ユーロ出場国を“戦術”から読み解く 試合を決めるのは「精度」と「強度」
ドイツには欠かせない「CF」という存在
ドイツはCFにニャブリを起用。「偽9番」で大丈夫なのかという問いは残る 【Getty Images】
ニャブリはスピードとテクニックを兼ね備えた逸材だ。ティモ・ヴェルナーも左右に動いてスペースを作るプレーの効果はチェルシーで証明している。空いたスペースにカイ・ハヴェルツ(チェルシー)、レオン・ゴレツカ(バイエルン)らが入ってくる流動的な攻撃は魅力的ではある。だが、これまでの歴史を振り返ると、ドイツには中央で得点源になれるCFが必要だった。
トーマス・ミュラーの復帰はこの件での解決策にはならない。ミュラーは得点能力が高く、バイエルンでは多くのアシストでも貢献しているが、CFではないからだ。ロベルト・レヴァンドフスキとのセットでの活躍であり、ミュラーは得点を生み出すかもしれないが、それには相棒のCFが必要なのだ。
長年、トニ・クロース(レアル・マドリー)とともにゲームメークを担ってきたメスト・エジル(フェネルバフチェ)はもういない。中盤の底でプレーするヨシュア・キミッヒ(バイエルン)がクロースとともに攻撃を構築する。キミッヒのペナルティーエリア内へ浮かせるロブはドイツの重要な攻め手になっている。レロイ・サネ(バイエルン)の突破力も武器だ。ただ、それらを結び付けるのが「偽9番」で大丈夫なのかという問いは残る。
モダン化したイタリア、世代交代後のスペインは?
ポゼッションとハイプレスの戦術を敷くイタリア。カテナチオのイメージを消し去った 【Getty Images】
ただ、それゆえにあまりにも普通だ。モダンな戦術を追いかけて追いついたけれども、強豪国の中では後進であってイタリア独自の強みが特にない。代表だけでなく、セリエAもモダナイズされている。しかし、現代化のセリエAで優勝したのは、その中で最も伝統を色濃く残していたアントニオ・コンテ監督のインテルなのだ。お仕着せのモダンスタイルでイタリアの持っていた力を引き出せるかどうかが注目される。
スペインも世代交代している。基本的なプレースタイルは同じだが、よりスピードを追求。ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、フェラン・トーレス(マンチェスター・C)、ジェラール・モレノ(ビジャレアル)といったアタッカーはそれぞれ好選手だが、黄金時代のシャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)のようなスーパーな存在ではない。ある意味、強豪国が軒並み「スペイン化」した現在、スペインが何で差別化できるかは判然としていない。
ベルギーはすでに出来上がったチームだ。フランスとともに優勝候補筆頭だろう。チームとしてはピークだが、DF陣はピークを越えている。トビー・アルデルワイレルト(トッテナム)、ヤン・フェルトンゲン(ベンフィカ)、トーマス・フェルマーレン(神戸)ではカウンターアタックに不安が残る。ベルギーはタレント軍団ではあるが、ロシアW杯でも相手に合わせて戦ったときのほうが強さの出るタイプだ。守備の老朽化がその点でネックになるかもしれない。
個々のタレントでいえばイングランドは優勝候補だ。フィル・フォーデン(マンチェスター・C)、メイソン・マウント(チェルシー)、ジェイドン・サンチョ(ドルトムント)らの若手が素晴らしい。マーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・U)、ラヒーム・スターリング(マンチェスター・C)、ハリー・ケイン(トッテナム)……とアタッカーは特に充実している。ただし、チームとしてまとめてしまうとそれほどでもない。個が個で終わってしまうケースが多いのだ。戦術的なイメージはマンチェスター・Cなのだろうが、いかんせん連係面では比較にならない。しかし、ロシアW杯である程度ベースはできている。手堅い守備と個の爆発があれば、初のユーロ優勝も手が届く可能性はある。