大谷翔平の魔球“ジャイロスプリット” その軌道はMLB全体で0.1%未満

丹羽政善
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2018年と今季の投球をデータ分析。大谷が打たれない秘密は魔球“ジャイロスプリット”にある 【Getty Images】

 6日(日本時間7日、日付は以下同)の試合後のこと。大谷翔平(エンゼルス)は、今季限りでの引退が明らかになった松坂大輔(西武)の印象で残っていることを聞かれると、「ジャイロボールじゃないですかね」と笑いながら答えた。

「真似して投げたりしたのか?」

 続いた質問に、珍しく会見で相好を崩す。
 
「どうなんですかね。僕は投げられると思って、子供の頃、真剣にやってましたけど。ハハハハハ。今はちょっと、僕の実力では難しいなと」

 いやいや。大谷は今、そのジャイロ回転の球を投げている――スプリットだが。それを指摘すると、「ってことは、ジャイロスプリッターでいいかなと思います。意識しちゃうかも」とさらに声を出して笑った。

18年と比べて落下幅は14.9センチ大きく

 スプリットというのは、バックスピン、水平回転(回転軸が地面に対して垂直)が主な回転だが、ごく稀に、大谷のようなジャイロ回転のスプリットを投げる投手がおり、日本のプロ野球では、千賀滉大(ソフトバンク)のスプリットがそうだと言われる。

 ジャイロスプリットの場合、通常のスプリットよりも落差が大きくなることが分かっており、大谷の場合も、通常のスプリットだった2018年と比較すると、今年は14.9センチも落下幅が大きくなっている。ざっくり言ってしまえば、それが打たれない理由のひとつだが、そこを掘り下げる前にまずは大谷のスプリットの回転がジャイロであることを確認していきたい。

 それはもし、1秒間で3000〜3500コマの撮影が可能なエッジャートロニックカメラで確認できれば一番正確だが、その映像はないので、回転効率を計算してみた。

 回転効率とは、回転がいかに効率的にボールに伝えられているかを示す数値。進行方向に対して回転軸が90度の場合、きれいなバックスピンがかかっていることになり、その際の回転効率は100%だ。このとき最大のマグヌス効果が期待でき、フォーシームであれば、浮き上がるような錯覚を打者に与えられる。逆にこの数値が低いと、キレを欠くと映るのではないか。軌道を決定する上では、回転数よりもはるかに重要な数値だ。

 一方、回転軸が進行方向に向いていれば、回転効率は0%。このとき、ボールはジャイロ回転する。大谷のスプリットがジャイロ回転をしているならば、回転効率がかなり低いはずで、前半最後の登板となった6日の試合後、スプリットの回転効率を計算してみると、16%(※)だった。

※回転効率を計算するため、球速、変化量、回転数に関しては、MLBが提供しているStatcastのデータを「baseballsavant.com」から抽出し、それを米イリノイ大のアラン・ネイサン名誉教授が、「Determining the 3D Spin Axis from Statcast Data」という論文で公開している計算式に当てはめて算出した。

MLBでジャイロスプリットを投げる投手は?

 回転効率が何%以内ならジャイロスプリットという明確な定義はないが、16%ならそういっても差し支えないレベルか。18年が65%だったので、大きく質が変化した。18年(左)と21年(右)の回転軸を比較したのが以下のCGだが、大きく回転軸が変化し、21年の軸は進行方向を向いていることが確認できる。


(左が2018年の回転軸、右が今年の回転軸。ドライブラインがEDGEで提供しているサービスを利用。使用にあたっては事前に許可を取った。以下同)
 ただ、それ以上にリサーチして興味深かったのは、ジャイロスプリットを投げる投手が、メジャーにはほとんどいない、という事実。全投手の回転効率を調べたわけではないが、スプリットを武器とする主な投手の回転効率を計算したところ、以下のような結果になった。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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