Jリーグが防災の大切さを発信する理由 ヤフー防災模試 ソナエルJapan杯

宇都宮徹壱

「地域密着」と防災が不可分である理由

2011年の東日本大震災直後に行われたチャリティーマッチで、佐藤氏(前列左端)もJリーグ選抜の一員として出場 【宇都宮徹壱】

 さて、Jリーグが始まった1993年は、和暦でいえば平成5年。Jリーグの歴史は、平成をほぼカバーしているが、それは自然災害が絶え間ない時代でもあった。そんな中、佐藤氏は00年にジェフユナイテッド市原(現・千葉)でデビュー。以来、21年間のプロ生活の中で5つのJクラブを渡り歩いてきた。その間、目の前の試合に集中しながらも、度重なる自然災害に心を痛めることが、たびたびあったそうだ。

「僕自身はいろんな地域でプレーする機会に恵まれて、本当に幸せなキャリアだったと思います。そんな中、東日本大震災のときは広島にいましたし、3年前の(広島の)土砂災害のときは名古屋にいました。被災地から離れた場所にいても、常に選手として何ができるのかを考えていましたが、なかなか参加できなかったのも事実です。OBとなった今、さまざまな地域に接点があることを生かしながら、シャレン!を通じて積極的に発信していきたいと思っています」

 Jリーグもまた、毎年のように繰り返される自然災害に対し、常に難しい判断を迫られてきた。現職に就いた14年以降「台風シーズンになると、ほぼ眠れない日々が続きます」と村井チェアマン。今年7月には、静岡県の熱海市で大規模な土砂災害があったが、8月にも大雨による災害があり、その被害は北信越から九州まで広範囲に及んだ。どこに暮らしていても、自然災害の被災者になり得るのが、今の日本。だからこそ「Jリーグが果たすべき役割は大きい」と村井チェアマンは力説する。

「Jリーグに所属するクラブは、そのすべてがホームタウンの名称を冠していて、ファンやサポーターは地域の名を連呼してきました。サッカーを通じて、ホームタウンや家族や地域コミュニティの大切さを実感する。そうしたことを、Jリーグは30年近く続けてきました。その結果として、自分たちの街を災害から守りたいという考えに行き着くのは、自然な流れだと思います。これまで『地域密着』を謳ってきた、われわれJリーグにとっても、防災の知識というものを発信していくことは、使命だと考えます」

被災地支援に防災という意識が加わることで

2016年の熊本地震直後、日立台で「ホームゲーム」を行ったロアッソ熊本。今後は被災地支援に加えて防災への意識も高めていきたい 【宇都宮徹壱】

 思えば過去の大規模災害において、Jリーグの全国的なネットワークは、さまざまな形での被災地支援活動を可能にしてきた。東日本大震災の際には、直後に開催された『東北地方太平洋沖地震復興支援チャリティーマッチ がんばろうニッポン!』をはじめ、多くのチャリティーマッチが実現。サポーターによる、直接的な被災地支援も相次いだ。また16年の熊本地震の際にも、スタジアムが使えなくなったロアッソ熊本のために、柏レイソルやヴィッセル神戸やサガン鳥栖が試合会場を提供している。

 今後も自然災害が起こるたびに、こうした被災地支援が行われることだろう。それはそれで大事なことだが、ここに防災という意識が加わることで、救われる命があることは間違いない。Jリーグもシャレン!を通して、支援から防災へとシフトしているように感じられる。とはいえ、決して一筋縄ではいかないことも、村井チェアマンは実感している。

「どこかで甚大な災害があって、そこに支援をするというのは対象が明確ですし、ある程度の効果を予測することもできます。防災の場合、備えたものを発揮できるタイミングが不明確ですし、災害がどういう形で襲ってくるのかも分からない。それでも、ある種のイマジネーションを広げれば、災害は他人ごとではなくなるはずなんですよね」

 こうした前提を踏まえて、チェアマンは続ける。

「すべての物事には、因果関係というものがあります。大きな災害に遭遇して、それでも助かったというのは、助かるだけの理由があると思うんです。このヤフー防災模試には、現実の生活に則した設問がたくさん出てきます。そういうリアリティのあるシミュレーションを、ある種のゲーム感覚で楽しんでもらえればいいかなと。そしてYahoo! JAPANさんのテクノロジーを利用させていただきながら、各JクラブとOB会が力を合わせて発信していくことこそ、シャレン!の本質なのかなと思います」

 9月1日からスタートしたソナエルJapan杯は、57クラブが地域ごとに8グループに分かれて、まずは予選ラウンドを戦う。そして1位通過の8クラブ、最も100点取得者が多い1クラブ、さらに佐藤氏を含むチーム「JリーグOB」が、9月17日から20日までの決勝ラウンドに参加。9月下旬に優勝クラブが発表される。最後に「JリーグOB」を代表して佐藤氏に、ソナエルJapan杯への意気込みを語ってもらおう。

「本来であれば、僕らOBも予選ラウンドから出場すべきだと思うんです。けれども、今回はご配慮をいただいているので、全員が満点を取れるくらいの覚悟で臨みたいですね。今のところ僕以外では、中田浩二さん、播戸竜二さん、石川直宏さん、あとは都並敏史さん。OB会の理事は全員が出る予定です。それにプラスして戦力になりそうな、防災意識が高い人に参加を呼びかけたいなと。そのためのスカウティングは、しっかりやるつもりです(笑)」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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