連載:2021高校スポーツの主役候補

無念の春高バレー棄権から約5カ月 再び日本一へ、東山高「ゼロからの挑戦」

田中夕子
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東山の新チームはまだ始動したばかり。当初は不安のほうが大きかったという豊田監督だが、今は「楽しみしかない」とこの先の成長に期待を込める 【写真提供:東山高校】

 前年王者として臨んだ今年の春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)で、東山高校は悲しみに暮れた。メンバーの中に発熱者が出たため、大会中に無念の棄権を余儀なくされたのだ。あれから約5カ月。新入生も迎えた新チームは、前を向き、日々着実に成長している。再び全国の頂点へ――。東山高バレー部の面々が、日本一を目指してコートで躍動する姿が見られる日が楽しみだ。

先々を考えると非常に面白いチーム

 緊急事態宣言の最中で、練習時間は2時間。万全な対策に則って公式戦の開催は認められているが、京都府内、府外を問わず練習試合は禁止。新入生を迎え入れてまもなく1カ月、実戦を通して個の力、チームの力を試したい時期ではあるが、それもなかなか叶わない現実。

 だが、東山高校バレーボール部は前を向き、着実に成長を遂げている。電話越しに聞く豊田充浩監督の声もどことなく弾んでいた。

「正直に言うと、このチームで練習を本格的に始めた時は『大丈夫か?』という気持ちのほうが大きかったんです。でも、練習を重ねてきてチームとしての士気や一人ひとりの伸び、全体のまとまり。去年のように、運動能力が高い子が揃(そろ)ったチームではないですが、先々を考えると非常に面白いチーム。まだまだ伸びるし、僕は楽しみしかないですよ」

 コロナ禍の1年。昨年は練習も試合も、これまではすべて当たり前だと思っていたことがすべて叶わず、高校生バレーボール選手にとって、最初で最後の公式戦が全日本バレーボール高等学校選手権大会(以下、春高)だった。

 前年度、エースの高橋藍(日体大2年)やセッターの中島健斗(天理大2年)を擁し、東山高は失セット0で春高を初制覇。そのチームで主軸を担った吉村颯太(日体大1年)や楠本岳(天理大1年)、荒木琢真(近畿大1年)、大塚昂太郎(国士舘大1年)といった当時の2年生たちが最上級生となり、これまでと変わらぬ1年であったならば、春高、インターハイ、国体と高校生バレーボール選手にとっての“3冠”を目標としていたはずだ。

 しかし実際は春高からまもなく京都府の新人戦が開催されただけで、それからは緊急事態宣言に伴い学校にも通えず、オンラインでのトレーニングや各自ができる範囲のボール練習だけの日々。連覇どころか、本当にこの方法で自分たちは上達できるのか、と不安しかなく、練習や試合再開のめども立たない。

 少しは状況が変わるだろうと思うまま春が過ぎ、夏になっても新型コロナウイルスの猛威は衰えず、インターハイ、国体が相次いで中止。練習もできず、いわばぶっつけ本番とも言える状況で、春高出場をかけたライバル洛南との京都府大会決勝に臨んだ。この試合は強豪同士の戦いと言うだけでは足りないほど、まさに両者総力を尽くした激闘となり、繰り返されるデュースの末、フルセットで東山が制し、春高で連覇に挑戦する権利を得た。
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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