連載:ラ・リーガセミナー「#TodayWePlay」

サラゴサを変えた「香川フィーバー」 国際的スター加入の反響は計り知れない

工藤拓

香川真司がサラゴサにもたらした影響は大きい。クラブは矢継ぎ早にプロモーション活動を展開していった 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ラ・リーガがスペイン政府の文化機関インスティトゥト・セルバンテス東京と共同で開催するオンラインセミナー「#TodayWePlay」。7月28日の第8回はサラゴサのコマーシャル&マーケティングディレクター、カルロス・アランス氏による講演が行われた。

入団会見は街を挙げての一大イベント

 冒頭でサラゴサの街を紹介したアランス氏は、続いてクラブの歴史やスタジアム、獲得タイトルについて説明。特にアーセナルとの決勝を制した1995年のカップ・ウィナーズ・カップ優勝については当時の映像を流し、延長戦の終了直前に決勝ゴールが生まれた伝説のシーンを丁寧に解説してくれた。

 さらに過去に在籍したフランク・ライカールト、グスタボ・ポジェ、パブロ・アイマール、ディエゴ&ガブリエル・ミリート、リカルド・オリベイラ、そしてフェルナンド・モリエンテス、ダビド・ビジャ、ジェラール・ピケ、アンデル・エレーラといった有名選手を紹介。その上で講演のメーンテーマ、「もうひとりの国際的スター」である香川真司の加入とその影響について語り始めた。

「昨年8月に実現した彼の加入は信じられない出来事でした。計り知れない反響をもたらしたからです。サラゴサ講堂で行った入団会見には100以上のメディアが集まり、その多くは日本からやってきました。直後にはスタジアムでプレゼンテーションが行われ、約7000人のファンが彼を見るために集まりました」

 入団会見では地元の和太鼓サークルのパフォーマンスや「ホタ・アラゴネサ」と呼ばれる伝統舞踊が披露され、本拠地ラ・ロマレダで行われたプレゼンテーションにはスペイン人歌手もゲストとして登場。まさに街を挙げての一大イベントという趣で、アランス氏は「あれは2019年の夏におけるヨーロッパ最大規模のプレゼンテーションでした」と誇らしげに語っていた。

 その後もクラブは香川フィーバーを最大限に生かすべく、次々とプロモーション活動を展開していった。WOWOWで2部の試合放送が決まったことで、ピッチ脇のLED広告ディスプレイを使って「こんにちは、日本のみなさん!」と日本のファンにメッセージを送ったのもそのひとつだ。

 他にも公式HPの日本語サイトや日本語のtwitterアカウントの開設、マフラーやキーホルダー、マグカップといった香川グッズの製作販売、香川グッズ付きの日本人向け観戦パックの販売など、クラブは豊富なアイデアを次々に実行に移している。彼らの決断力の早さは驚くべきもので、香川が加入した一週間後には常勤の日本人スタッフまで雇い始めたたという。

香川からスペイン語でメッセージ

セミナーの最後には、香川がスペイン語であいさつする映像が流れた。参加者が喜ぶサプライズだった 【スポーツナビ】

 また昨年10月にはアランス氏自ら大阪に出向き、観光業界のイベントでクラブとアラゴン州のプロモーションを行っている。そして、その際にアラゴン州観光局との協力体制ができ、帰国後はサラゴサの香川、ウエスカの岡崎慎司が参加するアラゴン州の観光プロモーション映像を制作することになった。ウエスカのセミナーでも一部が紹介された「ダブル・シンジ」の共演作であり、今回アランス氏はふたりのオフショットが満載の貴重なメイキング映像を見せてくれた。

 さらに2月には香川とクラブの協力により、日本の少年チームを招待したフットボール大会「イグザイル・カップ」も開催された。このようにさまざまな社会活動を行っている香川のような選手は、クラブにとってとても重要なのだとアランス氏は言う。

「シンジもサラゴサも、フットボールは社会の一部だという共通の視点を持っています。子供やお年寄りのような人々を気遣える彼のような選手を持つことは、我々にとって重要なことです。なぜなら我々は、選手もチームも社会を映し出す鏡のような存在だと考えているからです。

 フットボールは勝つことがすべてではありません。アラゴン州のリーダーであり、全国的にも重要なスポーツクラブとして、より良い社会を作り上げることも我々の義務だと考えています。シンジ・カガワの加入はその点でクラブを前進させてくれました。彼はフットボールだけでなく、社会のことも考えている人間でだからです」

 その後も講演は香川尽くしの内容だった。香川が地元サラゴサの若者たちとストリートフットボールに興じるヤンマー社のプロモーションビデオ、香川が車内でチームメートと熱唱する動画、チームメートが香川の誕生日を祝うべく「おめでとう」の発音を試みる動画などが紹介され、最後は香川本人がスペイン語であいさつするビデオメッセージで締めくくられた。メッセージの内容は以下の通りだ。

「Hola desde Espana. Instituto Cervantes en Tokio, os envio un saludo desde Espana」(スペインからオラ! 東京のインスティトゥト・セルバンテスへ、スペインからあいさつを送ります)
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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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