イチローが地元ファンに届けた“贈り物” 2012年・マリナーズ日本開幕戦を振り返る

菊田康彦

イチローの4安打の活躍などで、マリナーズが延長11回までもつれるゲームを制した 【Getty Images】

 1回表のマリナーズの攻撃。前年までの定位置だった1番から3番に打順を移したイチローがゆっくりと打席に向かうと、スタンドから大きな拍手が沸き起こるとともに、あちこちからフライング気味にフラッシュがきらめく。2002年の日米野球以来10年ぶり、公式戦では初めてとなるマリナーズのユニフォームでのイチローの“凱旋(がいせん)”。その光景は、日本のファンがいかにこの日を待ちわびていたかの証であった。

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 本来ならば“凱旋”はその9年前に実現していたはずだった。筆者の手元には、今でも『am/pm MLB OPENING SERIES 2003 JAPAN』のロゴと共にイチロー、佐々木主浩らの写真が表紙を飾った公式プログラムが残っているが、2003年に予定されていたこの日本開幕戦は、イラク情勢の悪化により中止となる。イチローはその後、06、09年のワールド・ベースボール・クラシックで日本代表として東京ドームのグラウンドに立つが、「マリナーズ・イチロー」の雄姿を日本で見るという夢は、見果てぬものにすら思えた。

開幕戦4安打はグリフィーに並ぶ球団記録

 そんな長年のファンの夢がかなった2012年3月28日。1回2死から東京ドームの左打席に入ったイチローが、華麗なるヒットパレードの幕を開ける。フルカウントからアスレチックスの開幕投手、ブランドン・マッカーシーの速球をたたきつけると、201センチの長身右腕が差し上げたグラブを越える高いバウンドとなって内野安打で出塁。4回、2番ダスティン・アクリーのソロ本塁打でマリナーズが先制した直後の第2打席では、三遊間へ流し打って持ち前の快足で一塁を駆け抜けた。

 いきなりのマルチヒットで、メジャーデビューから数えて11回の開幕戦(09年は欠場)で積み上げた安打は15本。自身が敬愛するチームのOB、ケン・グリフィー・ジュニアが保持していた開幕戦通算安打の球団記録を更新すると、6回にはマッカーシーから3打席連続の安打をセンター前に運ぶ。8回の第4打席はレフトフライに倒れるも、ヒットパレードは終わらない。

 1対1の同点のまま延長戦に突入し、迎えた11回表。マリナーズがアクリーの適時打で勝ち越し、1死一塁でイチローに5度目の打席が回ってくる。

 スコアボードに映し出された打率は「.750」。アクリーが二盗を決めて得点圏に進むと、外角低めのボールゾーンの変化球を巧みなバットコントロールで中前に弾き返し、貴重な追加点を生み出した。これで4本目のヒットは、1990年のグリフィー・ジュニアに並ぶ開幕戦の球団タイ記録。ドームを埋めた4万4227人の大観衆への贈り物を、また1つ増やした。

岩隈、川崎も“凱旋”

 ところで、この試合で“凱旋”したのはイチローだけではない。

 ともに海外FA権を行使してマリナーズに移籍した岩隈久志(巨人)と川崎宗則(元福岡ソフトバンク)も、日本遠征に帯同。岩隈と川崎の出番はなかったものの、“幻”の来日となった2003年(イチロー、佐々木、長谷川滋利)と同様に3人の日本人選手を擁し、マリナーズが日本のファンに9年越しの開幕戦勝利を届けた。

【お知らせ】21日12時〜2012年マリナーズ開幕戦を復刻配信

 スポーツナビでは「MLB Opening Special 〜名場面復刻配信〜」と題して、過去のMLB名場面・名試合を豪華ゲストとともに振り返ります。

 7月21日(火)12時〜は「アスレチックスvs.マリナーズ(2012年3月28日)」を生配信。

 川崎宗則さん、AKI猪瀬さんをお招きして、当時の裏側やイチローさんの大活躍についてお話いただきます。
 川崎さん、AKIさんへの質問・配信への感想は、Twitterハッシュタグ「#スポナビMLB」まで!

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MLB Opening Special 〜名場面復刻配信〜
アスレチックスvs.マリナーズ(2012年3月28日)
ゲスト出演:川崎宗則、AKI猪瀬
配信開始日時:2020年7月21日(火)12:00
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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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