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ユーロ出場国を“戦術”から読み解く
試合を決めるのは「精度」と「強度」

欧州で増えてきた「3バック」の意味

強豪国の中でも優勝候補と目されるフランス。フォーメーションは「4−2−3−1」を採用
強豪国の中でも優勝候補と目されるフランス。フォーメーションは「4−2−3−1」を採用【写真:ロイター/アフロ】

 代表チームの戦術は、クラブチームに比べると遅れている。現状でクラブの後追いのような格好になっていて、とくに強豪国はそうだ。ただ、戦術的に進んでいることが優劣を決めるわけではない。


 試合を決めるのは常に「精度」と「強度」であって、戦術はそれを補完するものでしかない。例えば、強豪国が取り入れているポジショナル・プレーは精度と強度を合理的に発揮しやすい仕組みになっているが、別のやり方ではダメというわけではない。代表はクラブほど緻密さがない分、形に合わせるよりも選手に合った形を採り入れたほうがうまくいくことが多い。北マケドニアのような初出場国が、最先端でも何でもない戦術で勝ち上がっても不思議ではなく、欧州選手権(ユーロ)はそういう大会でもある。


 優勝候補と目されるのは前回のファイナリスト、ポルトガルとフランス。さらにロシアワールドカップ(W杯)でベスト4だったベルギー、クロアチア、イングランド。ドイツ、イタリア、スペイン、オランダも伝統的な強豪国だ。


 これら強豪国の戦術は濃淡こそあれ、ほぼ同じといっていい。後方から丁寧にパスをつなぐボールポゼッションと、前線からのハイプレスの組み合わせである。


 強豪国のフォーメーションは3つに分類できる。いずれも攻守に変化があるが、3−4−2−1基調なのがベルギー、イングランド。4−3−3がポルトガル、ドイツ、イタリア、スペイン。4−2−3−1がフランス、オランダ、クロアチアだ。


 ヨーロッパではあまり多くなかった3バックが増えてきた。引いたときには5バックなので、ディフェンスラインで5レーンすべてを埋められるからだ。攻撃では縦に5分割したレーンの外から2番目にあたるハーフスペースへの侵入がポイントなのだが、5バックならあらかじめそこを抑えやすい。クラブチームでもスペインリーグで優勝したアトレティコ・マドリー、チャンピオンズリーグ優勝のチェルシーが3−4−2−1を採用していた。


 ただし、守備の第一の狙いであるハイプレスでは4バック系のほうがスムーズだ。対戦相手と試合の性質によって3バック、4バックを使い分けられるチームが有利かもしれない。

C・ロナウドがもたらすメリットとデメリット

ポルトガルにおける戦術のポイントはC・ロナウド。守備面でのデメリットを考えなければならない
ポルトガルにおける戦術のポイントはC・ロナウド。守備面でのデメリットを考えなければならない【Getty Images】

 前回王者ポルトガルはメンバーが強化されている。


 マンチェスター・シティで大活躍のルベン・ディアスが守備の要として定着。同じくシティで「カンセロ・ロール」と呼ばれる自由奔放な動きのジョアン・カンセロもいる。MFにはマンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデス、シティのベルナルド・シウバ。アトレティコ・マドリーのジョアン・フェリックス、リバプールのディオゴ・ジョッタら、若手も台頭している。さらに大エースのクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)と、ワールドクラスのタレントがそろっている。


 戦術的には4−3−3で前線から素早くハイプレスをかけ、それをくぐられるとミドルゾーンでの4−5−1に移行する。右サイドバック、カンセロの攻撃参加とブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シウバを中心としたパスワークによる攻め込みと、C・ロナウドを残した形からのカウンターアタックの両方を兼備。つまり、攻守にわたって全方位的に穴がない。


 ポゼッションとハイプレス、堅守速攻のどちらもできる。ポイントはやはりC・ロナウドだろう。36歳のスーパースターはもともと守備には組み込めない。その分、守備面でのハイプレスが不完全になりやすく、C・ロナウドのメリットとデメリットを天秤にかける必要がある。これまでは議論にさえならなかったC・ロナウドのデメリットを真剣に考えなければならなくなっているのが現状だ。前回大会の途中で、攻撃型から守備型へとモデルチェンジして優勝したフェルナンド・サントス監督は、今回も大きな決断を迫られるかもしれない。

フランスは代表チームの作り方のモデル

ロシアW杯優勝メンバーがほぼ残っているフランス。ベンゼマはラストピースになりうる存在だ
ロシアW杯優勝メンバーがほぼ残っているフランス。ベンゼマはラストピースになりうる存在だ【Getty Images】

 グループFでポルトガル、ドイツ、ハンガリーと同居するフランス。前回大会は準優勝、2018年ロシアW杯の優勝国だ。


 ディディエ・デシャン監督はすでにフランスがどうあるべきかを知っていて、代表チームの作り方のモデルといっていいかもしれない。精神的な結束を重視し、戦術的には最低限の基盤を堅持するが、仕上がりは起用する選手しだい。その選手もばらばらな個性を選出する。


 例えば、空中戦や競り合いに強いオリヴィエ・ジルー(チェルシー)と同じタイプがいない。ジルーがセンターFW(CF)でなければ技巧派のアントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ)やスピードスターのキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)を起用していた。個性の違う一番手ばかりを選出していて、代わりがいない編成になっている。


 ボランチのポール・ポグバ(マンチェスター・U)とエンゴロ・カンテ(チェルシー)は体格もプレースタイルもまるで違う。左右のウイングも個性が異なる。だから組み上げてみるまではチームとしての機能性は分からない。優勝したロシアW杯でも、最適解を出せたのはグループリーグが終わってからだった。異なる個性の一番手のみを招集し、本番までは組み合わせをテスト。大会が始まってからも選手の調子を吟味しながら勝負どころで仕上げる。


 とはいえ、2年前のメンバーがほぼ残っているので骨格はほぼ出来上がっている。さらにカリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)が加わることも、戦力的には大きなプラスだ。エムバペは中央よりサイドに置いたほうが生きるので、その点でもベンゼマの存在はラストピースになりうる。


 今回は「死のグループ」だけに最初から最適解に近いものを出さなければいけないが、デシャンのチームらしく「強度」を前面に押し出していけば、難度の高いグループも突破できるだろう。

西部謙司

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『4−4−2戦術クロニクル』『サッカー観戦Q&A』。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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