連載:ラ・リーガセミナー「#TodayWePlay」

バスケクラブが運営、J3鹿児島と提携…バスクの中堅アラベスの生きる道

工藤拓

アラベスは現在、激しい残留争いの真っただ中。1部にとどまれるか 【Getty Images】

 ラ・リーガがスペイン政府の文化機関インスティトゥト・セルバンテス東京と共同で開催するオンラインセミナー「#TodayWePlay」。7月9日の第4回は、デポルティーボ・アラベスを経営するバスコニア-アラベス・グループのチーフビジネスオフィサー、パブロ・オルティス氏による講演が行われた。

サスキ・バスコニアが消滅の危機を救う

 過去3回の講演とは違い、オルティス氏は1時間用意されていたクラブのプレゼンテーションを30分に短縮し、質疑応答の時間をたっぷり設けてくれた。それでも駆け足で行われた彼の講義には興味深い話がいくつもあり、参加者たちは直接質問をぶつけることで、それぞれ興味を持ったテーマを掘り下げていた。

 オルティス氏の講義は次の言葉で始まった。

「私のクラブ、デポルティーボ・アラベスについてお話しさせてください。アラベスは世界で唯一の、プロバスケットボールクラブをオーナーに持つフットボールクラブです」

 アラベスは深刻な経営難に陥っていた2011年、ビトリアのバスケットボールクラブ、サスキ・バスコニアに買収されることで消滅の危機を逃れた。以降、アラベスの経営は元バスケの名手であり、バスコニアをヨーロッパのトップクラブに育て上げた大株主ホセアン・ケレヘタ氏率いるバスコニア-アラベス・グループの手に委ねられている。

「当時3部に低迷していたトップチームが、数年後には1部昇格を成し遂げています。それは我々にとって大きな成功でした」

 オルティス氏は誇らしげにそう言った後、ビトリアの町について以下のように紹介している。

「ビトリアは12年に欧州グリーン首都賞を受賞した都市で、バスク自治州の州都になります。健康的な生活とグルメを愛し、スポーツが盛んな町です。私自身はマラガの出身なんですが、フラメンコなどで知られる南部アンダルシアの典型的スペインというイメージとは異なる文化を持った地域です」

 続いてバスコニア-アラベス・グループのフィロソフィーを紹介するビデオが流れ、講義はバスコニアとアラベス、それぞれのクラブについての説明に入っていく。

 バスコニアはスペインのプロバスケクラブでは最大規模となる1万5504人収容のホームアリーナを持ち、国内リーグ「リーガACB」でナンバーワンの観客動員数を誇る人気クラブ。バスケ版チャンピオンズリーグであるユーロリーグの常連でもある。同リーグが選ぶベストビジネスマネジメント賞を2度受賞しているオーナーのケレヘタ氏は、地元クラブの買収という形で参入したフットボール界においても、バスケ界で培ったスポーツビジネスのノウハウを生かした経営を行っているという。

「バスコニアはNBA外において、最も多くのNBA選手を育ててきたクラブです。我々のフィロソフィーはタレントの早期発掘、トップレベルの選手の育成、そして育てた選手の売却です。我々はこのフィロソフィーをフットボールにも取り入れたいと考えています。フットボール界におけるタレントの発掘、育成ビジネスはバスケ界よりずっと規模が大きいですから」

クロアチア1部クラブ買収、鹿児島と提携

バスコニア-アラベス・グループのチーフビジネスオフィサー、パブロ・オルティス氏 【スポーツナビ】

 その後、オルティス氏がバスコニア-アラベス・グループのスポーツビジネスを紹介していくなかで、特に参加者が興味を示したプロジェクトが2つあった。ひとつはクロアチア1部のフットボールクラブ、NKイストラの経営。もうひとつはJ3に所属する鹿児島ユナイテッドFCとの提携だ。

 18年6月にNKイストラを買収した一番の理由は、先に触れたタレントの発掘と育成だという。

「我々はクロアチア1部のクラブ、プーラを本拠地とするNKイストラ1961の株を85%所有しています。同クラブの経営はさまざまな側面で相乗効果をもたらしているのですが、とりわけ重要なのはタレントの早期発掘と育成です。クロアチアは人口に対するタレントの発生率が世界一高い国です。フットボール界で比較し得るのはウルグアイくらいでしょう」

 一方、鹿児島ユナイテッドとの提携は日本のマーケット開拓の足掛かりという意味合いが強いようだ。オルティス氏は次のように説明している。

「鹿児島は我々が非常に親しくしている、アミーゴのクラブです。オーナーはフットボールに対して我々と似たビジョンを持っているビジネスマンで、長期的視野に立った協力関係を築きたいと考えています。我々にとっても日本にソシオを持つことは重要でした。日本のマーケットに興味がありましたし、世界中のクラブが日本にビジネスチャンスを求めていることを知っていましたから。そこで我々が重視したのは、いちクラブを通して日本社会との関係を築くことです。どうやって社会やファン、スポンサー、行政とのつながりを築けばいいのか、我々が知っているのはここスペインにおけるやり方だけ。だから我々は共通の価値観を持つクラブの協力を得て、その土地のやり方で日本の社会やファン、スポンサー、行政とのつながりを築いていく必要があります。そうすることで、異なる人生観や習慣を持つ日本社会と我々を隔てる壁が低くなる。我々が日本社会に近づくためには、彼らの助けがとても重要なのです」

 その後に行われた質疑応答でもNKイストラと鹿児島ユナイテッド関連の質問が多く、参加者のスポーツビジネスに対する興味の高さがうかがえた。今回オルティス氏は1時間にわたってさまざまな質問に答えたが、それでも時間が足りないほど多くの質問が殺到する盛況のなか、第4回の講義は終了を迎えている。
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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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