1万人規模の沖縄アリーナがオープン “観客第一”琉球・木村社長が込めた想い
バスケットの見やすさを優先することから始まった
NBAで使用されている全アリーナを研究し、その特徴も把握していた木村社長 【写真提供:琉球ゴールデンキングス】
バスケットボールをいかに魅力的に見せるかをスタート地点にして、アリーナの設計は始まった。
それは木村や沖縄市が、「キングスは特別」だと考えているからではない。キングスには、ホームチームとして定期的に使用する責任があるからだ。ホームチームのパフォーマンスが魅力的であるかどうかは、アリーナの価値にもかかわってくる。
そうした責任感を持ち、NBAで使用されている全てのアリーナを研究して木村は、あることに気がついた。
あくまでも木村の考察ではあるのだが、大まかに2つのパターンがある。
「アイスホッケーありきで作られているところと、バスケットボールありきで作られているところとがあるのです」
「アメリカのNBAで使用されているアリーナ=バスケット観戦に最適なアリーナ」
しかし、現実はそうではない。
前提として、アメリカのアリーナの多くはバスケットボールとアイスホッケーのチームが共用している。
その前提の上で、以下の違いに目を向けてみてほしい。
バスケットボールのコートの大きさ:28メートル✕15メートル
アイスホッケーの(北米基準の)大きさ:61メートル×26メートルで、周囲をボードで囲まれている
本場アメリカにも、アイスホッケーの試合が行われるときに最適化されたアリーナと、バスケの試合が行われるときにどの席からも見やすいように設計されているアリーナと、2種類あるのだ。
サッカー観戦の質を向上させるために、陸上トラックのないサッカー専用スタジアムを増やすべきではないかという声が挙がるようになった。ただ、Jリーグが開幕したのは1993年だが、そうした議論が一般に盛り上がるようになったのは2010年代ころから。香川真司や内田篤人が6万から8万人を収容するようなサッカー専用スタジアムでプレーする映像を見るのが日常になってからだ。
同時に、陸上界からもサッカー基準の大きなキャパシティーのスタジアムでは陸上の大会を開くには大きすぎるという声も挙がるようになった。
陸上トラックのあるサッカースタジアムは、八方美人な施設であり、何をするにも中途半端になると考えがようやく日本でも主流になってきた。
5〜10年後にはバスケットボールの世界でもそうした議論が生まれるようになっても不思議ではない。
広がるアリーナの可能性
沖縄アリーナはバスケットありきで始まったが、コンサートなど多岐にわたる“極上のアリーナエンタメ”としての可能性がある 【写真提供:琉球ゴールデンキングス】
「色々なことや用途に対応できるのは素晴らしいことですが、そのかわりに、何を観るときも中途半端で、見ごたえのないアリーナになるのは避けたいので、意識・工夫しました。バスケットが偉いわけではなく、バスケットの試合を見やすいというところを最初に考えて、観客席を配置していったということです」
このアリーナはもちろん、コンサートなどでの使用も想定されていて、この形状をどうやって活かすのかをアーティスト側が考える楽しさは残されている。バスケットコートと同じ位置にステージを設ければ1万人が入るが、バスケコートのゴール裏の内にステージを設ければ8000人、サイドラインのところにステージを設ければ7000人……といったバリエーションがある。
多目的で使用されることを考えて、“どんぶり勘定”で設計されたのではない。
定期的に使用するバスケットボールの試合を観る際の理想的な席の配置からスタートした。
その上で、アリーナの持つ可能性を広げるかのように、他の用途にも使えるように設計にされた。
そこに、意味がある。
また、Bリーグでも、トップカテゴリーに入るためには平均入場者4000人以上という基準を今後設けると打ち出しており、(昨シーズンのコロナ禍前2月14日時点でのキングスの1試合平均入場者3295人)バスケ界にとってもアリーナ建設は急務の課題だ。
今後は、様々なスポーツやコンサートが行える汎用性と引き替えに、観客席からの距離が遠いアリーナも多く生まれていくことになる。
そうやって、日本に1万人規模のアリーナが出そろったときに初めて、沖縄アリーナの真の価値はようやく理解されるのかもしれない。
忘れてはならないのは、どんなプロスポーツでも、コンサートでも、プレーする人やパフォーマンスをする人の数よりも、観客の人数の方が多いということ。
沖縄県沖縄市に生まれた沖縄アリーナは、マジョリティーである観客の視点に立って作られた施設である。
エンターテインメントの本質に目を向けて作られたという事実を、見落としてはならない。
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