連載:解説者と実況アナ、野球&サッカー中継を彩る一流の“伝え手”たち

倉敷保雄×下田恒幸が語るサッカー解説者 人気実況アナが「凄みを感じた瞬間」

吉田治良、飯尾篤史
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今回の「好きなサッカー実況アナランキング」で二桁の得票率を誇ったのは、倉敷アナ(写真左)と下田アナ(写真右)の2人だけだ。めったにないという同業者対談からも、その魅力が伝わってきた 【YOJI-GEN】

 近年のサッカー中継で、ファンからの圧倒的な支持を集めているのが、倉敷保雄、下田恒幸の両アナウンサーだ。今回は人気と実力を兼ね備えたスポーツ実況のオーソリティーである2人に、さまざまなタイプのサッカー解説者について語り合ってもらった。説得力があるのは、いつも一番近くで彼らの姿を見ているから。具体的な名前を挙げながら、解説者たちの「素顔と凄み」を教えてくれた。

「曲げてきた」とは、あえて言わない

──お2人は同業者として、お互いをどんな風にご覧になっているんですか?

倉敷保雄(以下倉敷、敬称略) 下田さんは今、トップランナーですから。

下田恒幸(以下下田、敬称略) いやいや、そんなことないですよ(笑)。

──下田さんはいかがですか?

下田 サッカー中継というのは結局“商品”で、そこで倉敷さんは、買いたくなるものをちゃんと出してくれる人なんです。いじり方もうまいし、ネタのかませ方というか拾い方にも、倉敷さんにしかない色がある。だから、まねをしようと思ってもできない。これって、めちゃめちゃすごいことなんです。

倉敷 最近は「下田用語」みたいなのが、あちこちで使われているね。

下田 言葉のチョイスって各々こだわりがあって、僕からすれば倉敷さんにも「倉敷用語」はありますよ。僕はもう何年も、丁寧な日本語であまり使われてない表現はないかな? と常に考えながら、意図をもって言葉を選択するようにしてきましたが、「なんか面白いな」って感覚で借用する同業他者の方もいることはいますね(笑)。でも、これはしょうがない。言葉なんて一度、表に出てしまえば誰のものでもありませんから。僕も若い頃には山本トラさん(元NHKアナの山本浩氏)のフレーズを借用していますし。「曲げてきた!」とかね(笑)。

──使う人、多いですよね。

下田 でも「曲げてくる」って、実は日本語としてはちょっと変なんです。ただ、山本さんは事象を瞬間的に表現するにあたって、その言葉がパッと浮かんでそういう表現をされたんだと思います。それ以降、ほとんどのアナウンサーが使うようになりましたよね。でも僕は今、あえて「曲げてきた」とは言わない。「曲げた」、にしています(笑)。

倉敷 それで言うと、西岡さん(西岡明彦アナ)が発明した言葉で、「柔らかいボール!」っていうのがあるんですけど、僕はちょっと使いづらい。柔らかいがあるなら、硬いがないと本当はおかしいから。

下田 おっしゃる通り。

倉敷 あとは、金子達仁さん(スポーツライター)が発明した「まだある!」。あれは普及したね。

下田「面白い!」って、あれも金子さんですよね? 僕も含めてみんな使ってますよ。

倉敷 困った時に便利なんだけど誰も使わないのは、八塚さん(八塚浩アナ)の「どうだーっ?」ですね。

下田 八塚さん、あれ得意ですよね(笑)。

倉敷「あれが」「これが」「なにが」みたいなのがね。指示代名詞とか連帯語がいっぱい出てくる(笑)。

下田 でも、それも八塚さんの色なんですよね。それが面白いと思わせるところが、またすごいところで。

倉敷 そうそうそう。

下田 結局、売れるかどうかって大事ですよ。良いメロディーの曲とかアルバムって世の中にいっぱいあるけど、たとえばボン・ジョヴィも売れてるからすごいんです。ああいうメロディーを書く他のバンドが、同じように売れないじゃないですか。そこにキャッチーさとか、売れる要素って絶対にあって。実況とか解説者も同じで、そういう意味でも倉敷さんは「売れる人」だって、僕は思ってます。

倉敷 たぶん、下田さんは音感を持ってるのよ、中継のね。

下田 そうですかね。まあ、音楽が好きだからかな。

倉敷 それがウケる要素だと思うんです。八塚さんはそこを七五調でやるの。「見上げたもんだよ 屋根屋のふんどし」(映画『男はつらいよ』の寅さんの口上)って。それぞれに気持ちの良いリズムがあって、あとは好きか嫌いか。

サッカーの言語化に熱心な解説者は──

人気解説者である戸田和幸氏の凄みは、「1本の中継にかけるこだわり」(下田アナ)だ。準備にかける時間が圧倒的だから、試合中に拾えるものの量と質が違うという 【Getty Images】

──お2人ともコンビを組まれる解説者で多いのは、最近だと戸田(和幸)さんとかですか?

倉敷 僕よりも最近は、「戸田&下田コンビ」という感じで、使い手側がこのセットで売り出していますからね。もちろん今も良いコンビですけど、これが「ゴールデンコンビ」と呼ばれるまでになって、このセットを見たいっていう人がもっともっと出てくることが、フットボール文化としても重要なことだから。期待していますよ、僕は。

下田 そうなれればいいですね。

──下田さんは、戸田さんのどんなところがすごいなと感じますか?
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