高校野球から“解放”された選手たち 合同練習会を発展させ、来年以降も…

中島大輔

9月5、6日に東京ドームで行われたプロ志望高校生合同練習会。41名の高校球児が参加した 【写真は共同】

 静まり返った東京ドームに、木製バットから奏でられる硬球の乾いた音が響き渡る。高校球児の象徴とも言える坊主頭ではなく、短髪を整えた41人の選手たちがプロ志望高校生合同練習会で見せたのは、いつもの高校野球とは明らかに異なる光景だった。

「刺激になった」「いい経験になった」

「レベルの高い選手と対戦できるのがうれしくて、合同練習会のアナウンスを聞いてすぐに応募しました」
 
 9月5日の練習後にそう話した佐和の右腕投手、黒田晃大は翌6日のシート打撃で最速141km/hの速球を投げ込み、のべ6人の打者から4つの三振を奪った。

 対して池田工業の捕手、松倉星斗はこう振り返っている。

「捕手として、経験したことがない球速と鋭い変化球の投手をリードできてワクワクしました。下君(慎之介=健大高崎)の内角直球がズバッと決まったときは気持ちよかったです」

 9月5、6日の東日本会場の練習会に参加した41人の高校生選手たちが一様に口にしたのは、「楽しかった」「刺激になった」「いい経験になった」という言葉だった。これらのコメントにこそ、合同練習会の大きな意義がよく表れている。

 新型コロナウイルスの感染拡大により全国で春、夏の大会が中止になった今年。日本野球機構(NPB)と日本高等学校野球連盟はプロ野球を志望する選手を対象に、甲子園と東京ドームで合同練習会を開催した。

 異例の形でプロとアマが手を取り合ったのは、いわば高校生たちへの“救済処置”だった。各地で代替大会が行われたとはいえ、コロナ禍で思うように調整できず、アピールし切れなかった者も少なくなかったはずだ。弘前東の藤田青空(そら)はその一人で、合同練習会を千載一遇のチャンスと捉えた。

「代替大会でいろんなスカウトの方に見に来てもらったんですけど、全然自分のパフォーマンスを発揮できず後悔していました。もう1回チャンスをいただけたので、プロ野球選手になるために、自分の持っているものをすべてアピールしにきました」

存在感を放った選手たち

 80人のスカウトの前でとりわけ存在感を放ったのが、浦和実業の豆田泰志、浦和学院の美又王寿、国学院栃木のシャピロ・マシュー・一郎、学法福島の辻垣高良らの投手陣だった。名前を挙げた4人はいずれも140キロ超の速球で三振の山を築き、将来の飛躍を感じさせる投球内容だった。
 かたや、多くの打者が木製バットや初見の投手への対応に苦しむなか、最もアピールしたのが上田西の高寺望夢だった。初日のフリー打撃から快音を響かせた左打者は、2日目のシート打撃で6打数5安打。センターから逆方向に巧みなバットコントロールを見せるだけでなく、ボテボテの当たりを内野安打にする俊足も光った。「長打力と(初対戦の投手への)対応力をアピールするつもりで臨みました」と振り返ったとおり、スカウトたちの目に止まったはずだ。

 長打力が注目された石川慧亮(青藍泰斗)は、シート打撃でレフトスタンド中段に豪快な本塁打。木製バットを手にし、目の覚めるような一撃は見事だった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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