「成長したい」宇野昌磨のまっすぐな意志 今が凝縮された『ボレロ』を磨き抜く

沢田聡子

『ボレロ』を完遂することで得られる手ごたえ

どれだけ失敗しようとも、宇野はこのシーズンを通して『ボレロ』を完成させていく覚悟だ 【写真:坂本清】

 そして、この『ボレロ』の最後を飾るステップシークエンスはとても濃密だ。両足を広げてジャンプするスプリットフリップなど、今までの宇野にはなかった動きがところどころに配されている。その難しさからか、このジャパンオープンではまだ完全に宇野のものにはなっていない印象があったが、シーズン後半には余裕を持ってこのステップを踏む新しい宇野が見られるだろう。

 従来プログラムに使われてきたものとは違うバージョンの『ボレロ』に乗り、4種類5本の4回転を組み込み、全身を激しく動かすステップで締めくくるこのフリーは、宇野の全てを発揮する特別なプログラムだ。宇野は1日の公式練習では、この『ボレロ』を完遂することで、自分の求める高いレベルに達する手応えを得ていることを語っている。

「まだまだ自分の求めているものに程遠いものではあるのですが、例年に比べると、ようやく初めて世界のトップと戦えるようになるためのスタートラインに立ったんじゃないかな、と思います。あとはプログラムで今できているものの確率を全て良くして、自分の当たり前にするというのが、今自分に足りないものなのかな、と。

 正直(完璧に)できる確率は、現状かなり低いものだとは思っています。でも、たとえ僕が明日失敗しようとも、ワンシーズン通してこのプログラムを完成させたい。自分がこのプログラムをできる段階まで成長して、世界のトップと戦える選手になりたいという気持ちを込めて、たとえどれだけ失敗して打ちのめされても、これをやりたいと僕は思っています」

過去の失敗も踏まえ、「全てを上手く使って……」

「楽しく上を目指す」状態にある今季、どのようなプログラムが完成するか楽しみだ 【写真:坂本清】

 今の宇野は、とても前向きにフィギュアスケートに取り組んでいる。

「現状としては、前回のオリンピックが終わってからのこの4年、色々なことを経験し、色々なことで悩んだ上で『やっぱりフィギュアスケートをやりたい』と思いましたし、挑戦し続けたい。そしてやっぱり世界のトップで戦える選手でいたいと思ったので、今までのような失敗を恐れる自分ではなく、1つの成功を目指してひたむきに、どれだけくじけても立ち上がってやり続ける自分でいたい。

『世界のトップで戦いたい』。そう思ってストイックになった時、それで自分を苦しめてしまったこともたくさんあった。だからこそ『スケートを楽しみたい』という気持ちに変化が起きたり……。それでもやっぱり『世界で戦いたい』って再び思いましたし、今までの失敗した経験をふまえ、全てを上手く使って、自分をコントロールしていきたいなと思っています」

 平昌五輪で銀メダリストとなってから、強くなりたいと思うあまりにスケートを楽しめない時期を越えてきた宇野は、今は楽しく上を目指すことができる状態にある。宇野の今が凝縮される『ボレロ』がどのように完成していくのか、楽しみでならない。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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