千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

「理念を掲げよ」〜一枚岩を目指すために ロッテで動き出したシンプル&重要な施策

長谷川晶一

「マリーンズ黄金時代到来」を目指すために

チームとフロントが一枚岩になるために。ビジョンの共有はキーワードだった 【写真は共同】

 球団一丸となってのプロジェクトが始まった。前回の河合の言葉にあるように「球団はチームと事業の両輪」である。当然、現場を預かる井口資仁監督の意向も尊重しなければならない。自著『もう下剋上とは言わせない 〜勝利へ導くチーム改革〜』(日本文芸社)において、井口はこんな言葉を残している。

 当たり前だが、監督を務める以上、目指すのは優勝の二文字である。作り上げたいのは、勝てるチーム……しかもたまたま優勝するのではなく、毎年優勝争いができるようなチーム。いうなれば、「マリーンズ黄金時代到来」が僕が監督として叶えたいビジョンだった。

 そして、井口はこう続ける。

 条件の具体的な内容は、本書の中で順に触れていくが、一言でまとめれば、僕の掲げる「マリーンズ黄金時代到来」というビジョンの共有である。

 オーナー代行であり球団社長でもある河合同様、監督である井口もまた「ビジョンの共有」の重要性を痛感していた。現場を指揮する井口が望み、フロントのトップである河合もまたそれを望んでいた。ならば、話は早い。井口は言う。

「僕の役目は現場でチームを勝たせることです。チームが勝たないと球団の運営もうまくいかないと思います。そして、スター選手を育てる、魅力的な選手を育成することも大切。そのためには、我々現場からは常に補強に関して要望を出していますし、球団側もできるだけそれに応えようとしてくれています。そういう意味では、非常にいい関係が築けているのだと思います。そして、その際に大切なのは現場とフロントが同じビジョンを共有していることだと思うんです」

 さらに、井口は続けた。

「それが、《千葉ロッテマリーンズ理念》であり、《Team Voice》であり、《スローガン》なのだと思います」

 第3回で詳述するが、21年開幕前に発表された「理念」こそ、現場とフロントを一枚岩とするための、シンプルにして、重要な施策だった。共通の旗があればこそ、グラウンドで戦うユニフォーム組と、ビジネスを司る背広組が一丸となって目標に向かって突き進んでいくことができるのである。

河合社長と井口監督の思惑が一致する

 前述したように、社長に就任してすぐに河合は特別プロジェクトを立ち上げ、社員主導による「理念」作りに着手した。そして、このプロジェクトにはもちろん井口も関わっている。現役時代の井口はマリーンズのチームカラーに好感を抱きつつも、「長期的視点が欠けている」と感じていたという。前掲書から引用したい。

 僕が現役選手としてプレーしていたころから、マリーンズというチーム・球団には独特の風土があった。良く言えば自由。悪く言えば行き当たりばったり。チームの10年後の姿を見据えている人は誰もいないように思えた。

 オーナー代行兼球団社長である河合も、現場を預かる井口も、同様の課題認識を抱いていた。これはチーム改革を進めるにあたって追い風となった。河合は言う。

「経営上の課題のすべてを監督に理解してもらう必要はありませんが、根本にあるのは“強いチームを作って、それを核にビジネスを回していきましょう”ということです。つまり、“強いチームを作る”という点は私も監督もまったく同じです。5年後、10年後もずっと強いチームでいるためにはどうすればいいのかをしっかりと考えること。その点もまったく一緒です。そこのズレはまったくありません」

 井口も口をそろえる。

「監督就任時から、球団関係者の方々とは良好な関係を築かせていただいています。それは河合オーナー代行兼球団社長が、ロッテホールディングス、ロッテ本社の取締役を務められていたという立場もあり、長期的な視点を常に持ってくださっているからにほかなりません」

  ZOZOマリンスタジアムでの3連戦初戦では必ず河合と井口は「現状の課題、改善点」を話し合う時間を作っている。ソーシャルディスタンスが求められる昨今において、「密なる関係」をしっかりと築き上げているという自負は河合、井口双方にある。

 あとは具体的な理念を掲げるだけだ。そしてついに、およそ半年の時間をかけて練りに練り上げられた「千葉ロッテマリーンズ理念」が完成する――。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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