーズの若い選手たちが僕を見て『負けてたまるか』と思っているのと同じように、僕が川?さんや西岡さんのプレーを見ていると、体力が落ちたとか、疲れたとか、そんな甘いことは言っていられない」

 毎年、選手たちは現役続行への望みを繋ぐためにトライアウトを受験する。それは最後の“希望”であるが、その中でNPB球団からオファーが届くのは、ほんの数名のみ。多くの選手たちが、トライアウトを最後に野球を諦めることになる。だが、片山は違う。自らの「進化」のため、「恩返し」のため。4年ぶり2度目のトライアウトを経て、その「決意」はさらに固いものになった。

「プロ野球戦力外通告」

【写真提供:TBS】

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著者プロフィール

三和直樹

1979年1月1日生まれ。大阪府出身。大学卒業後、サンケイスポーツ編集局勤務を経て、記者として野球、サッカーを中心にラグビー、アメフト、マラソンなど様々な競技を取材。サッカー担当時代には、日本代表やG大阪の2008年のACL優勝を取材した。2009年から野 球専門誌『Baseball Times』の編集兼ライターとして活動。プロ野球を中心に、高校野球、サッカーなどの記事も執筆する。

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