連載:『やべっちF.C.』の功績 新番組『やべっちスタジアム』の全貌

やべっち×名波浩のコメントかぶりは必然「いま矢部さんがおっしゃいましたが…」

馬場康平

矢部浩之さん(左)と『やべっちスタジアム』解説陣のクロストーク。第1回目は名波浩さんと対談 【浦正弘】

 連載企画『やべっちF.C.の功績 新番組やべっちスタジアムの全貌』も、ここからは延長戦。豪華解説陣と、番組MC矢部浩之さんのクロストークを全3回で連載する。その第1回目は、 “やべっちファミリー”に“復帰”した名波浩さんと矢部さんの対談。ふたりの軽快なトークの端々には、同じMFの感性と、しゃべり手としてのこだわりが存在した。

やべっちファミリーの古き盟友が“復帰”

矢部さんと名波さんは同じMFとあってサッカー観が似ているという。トークの掛け合いも絶妙だ 【浦正弘】

 DAZNで新たに幕を開けた『やべっちスタジアム』は、今年12月6日に第2回配信を迎えた。その番組冒頭で、矢部さんは「解説は久しぶりに戻ってきてくれたというのかな。元日本代表の名波浩さんです」と言って、左隣に視線を移した。

 名波さんは、その前振りに、こう応じた。

「前の番組も含めて考えると6年ぶりなんですけど。この場を借りてこの番組に携わるお偉いさんにありがとうございます、と(笑)。よく戻してくれたと、決まったときに奥さんが泣いていましたからね」

 それに、MC席からは「うそっ!うれしいな」と言い、「そういうの聞いたらこっちもうれしくなるよね」と続く。この何気ない言葉のワンツーにも、ふたりの信頼の厚さがにじみ出ていた。

「名波とは、一番長いかもね」

 そう矢部さんが語るほどの盟友は、現役時代に『やべっちF.C.』のパイロット版として2002年元日に放送された『99 Yebecchi F.C.』の正月特番にゲストとしても出演している。この番組共演を機に、たびたびレギュラー放送にも登場し、親交を深めてきたという。

「年齢も近かったし、もともと名波のプレースタイルも好きだったんですよ。自分の時代はセンターフォワードではなく、ゲームメーカーが花形だったので、名波の前やったらラモス(瑠偉)さんとか、そのあとは(中村)俊輔だったり、ヤット(遠藤保仁)も好きやし、そこは変わらないですね。後に解説者としても番組に関わるようになってくれたけど、僕の中では一緒くたになっている」

 ふたりは、知り合ったときから妙にウマが合った。「お互いに前に出ないからじゃないですか(苦笑)。お互いバランサーなので」という名波さんも、もともと大のお笑い好き。そのエピソードを矢部さんが、こう明かした。

「名波はお笑いが好きで、1998年のフランス・ワールドカップ(W杯)に、めちゃイケ(フジテレビ放送『めちゃ×2イケてる』)のビデオを持って行ってくれたんですって。それをみんなに見せて息抜きしてたって聞いたんです。うれしいですよね」

 この話には続きがある。00年に、さらなる飛翔を目指してイタリア・セリエAのヴェネツィアへ移籍。その挑戦を支えたのも、“めちゃイケ”だったという。

「フランスW杯のときは数本でしたけど、イタリアに行ったときは、1話から何十巻ってそろっていました。実はそれをヒデ(中田英寿)が持っていたんです。あいつがローマに移籍するときに、『全部見たから欲しい?』って言われて、『すぐに送れ』と、言って全部送ってもらったんです」

 それを聞いた、矢部さんは、「中田ヒデの好感度がいま、グッと上がったわ」と言って、白い歯をこぼした。

 名波さんは08年の現役引退後に、解説者として『やべっちF.C.』の仲間入りを果たす。そこからふたりの距離はさらにグッと縮まり、毎週末の絶妙な掛け合いは名波さんのジュビロ磐田の監督に就任する14年9月まで続いた。

 今回の6年ぶりのタッグ復活には、矢部さんも「やべっちファミリーなのでありがたい。フットサルでは僕の監督でもあるので、いてもらわないと困る」と、大歓迎していた。

今季印象に残ったMFと“MFあるある”

今季のJ1で最も印象に残ったMFに矢部さんは川崎F・中村憲剛を選出。「彼の人間性も理由」 【浦正弘】

「いま矢部さんがおっしゃいましたが…」

『やべっちF.C.』時代からハイライト映像へのふたりのコメントかぶりは何度もあった。希代のレフティーに羨望のまなざしを送ってきた矢部さんも、高校時代のポジションは同じMF。だからなのか、名波さんも「視点や頭に浮かんだフレーズが一緒なのは、サッカー観が似ているから。ほかのポジションの人が、いくつものフィルターを通して出てくる言葉だったとしても、僕たちはそれが一発で思い浮かぶんですよ」と、思い出を振り返った。

 矢部さんも、これには「うれしい」と言って「名波はそこもパサーで、オレが気持ちいい言葉を知っている。毎回喜ぶワードを並べてくれるし、ええパスをくれるんですよ」と、反応する。だが、そう笑いながらも、ここでふいに30年近く言葉を生業にしてきた、芸人・矢部浩之の顔を見せた。

「名波はしゃべることをちゃんと組み立てて、ここを聞いてほしいというところを大事にしている。特に、ワードとかをすごく考えているなって毎回思う。いまは現役時代の試合中の局面を変える大事なパスが、そうした言葉に置き換わっているんやと思います」

 これには名波さんも「自分の仕事をしゃべり手として認識したときから、芸人さんからは学ぶことは本当に多い」と、即座に返す。

 希代のレフティーのこだわりは、ふたりに「今季のJ1で最も印象に残ったMFを選出してほしい」と投げかけたときに表れた。

 まず、矢部さんは今季劇的な復活と、現役引退というサプライズを起こした、川崎フロンターレのMF中村憲剛を選出した。その理由を「多くの驚きを与えてくれただけではない。彼の人間性も理由。各年代別の日本代表には入っていない選手が、高校卒業からスター街道を歩む選手が多いなか、日本代表にまで這い上がっていった。そういう道のりが彼の人間性をつくったのかなって、そう思って余計に引き込まれるんです」と、口にした。

名波さんはC大阪・坂元達裕を挙げて「“色気のある選手”が出てきた」と評する 【浦正弘】

 続いて名波さんは、今季のセレッソ大阪に欠かせないMF坂元達裕を挙げ、こう語った。

「久しぶりに“色気のある選手”が出てきたなって思います。齋藤学(川崎F)や斉藤光毅(横浜FC)といった系譜のやんちゃなドリブラーは、これまでも結構いたと思うんです。でも、色気があるんですよね、彼のボールのなめ方には」

 その“色気がある”という選出理由に合点がいった、矢部さんは「そういうタイプって『エロいわ』って言うと、喜んでくれるんですよね」と、世界観を重ね合わせた。ふたりの共通点はまだまだある。名波さんが「MFあるあるだと思うんですけど、車の運転がうまい」と言うと、隣で矢部さんが「オレも自信あるわ」と、膝を打つ。

名波「マネージャーが運転するときに、横で『いまススッと抜けられたでしょ』ってついつい口にしてしまう。次を予測して的確なルートを頭の中で常に描いてしまうんですよ、中盤の選手って」

矢部「それって感覚的に、現役のときからプレーのひとつ先を見てきたからやと思う。でも、笑ってくれる人は笑ってくれていいんですけど、ほんまに年を重ねたら自分は中盤の選手やなと、すごく感じるようになる。ポジション別で性格が絶対に出るんですよ。だから、いまでもどんなシチュエーションでも、シュート決めるよりも、いいパスの方が一番カッコいいと思ってしまう」

 この“MFあるある”は途切れることがなく、時間も忘れ、話は多岐に及んだ。そんなふたりのパス交換は、これから「尺が確定していないので、ついついそれてしまう」『やべスタ』でも楽しめそうだ。

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著者プロフィール

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、『東京中日スポーツ』等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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